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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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93話 ポーション改良、静かな一歩

本日から一日一話更新に変更します。

よろしくお願いします。

アトリエ建設予定地見学の翌日――


「エレノア様! 朝ですよ!」


 メルの元気いっぱいな声で目が覚める。


「ん……眠い……」


「昨日は、夜遅くまでアトリエのことを考えていましたからね」


「うん……ちょっとだけ、ね……」


 まだ重いまぶたをこすりながら、ゆっくりと体を起こす。


 身支度を整え、食堂へと向かう。


 扉を開けると、すでにみんな揃っていた。


「おはようございます、エレノア様」


 カイルがこちらに気づいて声をかける。


「おはようございます……」


 少し遅れての挨拶に、アメリアお姉さまがくすりと笑った。


「珍しいわね、エレノアが少し遅いなんて」


「だな。いつもならもう実験室にいる時間だろ」


 ルーカスお兄様も腕を組みながらそう言う。


「すみません……」


「ふふ、大丈夫よ。たまにはゆっくりするのもいいことだわ」


 そう言って、アメリアお姉さまが優しく微笑む。


 席に着こうとして、ふと周りを見渡す。


「……あれ、ミストルティン様は?」


「まだお休みになられています」


 カイルが淡々と答えた。


「昨夜も遅くまでいらっしゃったようですので」


「そっか……」


 少しだけ納得してから席に着く。


 すると、カイルがふと思い出したように口を開いた。


「そうだ、エレノア様」


「うん?」


「薬草畑の水やりと手入れは、精霊たちと協力して終わらせておきました」


「え?」


 思わず目を瞬かせる。


「今日は少し遅くなるかもしれないと思ったので」


「……ありがとう、カイル」


「いえ、これくらい当然です」


 カイルはいつも通りの落ち着いた様子で答えた。


 朝食を終え、各自が席を立つ。


「それじゃあ、行ってくるわね」


 アメリアお姉さまが微笑む。


「エレノアも無理しないでね」


「はい、いってらっしゃいませ」


「おう、今日は無茶すんなよ」


「はい、いってらっしゃい」


 二人を見送ると、食堂には私とメル、カイルの三人だけが残った。


 静かになった食堂で、少しだけ息をつく。


 昨日のことを思い出す。


 広がっていく構想。


 足りないもの。


 そして――


「……やっぱり、確かめておきたい」


 小さく呟く。


「何を、でしょうか?」


 カイルが静かに問いかける。


「ポーション」


 二人の視線が、自然とこちらに向いた。


「少し、気になることがあるの」


「承知しました」


 迷いのない返答。


「準備を整えます」


「私もお手伝いします!」


 メルもすぐに頷く。


「ありがとう」


 私は立ち上がる。


 三人で食堂を出て、屋敷の奥へと向かう。


 廊下を進み――


 やがて、あの扉の前に立つ。


 分厚く、重厚な造り。


 表面に刻まれた紋様が、わずかに魔力を帯びている。


「……」


 ほんの一瞬だけ、手を止める。


 けれど。


 すぐに、いつも通りに手を伸ばした。


 触れた瞬間、紋様が淡く光る。


 拒まれることはない。


 ゆっくりと、扉を押し開く。


 重厚な扉が、静かに音を立てて開いていく。


 その先に広がるのは――見慣れたはずの、規格外の空間。


 中央の調合作業台。整然と並ぶ錬金釜。奥に設置された各種装置。


 どれもが、前来たときと変わらないはずなのに――


「……やっぱり、すごいですね」


 メルが小さく呟く。


「何度見ても慣れませんね」


 カイルも静かに同意する。


「うん……」


 私も軽く頷きながら、中へと足を踏み入れる。


 扉が背後で静かに閉まった。


 それだけで、外界と切り離されたような感覚になる。


「カイル、基本素材の在庫は?」


「問題ありません。一般的な回復用薬草一式、触媒、水質も含めて最高状態で保管されています」


「ありがとう」


 視線を棚へと向ける。


 劣化の気配は一切ない。


 まるで時間が止まっているかのように、素材がそこにある。


「メル、器具の準備お願い」


「はい!」


 メルはすぐに動き出し、調合に必要な器具を手際よく並べていく。


 私はゆっくりと作業台の前に立つ。


「……まずは、普通に作る」


 二人に聞かせるように、静かに言う。


「基準が分からないと、違いも分からないから」


「比較ですね」


 カイルが頷く。


「うん」


 素材を一つずつ取り出す。


 見慣れた薬草。


 見慣れた分量。


 見慣れた手順。


 ――いつも通り。


 錬金釜に水を入れ、火力を調整する。


 魔力の流れを整えながら、薬草を投入。


 ゆっくりと、丁寧に。


 余計なことはしない。


 あくまで“普通”に。


「……」


 静かに、混ぜる。


 色の変化。


 香り。


 粘度。


 すべてを確認しながら、慎重に工程を進めていく。


 やがて――


「……できた」


 小さく呟く。


 完成したポーションは、澄んだ色をしていた。


「鑑定するね」


そう言い完成したばかりのポーションに意識を集中させる。


【鑑定結果】

名前:ポーション

品質:最高品質

備考:ローポーションより性能が高い

   回復力はかなり高いが、欠損部位をくっつけることはできない

   味はほんのり甘く、子供でも飲めそう

   限りなく薬草の本来の成分が出ているので回復量はハイポーションと同等


「いつもと同じ品質ですね」


 カイルが覗き込みながら言う。


「うん」


 軽く頷く。


「じゃあ――ここから」


 視線を落とす。


「少しだけ、変える」


「変える、ですか?」


 メルが首をかしげる。


「ほんの少しだけ」


 そう言いながら、薬草類が保管されている棚へと視線を向ける。


 整然と並べられた素材の中から――


「……これ」


 手に取ったのは、マンドラゴラの根。


 扱いを誤れば危険な素材。


 けれど、ごく微量であれば触媒として作用することもある。


「マンドラゴラですか……」


 メルが少しだけ驚いた声を出す。


「使う量はほんの少しだけ。影響を見るのが目的だから」


「承知しました」


 カイルが静かに頷く。


「それと――水も変える」


「水、ですか?」


「うん。今回は蒸留水じゃなくて、純水を使う」


「……なるほど」


 カイルの目がわずかに細まる。


「不純物を完全に排除した状態での比較、ということですね」


「そう。条件を揃えた上で、どこまで変化が出るか見たいの」


 メルがすぐに純水精製設備へ向かい、準備を始める。


「純水、用意できました!」


「ありがとう」


 新しくビーカーに純水を注ぐ。


 透明度が、わずかに違って見える。


「……じゃあ、始めるね」


 マンドラゴラの根と、いつもの素材を用意する。


「……まずは下処理から」


 小さく呟きながら、手を動かす。


 マンドラゴラの根は、そのままでも使用できる素材だ。


 特別な処理を施さなくても、十分な効果を発揮する。


 けれど――


「今回は、少し違う」


 本来の成分を、可能な限りそのまま引き出す。


 そのために、あえて下処理を行う。


 余計な成分を抜くためではなく、抽出を阻害する微細な不純物を取り除き、状態を整えるための工程。


 丁寧に洗浄し、表面を整える。


 それ以上は手を加えない。


「……これくらい」


 軽く水気を切る。


 そのまま、他の薬草と一緒に細かく刻んでいく。


 包丁が規則正しく音を立てる。


 繊維を潰しすぎないように、丁寧に。


「準備、できました」


 メルが声をかける。


「ありがとう」


 頷いて、刻んだ素材をビーカーへと移す。


 そこに純水を加え、加熱を開始する。


 温度は上げすぎない。


 じわりと、成分を引き出すように。


「……」


 ガラス越しに、わずかに色が変化していく。


 同時に、攪拌。


 均一になるよう、ゆっくりと。


 焦らず、崩さず。


「ここからですね」


 カイルが静かに言う。


「うん」


 短く答える。


 呼吸を整え、意識を集中させる。


 そして――


 魔力を、流し込む。


 無理に押し込むのではなく、馴染ませるように。


 素材と液体、そのすべてを一つにまとめる感覚で。


「……」


 反応は穏やか。


 けれど、確実に変化している。


 拡散していたものが、中心へと集まっていく。


 まとまり、整い――


「……これで」


 最後に、軽く攪拌を行う。


 無駄な揺らぎを整え、状態を固定する。


 そして――


「……完成」


 静かに呟いた。


完成したポーションを、しばらく見つめる。


 見た目は――ほとんど変わらない。


 澄んだ色合い。


 わずかな透明感の違いがあるような気もするが、それだけだ。


「……」


 けれど。


「……何か、違う」


 はっきりとは言えない。


 数値でも、見た目でもない。


 けれど確かに、“何か”が違う。


「カイル、どう思う?」


「……少々、お待ちください」


 カイルは一歩近づき、ポーションへと視線を落とす。


 そして、そのまま静かに手をかざした。


「――鑑定」


 短く呟く。


 淡い魔力が流れ込み、情報を読み取っていく。


「……なるほど」


「どう?」


「やはり、通常のポーションとは明確に異なります」


「違和感がありますね」


「魔力の流れが――安定しすぎています」


「安定、ですか?」


 メルが首をかしげる。


「通常のポーションは、完成後も微細な揺らぎが残るものです」


「ですが、これは……ほとんど揺らぎがない」


「まるで、最初からこの状態であったかのような――」


「……完成してる、ってこと?」


「いえ」


 カイルは静かに首を横に振る。


「“定着している”と表現する方が近いかと」


「……」


 その言葉に、小さく息を呑む。


「数値上も確認できます」


「回復量はハイポーションに近い水準――ですが」


 一瞬、言葉を区切る。


「吸収効率と安定性が、異常な値を示しています」


「異常……?」


「はい」


 淡々と、しかし確信をもって告げる。


「無駄がほとんどありません」


「理論上、摂取された回復効果の大半が、そのまま体内で機能します」


「……それって」


「通常よりも“効く”と感じる可能性が高い、ということです」


「……」


 少しだけ、息を吐く。


「エレノア様」


 カイルが静かに続ける。


「これは既存の分類に当てはまりません」


「……新種?」


「その可能性が高いかと」


 はっきりと言い切った。


「……そっか」


 小さく呟き、改めてポーションへと視線を落とす。


 見た目は変わらない。


 けれど――


「……ちゃんと、変わってる」


 そう実感できた。


 けれど――


「……で、これどうするの?」


 ぽつりと呟く。


 その一言で、空気が少しだけ止まった。


「どうする、とは」


 カイルが静かに問い返す。


「これ、普通に扱えないよね?」


 視線をポーションへ向けたまま言う。


「分類もないし、規格にも当てはまらないし……」


「……確かに」


 カイルは小さく頷いた。


「現状の枠組みでは、既存のポーションとして登録することは困難でしょう」


「ですよね……」


 メルが少し困ったように声を出す。


「じゃあ、新しく登録するんですか?」


「その場合、手続きや検証が必要になります」


「……めんどくさそう」


「否定はできません」


 即答だった。


「うーん……」


 小さく唸る。


 性能はいい。


 むしろ、かなりいい。


 けれど――扱いが面倒。


「……とりあえず」


 一度、言葉を区切る。


「これは“保留”でいいかな」


「保留、ですか?」


「うん。もう少しデータ取りたいし」


 もう一度、ポーションを見る。


 まだ、分からないことも多い。


「すぐに出すより、ちゃんと把握してからの方がいいと思う」


「賢明かと」


 カイルが頷く。


「では、本品は試験用として管理します」


「お願い」


「はい!」


 メルも元気よく返事をする。


「……」


 改めて、ポーションへ視線を落とす。


 見た目は、ただのポーション。


 けれど中身は、明らかに違う。


「……ちょっと、やりすぎたかも」


 小さく呟くと、


「その可能性は高いですね」


 迷いのない返答が返ってきた。


「やっぱり?」


「はい」


 即答だった。


「……まあ、いいか」


 少しだけ肩の力を抜く。


 失敗ではない。


 むしろ、成功。


 ただ――


「扱いに困る成功って、あるんだね……」


 そう呟いて、もう一度ポーションを見つめた。

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