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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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94話 回復の先、違和感の正体


「これどうする……?」


 昼食後、再び屋敷奥の実験室に戻ってきた私たちは、机の上に置かれた数本のポーションに視線を注いでいた。


 静かな室内。


 淡い光を帯びた液体が、ガラス越しに揺れている。


「どうする、とは」


 カイルが静かに問い返す。


「まず、第一に再現性があるのか」


 私は、指を一本立てる。


「第二に、どう検証するか」


 そのまま続ける。


 迷いのない、整理された言葉。


「……的確かと」


 カイルが小さく頷いた。


「現状、その二点が最優先事項でしょう」


「でしょ?」


 軽く返しながら、視線をポーションへ落とす。


「問題は――」


 一拍置く。


「どう検証するか」


「……はい」


「ルーカスお兄様がいない以上、大きいのは無理」


「重度損傷の検証は困難です」


「だよね……」


 実験室内に、大きなため息が広がった。


 しばしの沈黙。


 最適な検証ができない。


 それは分かっている。


 けれど――


「……でも、その前に」


 小さく呟く。


「前に、ですか?」


 カイルが視線を向ける。


「再現性」


 短く言い切る。


「これが一番先」


「……確かに」


 カイルが頷いた。


「同一条件下で同様の結果が得られるかの確認は、最優先事項です」


「でしょ?」


 軽く返しながら、ポーションへと視線を落とす。


「これ、一回だけの偶然だったら意味ないし」


「はい」


「だから――もう一回作る」


 迷いなく言い切る。


「同条件での再現実験、ですね」


「うん」


 頷く。


「材料も、手順も、全部同じ」


 視線を棚へ向ける。


 並ぶ薬草。


 そして――


「マンドラゴラの根も、同じロットから使う」


「徹底していますね」


「当たり前」


 短く返す。


「ここでズレたら意味ない」


「……承知しました」


 カイルはすぐに動き出した。


「材料の準備を行います」


「私もやります!」


 メルも続く。


「ありがとう」


 小さく頷き、こちらも準備に入る。


 手順は、すでに頭の中にある。


 さっきと同じように。


 一つも狂わせないように。


「……」


 素材を手に取りながら、意識を集中させる。


 これは確認。


 偶然か、必然か。


 それを見極めるための――


「――再現実験、開始」


 静かに呟いた。


 棚から、マンドラゴラの根を取り出す。


 先ほどと同じもの。


 同じ保管状態。


 同じ大きさ。


「……これでいい」


 小さく確認するように呟く。


「他の素材も、同条件で揃えました」


 カイルが静かに告げる。


「ありがとう」


 軽く頷く。


「……じゃあ、いくよ」


 深く息を一つ。


 手順は、すでに頭の中にある。


 さっきと一切変えない。


 変えてはいけない。


「まずは下処理」


 マンドラゴラの根を手に取る。


 無駄なことはしない。


 目的はただ一つ――


 本来の成分を、できる限りそのまま引き出すこと。


 軽く整え、状態を均一にする。


 それだけ。


「……よし」


 次に、他の素材と合わせて細かく刻んでいく。


 包丁のリズムは一定。


 力加減も、角度も、意識して揃える。


 繊維を潰しすぎないように。


 けれど、抽出しやすいように。


「準備、できました」


 メルが声をかける。


「ありがとう」


 刻んだ素材を、ビーカーへ移す。


 そこに――純水を加える。


 量も、温度も、前回と同じ。


「加熱開始」


 火を入れる。


 じわりと温度が上がっていく。


 急がない。


 焦らない。


 ゆっくりと、成分を引き出すように。


「……」


 色が、わずかに変わる。


 前回と同じ変化。


 同じタイミング。


「攪拌」


 静かに混ぜる。


 均一に。


 崩さないように。


 揺らしすぎないように。


 すべてを揃える。


「……ここまでは、同じ」


 小さく確認する。


 ズレはない。


 問題ない。


「エレノア様」


 カイルが声をかける。


「……うん」


 分かってる。


 ここからが、一番重要。


 呼吸を整える。


 意識を一点に集中させる。


「――いくよ」


 魔力を、流し込む。


 無理に押し込まない。


 馴染ませるように。


 全体を包み込み、一つにまとめるように。


「……」


 反応は、穏やか。


 けれど確実に変化している。


 散っていたものが、集まり。


 まとまり。


 整っていく。


 前回と――同じ流れ。


「……」


 わずかな差異も、見逃さないように観察する。


 色。


 粘度。


 魔力の流れ。


 すべて――一致している。


「……最後」


 軽く攪拌。


 状態を安定させる。


 余計な揺らぎを整える。


 そして――


「……完成」


 静かに呟く。


 視線を、ビーカーへ落とす。


 そこにあるのは――


 前回と、同じ見た目の液体。


「……」


 数秒、見つめる。


 そして、


「――鑑定する」


 そう呟き、完成したポーションに意識を集中させる。


【鑑定結果】

名前:ポーション

品質:最高品質

備考:ローポーションより性能が高い

   回復力はかなり高いが、欠損部位をくっつけることはできない

   味はほんのり甘く、子供でも飲めそう

   回復量はハイポーションと同等で継続回復効果と傷跡が残りにくくなる効果がある


「……」


 沈黙。


 もう一度、視線をポーションへ落とす。


「……同じ、だね」


 ぽつりと呟く。


「はい」


 カイルが頷く。


「品質、効果ともに前回と一致しています」


「ってことは――」


「再現性は確認できたと見てよろしいかと」


「うん」


 小さく息を吐く。


 一回だけの偶然じゃない。


 ちゃんと、同じものが作れる。


「……よかった」


 そう言いながらも、完全に安心したわけじゃない。


 むしろ――


「……でも」


 違和感。


 さっきから、引っかかっているもの。


「どうかされましたか?」


「この結果」


 指で軽く示す。


「おかしくない?」


「……と言いますと」


「“ハイポーションと同等”って書いてあるのに」


 一度、言葉を切る。


「継続回復と、傷跡軽減が付いてる」


「……確かに」


 カイルの目がわずかに細まる。


「通常、同等性能に追加効果が付与されることは稀です」


「でしょ?」


 小さく頷く。


「しかも、品質は最高品質」


「はい」


「なのに、名前はただの“ポーション”」


「……」


 一瞬の沈黙。


「ちぐはぐ、だよね」


 ぽつりと呟く。


 性能だけ見れば、明らかに上。


 けれど分類は、そのまま。


「……現行の鑑定基準では、分類しきれていない可能性があります」


 カイルが静かに言う。


「……つまり?」


「既存の枠に収まっていない、ということです」


「……新種、ってことか」


「その可能性が高いかと」


「……そっか」


 小さく呟き、改めてポーションへと視線を落とす。


 見た目は変わらない。


 けれど――


「……ちゃんと、変わってる」


 確かに、そう実感できた。


 そして、


「……じゃあ、次」


 視線を上げる。


「検証、進めようか」


「……じゃあ、次」


 視線を上げる。


「検証、進めようか」


「検証、ですか」


 カイルが静かに問い返す。


「うん」


 頷く。


「再現性は確認できた」


「はい」


「なら――次は実際の効果」


 視線をポーションへ向ける。


「数値じゃなくて、体感も含めて確認したい」


「……承知しました」


 カイルはすぐに理解を示した。


「しかし、先ほども申し上げた通り――」


「大きいのは無理」


 言葉を引き取る。


「だから、軽いところから」


「軽度損傷による検証、ですね」


「そういうこと」


 短く答える。


 机の上に並ぶポーション。


 その一本を手に取る。


「エレノア様……」


 メルの声が少しだけ震える。


「ご自身で、ですか?」


「うん」


 迷いなく答える。


「他の人に使うわけにはいかないし」


「……危険です」


 カイルが静かに言う。


「未知の効果が含まれています」


「分かってる」


 小さく息を吐く。


「だからこそ、私がやる」


 それ以上の理由はない。


「……」


 一瞬の沈黙。


「……承知しました」


 カイルはそれ以上止めなかった。


「エレノア様……」


「大丈夫」


 メルに向けて、軽く微笑む。


「ちゃんと、加減するから」


 そう言って、机の端にあった紙を手に取る。


 指先で軽く折り、


「……これくらいで十分」


 小さく呟く。


 ほんのわずかな傷。


 それでいい。


 それだけで、分かるはずだから。


「……」


 一瞬だけ、手を止める。


 本当に試すのか。


 ――いや、違う。


 ここまで来て、やらない理由はない。


「――いくよ」


 紙の端を、指先に当てる。


 ――すっ、と。


 紙の端が、指先をかすめる。


「っ……」


 鋭い痛みが一瞬だけ走る。


 細い赤い線が、指先に浮かび上がった。


「エレノア様……!」


「大丈夫」


 すぐに言葉を返す。


「この程度なら問題ないから」


 傷は浅い。


 検証には、これで十分。


 手に持っていたポーションの栓を開ける。


 ほんのりと甘い香り。


「……」


 一瞬だけ、それを見つめて――


 そのまま、口に含んだ。


 液体が喉を通る。


 次の瞬間。


 じわり、と体に広がる感覚。


 すぐに――


 指先の傷が、消えた。


「……」


 ここまでは、想定通り。


 問題は――その後。


「……あれ」


 思わず、声が漏れる。


 指先を見る。


 傷は、ない。


 それだけじゃない。


「……なにも、残ってない」


「何が、でしょうか」


 カイルが問いかける。


「違和感」


 ゆっくりと言葉にする。


「普通、治ったあとって、少しだけ残るでしょ?」


「……ええ」


「それが、ない」


 痛みの余韻も。


 引っかかる感覚も。


 何もかもが――最初からなかったみたいに消えている。


「……」


 カイルが一歩近づく。


「失礼します」


 指先を軽く確認する。


 そして、


「……確かに」


 小さく呟いた。


「皮膚の再生痕が見られません」


「再生痕?」


「通常、治癒後にはわずかな痕跡が残ります」


 淡々と説明する。


「しかし、これは――」


 一瞬、言葉を選ぶ。


「“元から損傷していない状態”に近い」


「……」


 その言葉に、息を呑む。


「……それって」


「はい」


 カイルは静かに頷く。


「治癒ではなく、“復元”に近い現象かと」


「……なに、それ」


 理解が追いつかない。


 けれど――


 目の前の結果が、それを否定しない。


「……」


 もう一度、指先を見る。


 本当に、何もない。


 最初から傷なんてなかったみたいに。


「……これ」


 ぽつりと呟く。


「回復量だけじゃないね」


「はい」


「質が、違う」


 ゆっくりと、言葉にする。


「同等って書いてあったのに」


 鑑定結果を思い出す。


「中身は、全然違う」


「現行の分類では、測りきれていない可能性が高いかと」


「……新種、か」


「その可能性が高いですね」


 短く、肯定された。


「……そっか」


 小さく息を吐く。


 嬉しい、というよりも。


 戸惑いの方が大きい。


「……これ」


 もう一度、ポーションへ視線を落とす。


「どう扱えばいいんだろ」


 ぽつりと零れる。


 性能は分かった。


 再現もできた。


 けれど――


「……扱いに困るね」


 その一言に、


「同感です」


 迷いのない返答が返ってきた。


 静かな実験室に、わずかな苦笑が落ちた――


 そのときだった。


 ――バンッ!


 勢いよく扉が開く。


「エレノア!!」


「……え?」


 振り返る間もなく、


「ルーカス様が……!」


 慌てた様子の使用人が駆け込んでくる。


「大怪我を――!」


「……は?」


 一瞬、思考が止まる。


「どういうこと?」


「訓練中の事故で……腕を……!」


「っ――!」


 言葉を聞き終える前に、体が動いた。


 机の上のポーションを掴む。


「行くよ!」


「はい!」


 メルとカイルもすぐに続く。


 廊下を駆ける。


 さっきまでの静けさが嘘みたいに、屋敷の中が慌ただしい。


 使用人たちの緊張した声。


 急ぎ足の音。


 そして――


「ルーカス様!」


 扉の前で足を止めることなく、そのまま中へ入る。


 ベッドの上。


 そこにいたのは――


「……ルーカスお兄様」


 息を呑む。


 腕は、無事じゃない。


 明らかに損傷している。


 応急処置はされているが、状態は悪い。


「悪いな……」


 ルーカスが苦笑する。


「ちょっと、やらかした」


「ちょっとじゃないでしょ」


 即答する。


 けれど、その声は落ち着いていた。


 やることは決まっている。


「動かないで」


 短く言う。


 手に持っていた小瓶を見せる。


「新しく作ったポーション」


「……今それ言う?」


「言う」


 栓を開ける。


「これ、使う」


「お、おう……任せる」


 躊躇はない。


 そのまま、口元へ運ぶ。


「飲んで」


「分かった」


 ルーカスお兄様は素直にそれを飲み込んだ。


「……」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間――


「……っ!」


 ルーカスお兄様の表情がわずかに変わる。


 そして、


 損傷していた腕が――


 目に見えて、戻っていく。


 繋がる。


 整う。


 歪みが消え、


 まるで最初から何もなかったかのように。


「……は?」


 ルーカスが、自分の腕を見る。


「……なんだこれ」


 ゆっくりと、手を動かす。


 問題なく動く。


 違和感もない。


「……完全に、戻ってる」


 その一言に、


「……」


 エレノアは、何も言わなかった。


 ただ――


 手の中の空になった小瓶を、静かに見つめる。


「……これ」


 ぽつりと呟く。


「やっぱり、やばいね」


 その言葉に、


「今さらかよ……」


 ルーカスお兄様が苦笑した。


 けれど、その目は――


 どこか、真剣だった。


 部屋の空気が、わずかに変わる。


 軽く扱っていいものじゃない。


 誰もが、そう理解していた。


 そして――


 このポーションが、


 ただの“回復薬”ではないことも。

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