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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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119話 不足の現実、解決案

 十一歳の誕生日も無事迎え、穏やかな日常を送っていた。


 決して楽な日常ではなく、毎日がとても忙しい。

 それでも私にとっては、充実した時間だった。


「よし! これで一か月分は大丈夫かな?」


 机の上に並べられた、大量のポーション。


 アトリエで販売する分。

 そして――王城やコルヴァン伯爵領へ納品する分。


 用途ごとに分けられたそれらは、整然と並び――


「……うん、問題なし」


 軽く頷く。


 この量なら、しばらくは持つはずだ。


 最近は、一か月分をまとめて作成し、不足した分だけを後から補充する形にしている。

 無駄な素材の消費を抑えつつ、安定して供給するためのやり方だ。


「あとは、明日王城に納品する分を持って行って……コルヴァン伯爵領宛は、荷馬車に依頼して……」


 指折り確認する。


 抜けはない。


 いつも通り。


 問題もない。


 ――そのはずだった。


 コンコン。


「エレノア様」


 軽いノックと共に、メルの声が響く。


「どうぞ」


 返事をすると、扉が開く。


 入ってきたメルの表情は、いつも通り穏やかで――


 ……ほんの少しだけ、違った。


「護衛の騎士さんが、屋敷に戻ってきてほしいそうです」


「え、なんで?」


「王城から遣いが来ている、と」


「……王城?」


 思わず、手が止まる。


 納品の確認にしては、少し早い。


 それに――わざわざ“屋敷に戻れ”と言うのも引っかかる。


「急ぎのようでした」


 メルが静かに付け加える。


「護衛の方も、少し様子が違っていましたので」


「……」


 嫌な予感が、わずかに胸をよぎる。


 けれど――


「分かった。すぐ戻る」


 迷う理由はない。


 軽く片付けを済ませ、そのまま屋敷へ向かう。


 ――そして。


 応接室の扉を開けた瞬間。


 空気が、違った。


 視線が、自然と集まる。


 そこにいたのは、見慣れた王城の使い――


 そして、その背後に立つ男。


 ただの使者ではない。


 一歩引いた位置にいるにも関わらず、場の中心を握っている。


(……本命は、あっち)


「お待ちしておりました、エレノア様」


 静かな声が響く。


 形式的な言葉。


 だが――


「本日は、王城よりお願いがあり参りました」


 その一言で、空気が張り詰めた。


「エレノア様の製作するポーションを、増産していただきたいのです」


「増産、ですか……」


 その言葉に、わずかに眉をひそめる。


 現在の生産量は、決して少なくない。

 むしろ――限界に近い。


「理由を、お聞きしても?」


 静かに問い返す。


 男は一瞬だけ間を置き――


「最近、あるダンジョンが完全踏破された件をご存じでしょうか」


「……いえ、聞いていません」


 正直に答える。


 ここ最近は、生産に集中していた。


「そうですか」


 小さく頷き、男は続ける。


「毒環境下にある高難度ダンジョン――これまで攻略不可能とされていた場所です」


「……」


 心当たりは、ある。


「その踏破に成功したパーティーが使用していたのが――」


 一拍。


「エレノア様の装備、及びポーションです」


「……ああ」


 納得する。


 あの装備なら、不可能ではない。


 だが――


「それが、増産とどう関係するんですか?」


 疑問は、そこだった。


 装備ならまだ分かる。

 だがポーションは――既に供給している。


 それも、毎日大量に売れたとしても、多少は余る程度には作っている。


 供給不足になるような状況は、想定していない。


(……足りないはずがない)


 そう断言できるだけの量は、確実に用意している。


 だからこそ――


「増産する理由が、分かりません」


 正直に告げる。


 私の中では、その必要性がまるで見えていなかった。


 だが。


「……そうですか」


 男は、小さく頷いた。


 そして――


「では、数字でお話ししましょう」


 空気が、わずかに変わる。


「現在、王城経由で把握している需要は――」


 一拍。


「エレノア様の供給量の、約三倍です」


「……え?」


 一瞬、思考が止まった。


「さ……三倍!?」


「はい」


 あまりにもあっさりと、肯定される。


「ですが、そんなはずは……」


 思わず言葉が漏れる。


 こちらは確かに、余る前提で作っている。

 供給が足りていないとは、到底思えない。


 しかし――


「店頭に並んでいる時間は、どの程度でしょうか」


「……え?」


「販売開始から、完売までの時間です」


「……長くても、半日くらいは――」


 そこまで言って、気づく。


「……いえ、最近はもっと早いかも」


「はい」


 静かに頷く。


「現在は、開店から数時間以内に完売するケースが大半です」


「……」


「さらに」


 一歩、言葉が重くなる。


「市場に出回る前に、予約・取り置きで消える分も増えています」


「……そんなに?」


「加えて、冒険者間での再流通も確認されています」


「再流通……?」


「はい。一度購入されたポーションが、別の冒険者へ高値で転売されている状況です」


「……」


 言葉が、出なかった。


 つまり――


(私の知らないところで、全部消えてる……?)


「表に出ている供給量は、実際の需要の一部に過ぎません」


 淡々と告げられる。


「それを踏まえた上での推定が――約三倍です」


「……」


 完全に、想定外だった。


 余っていると思っていた。

 足りていると思っていた。


 だが現実は――


(全然、足りてない)


「それに加え、救護騎士団への救助要請も増加しています」


 淡々とした口調。

 だが、その内容は重い。


「負傷者の搬送数が増え、ポーションの消費量も急増」


「現在の納品数では――」


 一拍。


「短期間で底をつく状況です」


「……」


 言葉が、出ない。


 つまり。


 これはもう――


(“足りない”じゃなくて、“足りなくなる”じゃない)


(もう、とっくに限界を超えてる)


「そのため、王城としては安定供給の確保が急務となっています」


 静かに、しかし確実に追い込んでくる。


「エレノア様のお力を、お借りしたい」


 真っすぐな眼差しが向けられる。


 だが――


「ごめんなさい……無理です」


 間を置かず、はっきりと答えた。


 空気が、一瞬で凍りつく。


「理由を、お聞きしても?」


 声色は変わらない。

 だが、先ほどよりもわずかに鋭い。


「素材は、なんとかなります」


「でしたら、どうして……」


「現状、この量が限界です」


 はっきりと言い切る。


「これ以上は、生産できません」


「……」


 空気が、静かに重くなる。


「時間ですか?」


「いいえ」


 即座に否定する。


「時間を増やしても同じです」


 視線を落とし、続ける。


「今の工程は、“質を落とさず安定供給するための最適解”です」


「これ以上量を増やすということは――」


 一拍置く。


「どこかの工程を犠牲にするということになります」


「……品質か、効率か」


 男が静かに呟く。


「はい」


 短く肯定する。


「そして私は、どちらも落とすつもりはありません」


 きっぱりと。


 迷いはない。


「……なるほど」


 男は小さく息を吐いた。


 納得した、というより――

 理解せざるを得ない、という表情だった。


「それに」


 私は続ける。


「現状ポーションを作っているのは、私とカイルの二人だけです」


 淡々とした事実。


 だが、その意味は重い。


「到底、人員に余裕があると言える状況ではありません」


「……二人、だけで」


 わずかに眉が動く。


「はい」


 即答する。


 誤魔化しようのない現実だ。


「通常のアトリエ規模であれば、最低でも数人の錬金術師が分担して行う工程です」


「ですが現在は、ほぼ全工程を二人で回しています」


 そこまで言って、静かに区切る。


「これ以上の増産は――物理的に無理です」


 はっきりと断言した。


その言葉に王城からの遣いの人が反論する


「でしたら人員を増やせばいいのでは?」


 その一言に、私は即座に首を振った。


「簡単に言わないでください」


 はっきりとした声音になる。


「私と同じ品質のポーションを作れる人員が、そもそも何人いると思っているんですか?」


「……」


「仮に候補がいたとしても、そこまで育てる期間は考えていますか?」


 一拍置く。


「ポーションは、工程を覚えれば作れるものではありません」


 淡々と告げる。


「素材の扱い、魔力の流し方、反応の安定化」


「そのどれか一つでもズレれば、ただの“薬液”になります」


 視線を上げる。


「それを“戦場で使える品質”まで引き上げるのに、どれだけ時間がかかると思いますか?」


「……」


 王城側の言葉が止まる。


 私はさらに続ける。


「即戦力は存在しません」


「育成には時間がかかります」


「そして今は、その時間すら足りていません」


 静かに、しかし容赦なく結論を落とす。


「なので、“人を増やせば解決する”という前提そのものが成立していません」


 沈黙が落ちたまま、応接室の空気は重く張り詰めていた。


  その時だった。


「――なるほどな」


 それまで一歩引いた位置にいた男が、静かに口を開く。


 声の質が、変わる。


 落ち着いているのに、不思議と場の空気を支配する響き。


「エレノア嬢の現状を考えれば、確かに断られるのも納得だな」


「……」


 一瞬、室内の空気が揺れる。


 ただの同意の言葉のはずなのに――重みが違う。


 私は視線を逸らさないまま、静かに見返す。


「現場を見ずに数字だけで判断すれば、“増やせばいい”となる」


 男は軽く肩をすくめた。


「だが実際はそう単純じゃない」


 その言葉に、護衛の一人が小さく息を呑む。


「品質、工程、そして何より――再現性」


「それらを二人で維持している時点で、すでに異常だ」


 淡々とした評価。


 だがそれは、批判ではなく理解だった。


「無理を強いる話ではないな」


 男はそう結論づけると、視線を少しだけ柔らかくする。


「エレノア嬢」


 名前で呼ばれる。


「君の言い分は正しい」


「そして、その“正しさ”の上に今の供給量が成立している」


 一拍。


「つまり――これ以上は、崩れる」


 静かに言い切った。


 男――陛下は静かに息を吐いた。


「だがな」


 一拍。


「国としても、この生産量ではどうにもならない」


「……」


 空気がわずかに重くなる。


 それは私の言葉を否定するものではなかった。


 むしろ、その“正しさ”を前提にした上での現実だった。


「ダンジョン踏破以降、負傷者の発生頻度は確実に上がっている」


「それに伴い、救護騎士団の出動回数も増加」


「結果として、消耗品の回転速度が供給を上回っている」


 淡々とした説明。


 だが、それは数字ではなく“現場の悲鳴”だった。


「今のままでは、局所的には持っても――全体としては崩れる」


 そう言ってから、陛下はまっすぐ私を見る。


「そこで、提案がある」


「……提案?」


 自然と声が返る。


 命令ではない。


 だからこそ、逆に重い。


 陛下は小さく頷いた。


 一拍。


「孤児院にいる子供たちの中に、錬金術の素養を持つ者がいる」


「……」


 思わず言葉が止まる。


「親に捨てられた、あるいは身寄りを失った子供たちだ」


 淡々とした口調。だが、その内容は重い。


「その中には、まもなく成人を迎える者も多い」


 陛下はまっすぐこちらを見る。


「そこでだ」


「エレノア嬢の条件に合う者を――雇ってもらえないか」


「……」


 一瞬、意味を噛み砕くのに時間がかかった。


「雇用……ですか?」


「そうだ」


 即答だった。


「錬金術の基礎適性がある者を選別し、最低限の教育を施した上で君の元へ送る」


「そして、君の管理下で実務に耐えうる人員へ育てる」


 静かに続ける。


「即戦力ではない。だが、ゼロから育てるよりは現実的だ」


「……」


 視線を落とす。


(人を増やす、ではなく“育てた人を受け取る”形……)


 さっきまでの「簡単に言わないでください」とは、確かに違う提案だった。


 時間も、責任も、王城側がある程度背負っている。


 だからこそ――安易には断れない。


「エレノア嬢」


 陛下の声が少しだけ柔らかくなる。


「君の言う通り、“育成には時間がかかる”」


「それは王城も理解している」


 一拍。


「だからこそ、その時間を無駄にしない形を取りたい」


「……」


 静かに息を吐く。


 孤児院の子供たち。


 行き場を失ったまま大人になる者。


 その中に、才能が埋もれている可能性。


(合理的……ではある)


 そして、完全に間違ってもいない。


 少しだけ目を閉じる。


 再び開くと、まっすぐ陛下を見る。


「……条件があります」


「聞こう」


 即答だった。


「強制ではないこと」


「もちろんだ」


「錬金術の指導方針は、私が決めること」


「問題ない」


 一拍置いて、最後に言う。


「それと――途中で辞める自由も保証してください」


 陛下は一瞬だけ目を細め、そして小さく頷いた。


「当然だ」


 陛下は即答した。


 そして、そのまま一拍置いて続ける。


「他にはあるか?」


 問いかけは穏やかだが、判断を急かす意図はない。


 私は少しだけ考えてから口を開く。


「あとは、できればで構いませんが」


 一度言葉を区切る。


「鑑定を使える人を優先的に雇用したいです」


「鑑定……か」


 陛下が小さく復唱する。


「理由は?」


「錬金術の工程上、素材の状態把握ができる人間は非常に重要です」


 淡々と説明する。


「魔力の偏り、劣化速度、反応適性」


「それらを“目視ではなく確実に把握できる”だけで、失敗率が大きく下がります」


 一拍置いて、続ける。


「教育するより、最初から適性がある方が早いです」


「……なるほどな」


 陛下は小さく頷いた。


 その目には、納得の色がある。


「確かに、現場に寄せた合理だ」


 そして軽く手を上げる。


「その条件も加えよう」


「ありがとうございます」


 短く頭を下げる。


 必要なことだけを積み上げた、静かな合意だった。


 だがその瞬間――


 陛下はふと、わずかに口元を緩める。


「エレノア嬢」


「はい」


「君はいつも“必要なもの”を正確に切り分けるな」


「……そうですか?」


「そうだ」


 静かに言い切る。


「だからこそ、この国は助かっている」


 その言葉に、私は一瞬だけ言葉を失った。


 ――数日後。


 セレスティア伯爵領アトリエ。


「失礼いたします」


 扉の前に、四人の子供たちが立っていた。


 年齢はおよそ十三から十四。


 そのうち二人は、周囲とは明らかに違う空気を持っている。


(……来た、か)


 私は静かに息を吐いた。


 王城からの提案。


 孤児院で育ち、錬金術の適性を持つ子供たち。


 その中から条件に合う者を、こちらで見てほしい――という話だった。


「入ってください」


 扉が開き、四人が中へと足を踏み入れる。


 緊張はしている。


 だが、ただ不安なだけの目ではない。


 そこには、確かに“覚悟”があった。


「俺たちは、王城の紹介で来ました」


 一歩前に出た少年が、はっきりと告げる。


「錬金術の基礎訓練は受けています」


 後ろの三人も、小さく頷いた。


 私は視線を一人ずつ確認する。


(……最低限は揃ってる)


 そこで、静かに口を開いた。


「まず確認します」


 四人の動きが止まる。


「ここは雇用を“検討する”場です」


「採用を約束するものではありません」


 一瞬だけ、空気が張る。


 だが誰も目を逸らさない。


「それでも構いませんか?」


「……はい」


 全員が、揃って頷いた。


 その迷いのなさを見て、わずかに息を吐く。


「では、もう一つ」


 視線を二人の少女へ向ける。


「鑑定は使えますね?」


「……はい」


 少し驚いたように答える。


「もう一人も?」


「……使えます」


 静かな肯定。


(やはり優先条件は満たしている)


 私は小さく頷いた。


「現時点では“候補者”です」


 四人の表情が引き締まる。


「正式な雇用はまだ決めません」


 淡々と続ける。


「これから一定期間、錬金術の適性と作業環境への適応を見ます」


 そして一拍。


「以上です」


 短く区切った。


 本来ならここで説明や契約の話が続くが――


 今回はそこまでではない。


「それと」


 軽く付け加える。


「ここでの評価は、全て次の判断材料になります」


「結果次第では、ここで終わることもあります」


 それだけ告げて、視線を外す。


 四人は一瞬だけ顔を見合わせ――


 すぐに、静かに頷いた。


「では、今日はここまでです」


 私は立ち上がる。


「明日から仮の作業に入ります」


 その言葉で、面談は終わった。


 ――ただそれだけ。


 まだ何も決まっていない。


 けれど。


(……悪くはない)


 私は小さく帳簿を閉じた。


 そして、心の中でひとつだけ思う。


(ここから、か)


 その先の未来は――まだ誰も知らない。
















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