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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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98話 王城会議、アトリエ計画

もしかしたら明日投稿お休みするかもしれません。


 季節は、夏本番――。


 朝から日差しが眩しく、じりじりと照りつける熱気が肌を刺す。


 お兄様たちが通う魔法学院は夏季休講となり、屋敷にはゆったりとした時間が流れていた。


 そんな中――


「エレノア様! そろそろ王城へ行く時間ですのでお急ぎください!」


 リリアの声が室内に広がる。


「は、はいっ、今行きます!」


 慌てて返事をしながら、私は机の上に広げていたメモをまとめる。


 このメモには、以前カイルやメルと話し合った際に出た案がいくつも書き留められており、今日の話し合いで使うとても大切なものだった。


 設備配置の案に、動線の整理。


 メルが開きたいと言っていたお店の構想や、薬草畑の区画分け。


 どれも、考えるだけで気持ちが高ぶるのが自分でもわかる。


(……楽しみ、だな)


 自然と口元が緩む。


 ただ“用意された場所”ではなく、自分たちで考えて作り上げていく場所。


 そこに誰かの想いが重なっていく。


  それが、こんなにも嬉しいなんて。


 メモを胸元で軽く抱え直し、私は小さく息を吐いた。


「エレノア様! そろそろお着替えをしますのでお早めにお願いします!」


「わかりました!」


 そう返事をし、自室へと向かう。


 廊下を歩きながら、手元のメモにもう一度視線を落とす。


 見慣れた文字。


 カイルの少し大きめの字に、メルの丸い文字。


 それぞれの案が並んでいる。


(……やっぱり、いいな)


 自然と頬が緩む。


 みんなで考えたものが形になる。


 それだけで、胸の奥が温かくなる。


 自室へと入り、リリアやメルに着替えを手伝ってもらう。


「今日は少し軽めの装いで大丈夫ですよ」


 リリアがそう言いながら、用意された服へと手を伸ばす。


「ですが、王城ですので最低限の礼は必要です」


「はい」


 頷きながら袖を通す。


 今日は、畏まった服装でなくてもいいとのことだったが――


 やっぱり王城で陛下にお会いする以上、こういうところはきちんとしておかないといけない。


 そう思いながら、鏡に映る自分の姿を確認する。


「とてもお似合いです、エレノア様」


 メルが嬉しそうに言う。


「ありがとうございます」


 少しだけ照れながら微笑む。


 整えられていく身だしなみ。


 背筋が自然と伸びる感覚。


 ――うん、大丈夫。


 そう小さく頷いて、私は次の準備へと意識を向けた。


「それでは、参りましょうか」


 リリアの言葉に頷き、私は部屋を後にする。


 門へ向かう途中、お兄様とお姉さまに声を掛けられる。


「王城に行くの?」


「うん」


お姉さまの問いに頷くと、お兄様が腕を組んだままこちらを見る。


「遅れないようにしろよ」


「はい」


 短く返事をすると、お兄様はふっと視線を逸らした。


「あまり無理しないでね? エレノアはすぐ無理するから」


 お姉さまが少し心配そうに言う。


「そんなことないですよ」


 思わず小さく笑ってしまう。


「あります」


「あるな」


 間髪入れずに返ってくる二人の言葉。


「……えっと」


 言葉に詰まる。


 そんなに無理しているつもりはないのだけれど。


「まあ、気をつけます」


 そう答えると、お姉さまは満足そうに頷いた。


「それでいいのよ」


「何かあったらちゃんと言えよ」


 お兄様がぶっきらぼうに言う。


「はい」


 その言葉に頷く。


 こうして心配してくれるのが、少しだけくすぐったくて――


 でも、とても嬉しい。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


 二人に見送られながら、私は門へと向かった。


  屋敷の門を抜けると、すでに馬車が用意されていた。


 周囲には護衛の騎士たちが配置につき、いつも通り隙のない体制が整えられている。


 少し大げさにも思える光景だけれど――


 これが今の“いつも通り”。


「エレノア様、こちらへ」


 カイルが一歩前に出て手を差し出す。


「ありがとう」


 その手を借りながら、私は馬車へと乗り込む。


 続いてメルが乗り込み、最後にカイルが中へと入る。


 扉が静かに閉じられ――


「それでは、出発いたします」


 御者の声とともに、馬車がゆっくりと動き出した。


 屋敷の門を抜けると、すでに馬車が用意されていた。


 周囲には護衛の騎士たちが配置につき、いつも通り隙のない体制が整えられている。


 少し大げさにも思える光景だけれど――


 これが今の“いつも通り”。


「エレノア様、こちらへ」


 カイルが一歩前に出て手を差し出す。


「ありがとう」


 その手を借りながら、私は馬車へと乗り込む。


 続いてメルが乗り込み、最後にカイルが中へと入る。


 扉が静かに閉じられ――


「それでは、出発いたします」


 御者の声とともに、馬車がゆっくりと動き出した。


 石畳を進む規則的な音が、車内に静かに響く。


 窓の外には見慣れた街並みが流れていくが、今日はどこか違って見えた。


 胸の奥にある期待と、少しの緊張のせいだろうか。


「大丈夫ですよ、エレノア様」


 向かいに座るカイルが穏やかに言う。


「準備は万全です」


「そうね」


 隣のメルも優しく微笑む。


「エレノア様なら、きっと上手くいきます」


 二人の言葉に、自然と肩の力が抜ける。


「ありがとう」


 小さく息を吐き、私は膝の上のメモに手を添えた。


 ――大丈夫。


 やるべきことは、もう決まっている。


 やがて馬車は街の中心部を抜け、視界が開けていく。


 その先に現れたのは――


 白くそびえ立つ王城。


 高い城壁と、風にはためく王国の旗。


 何度見ても圧倒される光景に、思わず息を呑む。


 馬車は減速し、そのまま正門へと向かっていく。


 厳重な警備の中、門が開かれ――


 静かに王城の敷地内へと入っていった。


 やがて建物の前で馬車が止まる。


「到着いたしました」


 扉が開かれ、外の空気が流れ込む。


 先に降りたカイルが手を差し出す。


「どうぞ」


「ありがとう」


 その手を借りて地面へと降り立つと、すぐにメルも隣に並んだ。


 正面にそびえる王城の入口。


 磨き上げられた扉と、整然と並ぶ衛兵たち。


 その空気に、自然と背筋が伸びる。


「行きましょう」


 カイルの言葉に頷き、私たちは中へと足を踏み入れた。


 広いエントランス。


 高い天井と、赤い絨毯が奥へと続いている。


 すでに案内役の騎士が待機しており、軽く一礼した。


「お待ちしておりました。こちらへ」


 その言葉に従い、私たちは廊下を進む。


 磨かれた床に足音が静かに響く。


 いくつもの扉を横目に通り過ぎ――


 やがて、一際重厚な扉の前で足が止まった。


「こちらが会議室となります」


 騎士がそう告げ、扉に手をかける。


 ゆっくりと開かれていく扉。


 その先へと視線を向けながら――


 私は小さく息を整えた。


 そして、


 一歩、前へと踏み出した。


 一歩、前へと踏み出した。


 会議室の中は、外の静けさとはまた違った張り詰めた空気に満ちていた。


 長い机の奥――


 最も上座に座るのは、陛下。


 その隣には宰相、そして財務大臣。


 さらに少し離れた位置には――


「お父様……」


 思わず小さく呟く。


 視線に気づいたのか、お父様がわずかに目を細めた。


 厳格な場でありながら、その仕草にほんの僅かな安心感が滲む。


「――来たか」


 陛下の低く落ち着いた声が、室内に響いた。


 自然と背筋が伸びる。


 挨拶をしようと一歩踏み出した、その時――


「よい、エレノア嬢には色々世話になっておる。そんなに畏まらず、気を楽にしてくれ」


 先にそう言葉をかけられ、思わず動きが止まる。


「ですが……」


 この場で礼を省くのは、どうしても躊躇われる。


 けれど、


「構わぬ」


 穏やかでありながら、有無を言わせぬ声音。


 その一言で、これ以上言葉を重ねることはできなかった。


「……承知いたしました」


 軽く頭を下げるに留める。


 完全に礼を省くことはできなかったけれど、それでも陛下の言葉に従う形を取る。


「うむ、それでよい」


 満足げに頷く陛下。


 その様子に、少しだけ肩の力が抜けた。


「さて――」


 宰相が静かに口を開く。


「本題に入ろうか」


 その言葉に、室内の空気がわずかに引き締まる。


 私は手元のメモを開き、小さく息を整えた。


 そして――


「本日は、アトリエおよび関連施設の設計についての会議を開始いたします」


 お父様がそう宣言し、会議がスタートした。


 机上に並ぶ資料へと視線が集まる。


 私はゆっくりと息を整え、手元のメモを開いた。


「では、私からいくつか提案させていただきます」


 声が震えないように意識しながら、言葉を紡ぐ。


「まず、薬草畑の設置についてですが――」


 その瞬間、


「待っていただこう」


 宰相の一言が、静かに場を制した。


「取り扱う薬草の内容次第では、国家機密に該当する可能性がある」


 空気が一段、重くなる。


「栽培地そのものが情報となり得る以上、外部に近い施設への設置は好ましくない」


 理路整然とした指摘。


 反論の余地は、ほとんどない。


「……承知いたしました。薬草畑の設置は見送ります」


 唇を引き結びながらも、そう結論を出す。


 悔しさはある。


 けれど――これは、必要な判断。


「では次に、水生植物の栽培用の小川についてです」


 気持ちを切り替え、次の案へ。


「安定した水質管理を前提として――」


「それについては」


 お父様が言葉を引き取る。


「セレスティア家の庭を利用する方が合理的だろう」


「……庭、ですか?」


「ああ。未使用区画が広く残っている。加えて、管理・警備の両面で優位だ」


 確かに、わざわざ新設するよりも――


「……そちらの方が安全性も高いですね」


「うむ」


 宰相も頷く。


「では、小川はセレスティア家側で整備する方向で進めよう」


 自然と決定が下る。


 私は一つ頷き、次へ進んだ。


「続いて、店舗の設置についてです」


 メルへと視線を向ける。


「販売機能を持たせた施設を併設し、メルが運営の中心となる形を考えています」


 一瞬の静寂。


 だが――


「良い」


 口を開いたのは財務大臣だった。


「収益構造が明確になる。単なる研究施設に留まらない点は評価できる」


「うむ、問題あるまい」


 陛下も即座に頷く。


 予想以上に、手応えのある反応。


「ありがとうございます」


 胸の奥に、わずかな安堵が広がる。


「次に、従業員用の宿舎ですが――」


 言葉を続けると、


「そこは保留だな」


 宰相が即断する。


「規模、配置、警備体制。いずれも設計の詳細が出揃ってからでなければ判断できん」


「……承知いたしました」


 一通り説明を終えたところで、


「では、こちらからも提案を」


 お父様が静かに口を開く。


「セレスティア家とアトリエを繋ぐ転移門の設置を行いたい」


 その一言に、空気がわずかに張り詰める。


「管理はセレスティア家が責任を持つ。移動時間の短縮、緊急時の対応、いずれも大きな利点となる」


「……合理的だな」


 宰相が短く評価する。


「うむ、許可しよう」


 陛下が即座に結論を下した。


 続けて、


「設備についてだが」


 宰相が資料をめくる。


「アトリエの設備は、屋敷と同規模――いや、それ以上を前提に設計する」


「……それ以上、ですか」


 思わず言葉が漏れる。


「中途半端な設備では意味がない。最高水準でなければな」


「……異論はありません」


「では、それで進める」


 重く、確かな決定。


 そして最後に――


「人員についてだが」


 陛下が静かに口を開いた。


「我の旧友が経営する商会と提携し、従業員を派遣させよう」


「教育も行き届いておる。問題はあるまい」


「ありがとうございます」


 迷うことなく頭を下げる。


 これ以上ない支援。


 計画は、着実に形を帯びていく。


 ――けれど。


「……一つ、よろしいでしょうか」


 控えめに手を挙げたのは、財務大臣だった。


 わずかに険しい表情。


「ここまでの内容を踏まえますと――」


 資料をめくる音。


「建設費が、かなりの規模になります」


 静かな一言が落ちる。


「転移門の設置、屋敷同等以上の設備、さらに人員の確保と運用費……加えて、店舗運営の初期投資も含めますと」


 そして、


「……相当な額になりますが」


 室内に、微妙な沈黙が落ちた。


 ――あ。


 思わず視線が泳ぐ。


 ここまで順調に進んでいた流れに、現実が追いついてきた。


「ふむ」


 陛下が腕を組む。


 わずかな間。


 そして――


「予算については、余がなんとかしよう」


 あっさりと、そう言い切った。


「……は?」


 誰かの小さな声が漏れる。


「必要な投資だ。将来的な利益と価値を考えれば安いものよ」


 穏やかに、しかし迷いなく。


「しかし、財源の調整が――」


「そこも含めて余が見る」


 ぴしゃり、と言い切られる。


 完全に、話が終わった。


「……承知いたしました」


 財務大臣が静かに頭を下げる。


 どこか諦めを含んだその様子に、場の空気がわずかに緩んだ。


 それ以降の議論は――


 驚くほどスムーズに進んだ。


 細部の確認をいくつか終え、


「では、この内容で進める」


 宰相が締めくくる。


「異論はない」


 陛下が頷き、


 お父様も静かに同意する。


「……はい、問題ありません」


 私も頷いた。


「よろしい。これにて本日の会議は終了とする」


 その一言で、会議は幕を下ろした。


 ――トントン拍子に、決まってしまった。


 胸の奥に残るのは、達成感と――


 ほんの少しの現実感の薄さ。


 けれど。


 私はメモをそっと閉じる。


 そこに書かれていた“案”は、もう“計画”になった。


 そして、


 その計画は――


 王の一言で、予算ごと押し切られた。


 ……うん。


 規模が、とんでもないことになった気がする。

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