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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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閑話 余りすぎるお金、行き場なし


「うーん……」


 執務室にはエレノアの姿があり、手元の書類や紙の束と睨めっこしていた。


「やっぱり間違っていないみたい……」


 一見、計算が合わなかったりマイナスが出ているかのように思えるが、実態は――


「今月は先月の四倍以上も余っている……」


 ぽつり、と零す。


 その声音に、喜びはない。


 むしろ、困惑の色が濃い。


 机の上に並べられた帳簿。


 収入欄は、明らかに異常だった。


 ポーション販売。


 特注依頼。


 そして――先日の装備一式の納品。


 どれも想定以上の結果を出している。


 その結果が、これだ。


「……使ってないわけじゃないのに」


 視線を落とす。


 研究用の素材。


 設備の維持費。


 人件費。


 最低限ではあるが、支出は確かにある。


 それでも――


「増えてる……」


 はっきりと、断言できる。


 減るどころか、加速度的に増えている。


 ぱらり、と一枚めくる。


 そこに記された総資産額。


「……」


 数秒、沈黙。


「……どうしよう」


 本気で困っていた。


その金額は、間違いなく十年は無収入でも生活できるほどの金額


「このまま行くと国家予算級の金額まで貯まっちゃうよ......」


貯金は有事の際には非常に役に立つためどこの家庭でも多少は貯金をしている


ただしーー


過剰な貯金は同時に王国の経済を停滞させる原因にもなる


「どうにか使い道を見つけないと......」


「どうにか使い道を見つけないと……」


 ぽつりと呟き、帳簿を閉じる。


 このままではまずい。


 自分一人の問題ではなくなる可能性すらある。


(……経済を止めるわけにはいかない)


 真面目に考えている。


 だがその方向性は、やはりどこかずれていた。


 とん、と軽いノック。


「エレノア様」


「メル、ちょうどいいところに」


 顔を上げる。


「相談があるんだけど」


「はい、何でしょう?」


 メルが静かに一歩入ってくる。


 そのまま、差し出された帳簿に目を通し――


「……」


 一瞬、沈黙した。


「……すごいですね」


「そうじゃなくて」


 即座に訂正が入る。


「これ、どう思う?」


「どう、とは……」


「増えすぎ」


「……ああ」


 納得したように小さく頷く。


「確かに、一般的な規模ではありませんね」


「でしょ?」


「ですが」


 メルは、淡々と続ける。


「困る要素は特にないかと」


「ある」


 即答だった。


「このままだと経済が回らなくなる」


「……」


 一瞬、言葉が止まる。


「ええと……どの範囲の話でしょうか?」


「王国」


「……規模が大きすぎますね」


 真顔で返された。


 だがエレノアは至って真剣だった。


「お金は流れないと意味がないから」


「……正論ではあります」


「だから使わないと」


「はい」


「でも使い道がない」


「……はい」


 綺麗に詰んでいた。


 しばしの沈黙。


 そして――


「……では、投資はいかがでしょう?」


「時間がない」


「ですよね」


 即却下。


「寄付は?」


「どこに?」


「……」


「基準が分からない」


「……確かに」


 これも却下。


 さらに沈黙。


 メルは少しだけ考え込み――


「……では、シンプルに“物”へ変換するのがよろしいかと」


「物?」


「はい。いずれ必要になるもの、あるいは資産価値のあるものに」


「……なるほど」


 少しだけ納得する。


「例えば?」


「素材、でしょうか」


 その瞬間。


 思考が一気に繋がる。


「……それなら使う」


「はい」


「無駄にもならない」


「はい」


「研究にも回せる」


「はい」


 完璧だった。


「よし」


 すっと立ち上がる。


「市場に行く」


「……ほどほどにお願いします」


 ほんの一瞬、間があった。


 だがその言葉は、間に合わなかった。


 ――数時間後。


 市場。


「すみません、この素材全部ください」


「え?」


「あと、そっちも」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」


 ざわめきが広がる。


 次々と消えていく在庫。


 並べられていた素材は、あっという間に姿を消していく。


「在庫が足りない!?」


「さっきまであっただろ!?」


「全部あの子だ!!」


 指差された先。


 そこには――


 淡々と素材を選別し続けるエレノアの姿。


「これも、あれも……あ、そっちも必要」


 完全に研究モードだった。


 結果。


 市場の素材在庫は、壊滅した。


 ――その日の夜。


「……使った」


 帳簿を見ながら、ぽつりと呟く。


 確かに使った。


 かなりの額を動かした。


 だが――


 ぱらり、と一枚めくる。


「……増えてる」


 静かに、結論を出す。


「なんで……?」


 本気で分からなかった。


 収入が、それ以上に増えていた。


 装備の噂。


 新規の依頼。


 予約。


 注文。


 全てが、一気に流れ込んできている。


「……どうしよう」


 机に突っ伏す。


 問題は、何一つ解決していなかった。


 むしろ――


「……増えてる……」


 悪化していた。


「こうなったら最終手段をとるしかないわね......」


 ――数日後。


 王都の一角。


 とある孤児院。


「……え?」


 院長が、固まっていた。


 目の前に置かれた書類。


 そこに記された金額は――


「……え?」


 二度見した。


 桁が、おかしい。


 何度見ても、おかしい。


「こちら、確かに受領でよろしいですね?」


 淡々と確認する使いの声。


「い、いえ、その……これは……」


 声が震える。


 寄付。


 それ自体は珍しいものではない。


 だが――


「こ、こんな金額……」


 王都の大規模施設ですら、数年は運営できる額。


 それが、一度に。


「間違いでは……?」


「いえ、ご本人様の指示です」


「ご本人様……?」


「セレスティア伯爵家、エレノア様より」


 その名が出た瞬間。


 空気が止まった。


「……は?」


 理解が、追いつかない。


 その日の夕方。


 王都は、騒然としていた。


「聞いたか!?」


「孤児院にとんでもない寄付があったらしいぞ!」


「金額がやばいって話だ!」


 噂が、一気に広がる。


 商人から貴族へ。


 貴族から王城へ。


 瞬く間に、話は駆け巡った。


「誰がやったんだ?」


「セレスティア伯爵家だ」


「は……?」


「……何したらそんな金額動くんだよ……」


 理解不能。


 だが――


 事実として、記録は残る。


 そして。


「……またあの人か」


 ぽつりと呟かれる。


 ポーション。


 装備。


 そして今回の寄付。


 全てが繋がる。


「規模が違う……」


 誰かが、そう漏らした。


 その頃、当の本人は――


「……少し減った」


 帳簿を見て、呟いていた。


 確かに、減っている。


 目に見えて分かる程度には。


「……これで、少しは落ち着くはず」


 小さく頷く。


 満足げですらあった。


 だが。


 ぱらり、と次のページをめくる。


「……あれ?」


 手が止まる。


「……増えてる?」


 静かに、視線を落とす。


 新規の依頼。


 予約の増加。


 装備の噂による注文殺到。


 結果――


「……増えてる」


 結論は変わらない。


 むしろ。


「……前より増えてる……」


 頭を抱える。


「どうしよう……」


 その悩みは――


 まだまだ終わりそうになかった。


 そしてその裏で。


 王都では、新たな噂が生まれていた。


 ――「セレスティア伯爵家に頼めば人生が変わる」


 その言葉は、半ば冗談のように語られながら――

 しかし、確かな実例を伴って広がっていく。


 命を救うポーション。

 常識を覆す装備。

 そして――孤児院を丸ごと救うほどの寄付。


 どれもが、“やりすぎ”としか言いようのない結果だった。


「もうそれ国家事業だろ……」

「個人の規模じゃねぇ……」


 呆れとも畏怖ともつかない声が漏れる。


 だが。


「……いや、本人は困ってるらしいぞ?」


 ぽつりと、誰かが言った。


「は?」


「金が増えすぎてどうしようって悩んでるって」


 一瞬の沈黙。


 そして――


「意味が分からん」


 満場一致だった。


 その頃、当の本人は。


「……次はどこに使おう……」


 真剣な顔で帳簿と睨めっこしていた。


 問題は、何一つ解決していない。


 むしろ――


「……増えてる……」


 確実に、悪化していた。


 ――その悩みが解消される日は。


 まだ、しばらく来そうになかった。




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