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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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106話 ギルドの交渉、割れる意見①

 冒険者ギルドのギルドマスターたちが、私のお店にやってきてから五日後――


 王城にて正式な交渉が行われることになり、私は王城へと向かっていた。


 今回の件は、もはや一店舗の問題ではない。

 王城とギルド、双方が関わる“案件”へと発展している。


 お店の方は、カイルとリリアに任せている。

 放課後には、アメリアお姉さまも手伝いに来てくれる予定だ。


 ……正直、そっちの方が気がかりではあるけど。


 あの様子だと、今日も普通に売れているだろうし。


 ――いや、むしろ。


 “普通じゃない売れ方”をしている可能性の方が高い。


「……はぁ」


 小さく息を吐く。


 考えたところで、今はどうにもならない。

 今、向き合うべきは――目の前の問題だ。


 視線を上げる。


 重厚な門、その先に広がる王城。


 何度か訪れたことはあるけれど――

 今日は、少しだけ意味が違う。


 “招かれた”のではなく、

 “呼び出された”に近いのだから。


「エレノア様、こちらへ」


 控えていた案内役に促され、足を進める。


 向かう先は――王城内の会議室。


 扉の前には、すでに王城側の人間が控えていたが――

 ギルドの者たちの姿は、まだない。


 どうやら、こちらが先に通される形らしい。


 ――つまり。


 事前に、すり合わせがあるということ。


 小さく息を吐く。

 これはこれで、気が抜けない。


 静かに、扉の前で足を止める。


 ほんの一瞬だけ、呼吸を整え――


 私は、その扉を開いた。


 ――空気が、変わった。


 踏み込んだ瞬間、肌でわかる。


 視線が、一斉にこちらへと向いた。


「……」


 思わず、足が止まりかける。


 中にいたのは――

 この国の中枢を担う、重鎮たち。


 軍部の上層。

 財務を司る者。

 法を管理する者。


 名前だけは知っている顔ぶれが、ずらりと並んでいた。


 どれも、“ここにいて当然の人たち”。


 ――そして。


 “ここにいてはいけないはずの自分”。


「エレノア様、こちらへ」


 案内役の声に、意識を引き戻される。


 半ば流されるように歩みを進める。


 長い机。


 その中央へと――


「……え?」


 思わず、声が漏れた。


 示された席は。


 ――ど真ん中。


 上座。


 どう考えても、私の席ではない。


「……あの、席を間違えていませんか?」


 小声で確認する。


 だが返ってきたのは、迷いのない答えだった。


「いえ。エレノア様のお席はこちらでございます」


「……」


 逃げ道は、ないらしい。


 ちらりと周囲を見る。


 誰一人として、異議を唱える様子はない。

 むしろ――当然、と言わんばかりの空気。


 ……いや、待ってほしい。


 当然ではない。

 絶対に違う。


 内心で全力否定しながらも、表には出さないように努める。


 ゆっくりと席へ向かい――

 腰を下ろした。


「……」


 背筋を伸ばす。


 視線が、重い。

 圧が、すごい。


 そして何より――


 完全に、場違いだ。


 ――どうしてこうなった。


 心の中でだけ、小さくため息をつく。


 けれど。


 もう席についてしまった以上――逃げることはできない。


 交渉の主役は、これから来るギルド側。


 だが。


 その“対面”に座っているのは――


 間違いなく、自分だ。


 困惑を押し殺しながら。


 私は、静かにその時を待った。


20分ぐらい経っただろうかーー


冒険者ギルド側の人たちが到着したようだと報告が会議室にいる人たちに伝えられた。


そしてーー


 ――コン、コン。


 重い扉が叩かれる。


「……来たか」


 誰かが、小さく呟いた。


 空気が、わずかに張り詰める。


「入れ」


 短い許可の声。


 それに応じるように、扉がゆっくりと開かれた。


 ――入ってきたのは、二人。


 一人は前回お店で会ったので覚えていたが、もう一人は完全に初対面だった。


 だが、立ち振る舞い方や無駄のない所作で、ギルドマスターよりも上に立つ人間であるということは――


 嫌でも、理解させられた。


 足音一つで、空気が変わる。


 視線が自然と集まり、そして誰もが無意識に道を空ける。


 ――格が違う。


 言葉にするまでもなく、それが“答え”だった。


 その男は、ゆっくりと室内を見渡し――


 そして。


 私のところで、視線を止めた。


「……」


 ほんの一瞬。


 値踏みするような沈黙。


 逃げるように視線を逸らすことは、できなかった。


 逸らしてはいけないと、本能が告げていた。


 数秒後。


 男は、わずかに口元を緩める。


「……なるほど」


 低く、納得するような声。


「話には聞いていたが――」


 一歩、踏み込む。


 それだけで、場の空気がわずかに揺れる。


「これが、“噂の錬金術師”か」


 その言葉が、静かに落ちた。


 否定の声は、どこからも上がらない。


 上がるはずもない。


 そのまま二人は、用意された席へと向かう。


 長机を挟み――


 真正面。


 対峙する位置。


 椅子が引かれる音が、やけに大きく響いた。


 全員が席につく。


 逃げ場は、完全に塞がれた。


 静寂。


 張り詰めた空気。


 その中心で――


「では」


 王城側の一人が、口を開く。


「これより、協議を開始する」


 その一言を合図に。


 王城とギルド。


 そして――


 私を挟んだ交渉が、幕を開けた。


 全員が席につき、わずかな静寂が落ちる。


 先に口を開いたのは――ギルド側だった。


「――まずは、名乗らせていただこう」


 低く、よく通る声。


「セレディア王国冒険者ギルド組合統括ギルドマスター、ヴァルクスだ」


 名乗りと同時に、わずかに空気が引き締まる。


 やはり、ただ者ではない。


 続けて、その一歩後ろにいた男が口を開く。


「王都冒険者ギルドマスター、ガルドだ」


 短く、だが無駄のない自己紹介。


 店で見た時と同じ人物。


 けれど、その声色はあの時よりも遥かに硬い。


 場が違う――それだけで、ここまで変わるのか。


「……」


 視線が、こちらへと向けられる。


 自然と、息を整える。


 ここで言葉を濁すわけにはいかない。


「エレノアのアトリエ店主のエレノア・フォン・セレスティアです。」


 視線が、わずかに動いた。


 “店主”という言葉に反応したのか。


 それとも――名前にか。


 どちらにせよ。


 この場において、その名乗りはあまりにも軽い。


 ……本来ならば。


「……なるほど」


 ヴァルクスが、わずかに目を細める。


「あの噂のセレスティア伯爵家が運営するアトリエか……」


 ヴァルクスの言葉に、場の空気がわずかに揺れる。


 だが、その視線はすぐに私から外れ――王城側へと向けられた。


「では、本題に入ろう」


 遠回しな前置きは、一切ない。


 その一言で、この場の主導権を握ろうとしているのがわかる。


「我々としては単純だ」


 指を組み、机の上に置く。


「貴殿らが把握している通り、そのポーションは既存の常識を逸脱している」


「……」


 否定する者はいない。


 できるはずがない。


 実物を見て、確認しているのだから。


「であれば――その運用は、限定すべきではない」


 はっきりと、言い切る。


「冒険者ギルド全体での使用を求める」


 その瞬間――


 空気が、変わった。


 ピリ、とした緊張が走る。


 予想通りの主張。


 けれど――


「……それは認められないな」


 すぐさま、王城側から声が上がる。


 低く、抑えた声。


 だがその中にあるのは、明確な拒絶。


「現状の制度を見ればわかるだろう」


 別の人物が続ける。


「流通の管理、使用の制限――すべては“制御”のためにある」


「それを、無制限に解放するなど……国家として到底容認できん」


「ほう?」


 ヴァルクスが、わずかに片眉を上げる。


「無制限、と言った覚えはないが?」


「同義だ」


 間髪入れずに返される。


「ギルド全体での運用など、事実上の全面解放と変わらん」


 言葉がぶつかる。


 静かなのに、確実に熱を帯びていく。


「――ならば、こちらも言わせてもらおう」


 今度はガルドが口を開いた。


「現場の人間が使えない“高性能資源”に、どれほどの意味がある?」


 その言葉には、実感が乗っている。


「命を賭けているのは、我々だ」


「王城ではない」


 場の空気が、一段階重くなる。


 露骨な対立構造。


 誰もがそれを理解している。


「感情論だな」


 王城側の一人が、冷たく切り捨てる。


「……そう見えるか?」


 ガルドの声が、わずかに低くなる。


「現場を知らない者には、そう見えるだろうな」


「貴様――」


「やめろ」


 短く制したのは、ヴァルクスだった。


 一言で、空気が引き締まる。


「我々は喧嘩をしに来たわけではない」


 そう言いながらも、その視線は鋭いまま。


 そして――


「だが、譲るつもりもない」


 静かに、言い切った。


 沈黙。


 数秒の、重い間。


 その後――


「……では、こういう案はどうだ」


 王城側の別の人物が、口を開く。


「国内に限り、限定的な運用を認める」


「使用者、流通量、用途――すべて管理下に置く形でな」


 いわゆる、“妥協案”。


 完全拒否ではない。


 だが――


「足りんな」


 即答だった。


 ヴァルクスは一切迷わない。


「範囲が狭すぎる」


「話にならん」


 その言葉に、再び空気が張り詰める。


 王城側の一部が、わずかに表情を変えた。


 ――反対派と、容認派。


 同じ王城の中でも、意見が割れているのが見て取れる。


 そして。


 その中心にいるのは――


「……」


 私、だった。


 視線が、再び集まる。


 王城。


 ギルド。


 どちらでもない、“供給元”。


 この場で唯一――


 どちらにも決定的な影響を与えられる立場。


 逃げ場はない。


「……エレノア殿」


 ヴァルクスが、静かに口を開く。


「貴殿の意向を、聞こうか」


 その一言で――


 場の主導権が、一斉にこちらへと傾いた。


「――まず、前提としてお伝えします」


 静かに、口を開く。


 全員の視線が、突き刺さる。


「このポーションの“全面的な解放”には、反対です」


 空気が、止まった。


 ギルド側の視線が、鋭くなる。


 だが――


 構わない。


 私は、そのまま続けた。


「それと同時に」


 一拍。


 わざと、間を置く。


 全員の意識を、引き寄せて――


「現状の制度のまま管理することにも、反対です」


 今度は、王城側の空気が揺れる。


 そして。


 その両方を見渡して――


 私は、言った。


「――なので」


 ほんのわずかに、口元を緩める。


「この前提、全部なしで進めましょう」


 ――静寂。


 誰も、言葉を発しない。


 理解が、追いついていない。


 当然だ。


 今、私は――


 この場の“前提そのもの”を、否定したのだから。


――静寂。


 誰も、言葉を発しない。


 理解が、追いついていない。


 当然だ。


 今、私は――

 この場の“前提そのもの”を、否定したのだから。


「……は」


 最初に、空気を揺らしたのは――ヴァルクスだった。


 小さく、だが確かに漏れた笑い。


「面白い」


 低く、愉しむような声。


 その一言で、場の空気がわずかに変わる。


「つまり貴殿は――」


 指を組んだまま、わずかに前へと身を乗り出す。


「“王城の管理下にも置かず”、かつ“ギルドにも渡さない”と、そう言っているわけだ」


 言葉にされたことで、ようやく理解が広がる。


 ざわ、と空気が揺れた。


「な――」

「それは……」


 王城側から、困惑の声が漏れる。


 当然だ。


 どちらにも属さない。


 それはすなわち――


 “どちらも掌握できない”ということなのだから。


 けれど。


「違います」


 私は、静かに首を振った。


 視線を、まっすぐヴァルクスへ向ける。


「どちらにも渡さない、ではありません」


 一拍。


 そして。


「――どちらにも、“選ばせる”んです」


 再び。


 場が、凍りついた。


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