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[毎日更新中]転生したら錬金術が得意な貴族家の女の子でした  作者: 双葉アリア
第二章 アトリエ開業編

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88話 新たな扉、魔法学院へ②

「だから押すなって言ってるだろ!」

「順番に聞けって――!」


収拾のつかない喧騒が、学院の門前に渦巻いていた。


質問は途切れることなく飛び交い、

アメリアとルーカスは完全に人の波に飲み込まれている。


「どこの家なんだよ!」

「なんであんな馬車なんだ!?」

「関係者なんだろ、説明しろって!」


「だから待てって――!」


制止の声は、もはや誰にも届かない。


押し寄せる学生たち。

興奮と好奇心が入り混じった空気は、膨れ上がる一方だった。


――そのとき。


「……何の騒ぎですか」


低く、よく通る声が響いた。


決して大きな声ではない。

だがその一言は、不思議なほどよく通り――

ざわめきの中に、すっと入り込んだ。


次の瞬間。


ざわついていた空気が、ぴたりと止まる。


まるで水面に石を落とされたかのように、

一斉に静まり返った。


「……校長先生」


誰かが、小さく呟いた。


人垣の向こう。

ゆっくりと歩み寄ってくる一人の人物。


落ち着いた足取り。

揺るがない視線。

それだけで、この場の空気を支配していた。


自然と道が開く。


押し合っていた学生たちが、我先にと距離を取る。


さきほどまでの混乱が嘘のように――

静寂が広がった。


「学院の門前で、この騒ぎとは感心しませんね」


穏やかな声音。

だが、その中に確かな圧がある。


誰一人、言葉を返せない。


「……さて」


校長はゆっくりと視線を巡らせ――

馬車の前で止まった。


そして、軽く一礼する。


「お待ちしておりました、エレノア様」


その一言で――

空気が、もう一度揺れた。


だが今度は、先ほどのような騒ぎにはならない。


声を上げることすら憚られる、張り詰めた驚き。


「本日は学院見学とのこと、私がご案内いたします」


穏やかな微笑み。

それは“歓迎”でありながら、同時にこの場を掌握する宣言でもあった。


「え、あ、はい……」


思わず頷く。


その間にも、周囲の視線が突き刺さる。


「では、こちらへ」


校長は自然な所作で歩き出す。


その後ろを、私は歩き出した。


メルとリリア、そして護衛が続く。


そして――


完全に取り残された形となったアメリアとルーカスへと、

再びじわじわと視線が集まり始める。


「……なあ」

「さっきの話、まだ終わってないよな?」


「……あ」


嫌な予感が、した。


次の瞬間――


「ちょっと待て、今の何!?」

「校長が頭下げたぞ!?」

「エレノアって誰なんだよ!!」


「うわああああ待てって押すな!!」


再び、騒ぎが爆発した。

――今度は、さっき以上に。


「うわああああ待てって押すな!!」


爆発した騒ぎは、先ほど以上の勢いで広がっていく。


押し寄せる人の波。

飛び交う声。

もはや誰が何を言っているのかも分からない。


「校長が頭下げたってどういうことだよ!?」

「エレノアって誰なんだ!!」

「お前ら絶対知ってるだろ!!」


「だから順番に――って無理だって!!」


完全に制御不能だった。


アメリアとルーカスは再び人の波に飲み込まれ、身動きすら取れない。


教師たちも動こうとするが、押し寄せる勢いに判断が遅れる。


――そのとき。


「……いい加減にしなさい」


先ほどと同じ声。

だが今度は、わずかに“強さ”が増していた。


空気が、震える。


「――っ」


誰かが息を呑む。


次の瞬間。


ざわめきが、強引に押し潰されたかのように止まった。


校長――ラウルが、ゆっくりと振り返る。


その視線が、騒ぎの中心へと向けられる。


「学院の門前で、二度も同じ騒ぎを起こすとは」


静かな声音。

だが、その一言一言に逃げ場がない。


「興味を持つこと自体は否定しません」


一歩、踏み出す。


「ですが――節度は守りなさい」


その言葉と同時に、見えない圧が場を覆った。


誰一人、動けない。


「……申し訳、ありません」


ぽつりと、誰かが呟く。


それをきっかけに――


「すみません……」

「その……つい……」


謝罪が広がる。


ラウルは一瞬それを見渡し、軽く頷いた。


「よろしい」


短く、それだけ。


だが――それで完全に収まった。


空気が、整う。


ラウルは視線を外し、何事もなかったかのように前を向く。


「お待たせいたしました」


改めて、エレノアへと向き直る。


「少々騒がしくなってしまいましたが、これより学院内をご案内いたします」


その態度は、最初から変わらない。


あくまで自然に。


だが――


それが逆に、この場の異常さを際立たせていた。


「……あ、はい」


私は小さく頷く。


背後からの視線は、まだ強い。


けれど先ほどのような混乱はない。


完全に“抑え込まれている”。


「では、参りましょう」


ラウルが歩き出す。


その後ろを、私は続いた。


メルとリリア、そして護衛が静かに配置を保ちながら歩く。


自然と道が開く。


誰も近づこうとしない。


いや――


近づけない。


そのまま、校舎の中へと足を踏み入れる。


外の喧騒が、すっと遠ざかった。


静かな空気。


整えられた空間。


「……すごい」


思わず、呟く。


先ほどまでの騒ぎが嘘のようだった。


「当学院は、基礎から応用まで幅広く学べる環境を整えております」


ラウルが淡々と説明を始める。


だがその間も――


廊下の先。


教室の中。


行き交う学生や教師たちが、こちらを見ていた。


「……やっぱり見られてる」


小さく呟くと、メルが即答する。


「当然かと」


「ですよね……」


リリアも続ける。


「既に門前での出来事が伝わっている可能性が高いかと」


(早いな……)


苦笑する。


そのとき、ラウルが一つの扉の前で足を止めた。


「まずは、基礎講義の様子をご覧いただきましょう」


軽く扉を叩く。


「失礼します」


扉が開かれる。


その瞬間――


教室中の視線が、一斉にこちらへ向いた。


「……あ」


誰かが、呟く。


「さっきの……」


認識が、繋がる。


ざわり、と空気が揺れた。


――だが。


今度は、誰も騒がない。


騒げない。


ただ静かに、見つめている。


その視線の中で――


私は、ゆっくりと教室の中へと足を踏み入れた。


教室の扉が開かれた瞬間。


「失礼します」


校長の声とともに――

一斉に視線がこちらへ向いた。


「……誰だ?」

「見学者か?」


ひそひそとした声。


先ほどの門前のような騒ぎにはならない。


だが――


“知らない存在を見る目”が、確かに向けられていた。


(さっきとは違う……)


少しだけ、ほっとする。


「講義中失礼します。本日は見学の方をお連れしました」


教師が頷く。


「……承知しました。短時間であれば」


講義は再開される。


黒板に描かれた魔法陣。

基礎理論の説明。


学生たちは真剣にノートを取っている。


私は静かにそれを見つめ――


(ちゃんとしてるなぁ)


そんな感想が浮かぶ。


特に口を挟むこともなく、数分。


「ありがとうございます」


校長が軽く頭を下げる。


「では、次へ参りましょう」


そのまま教室を後にした。


廊下にでてしばらく歩くと屋内の魔法練習場へと案内された。

見た目は、体育館そのものだったが違う点はあちらこちらに魔法による損傷を防ぐためか魔法陣が壁や床に刻み込まれている。

そしてなにもよりもーー


「……広い」


思わず呟く。


結界。強化壁。観測用の魔道具。


一目で“訓練施設”だと分かる場所だった。


「現在は実戦訓練の時間です」


視線を向けると――


学生たちが模擬戦を行っていた。


「そこ、遅い!」

「魔力の流れを止めるな!」


指導の声が飛ぶ。


魔法がぶつかり合い、弾ける。


(すごい……)


素直にそう思った。


だが――


「見学だけでは、分かりづらいかもしれませんね」


校長が、静かに言う。


嫌な予感がした。


「簡単な模擬戦を体験されますか?」


周囲の空気が、ぴたりと止まる。


「……え」


視線が、一斉に集まる。


(やっぱりそうなるよね……)


少しだけ考えて――


「……軽くなら」


そう答えた。


すぐに用意される、模擬用の敵魔道具。


人型に近い形状。

魔力反応もそれなりに強い。


「安全装置は万全です」


校長の言葉。


私は一歩、前へ出た。


護衛が、わずかに位置を調整する。


(近い……)


本当に、すぐ後ろにいる。


その安心感の中で――


意識を切り替える。


「開始」


合図と同時に。


魔道具が動いた。


速い。


だが――


(このくらいなら)


一歩。


最小限の動きでかわす。


次の瞬間。


魔力を一点に収束させ――


放つ。


「……っ」


音すら、ほとんどない。


気づいたときには――


模擬敵は、その場で機能を停止していた。


沈黙。


一瞬遅れて――


「……は?」


声が漏れる。


「終わった……?」

「いや、今の……何した?」


ざわめきが広がる。


「一撃……だと?」


指導していた教師ですら、言葉を失っていた。


私は小さく首を傾げる。


(軽くのつもりだったんだけどな……)

周囲のざわめきは、しばらく収まりそうになかった。


「……今の、もう一回できるか?」

「いや待て、あれ何の術式だ?」

「魔力の収束がおかしいだろ……」


次々と飛ぶ声。


教師までもが一歩前に出かけて――


「……」


そのとき、校長がわずかに視線を動かした。


それだけで。


「――っ」


教師が、言葉を飲み込む。


空気が、静かに引き締まる。


「本日の見学は、ひとまずここまでといたしましょう」


穏やかな声音。


だが、明確な区切りだった。


「え、あ……」


誰かが何か言いかける。


だが続かない。


「続きは、またの機会に」


そう言い残し、校長は自然に歩き出した。


(助かった……)


内心で小さく息を吐く。


そのまま、私は後に続いた。


メルとリリア、そして護衛も静かに動く。


背後からの視線は、なおも強い。


だが――


追いかけてくる者はいない。


完全に“止められている”。


廊下へ出ると、先ほどまでの喧騒が嘘のように静かだった。


「……すごかったですね」


ぽつりと、リリアが呟く。


「そう?」


「はい。あそこまで綺麗に制御された一撃は、そう見られるものではありません」


メルも頷く。


「出力、収束、解放。すべてが最適でした」


(そんなにかな……)


自覚がない分、少し困る。


「さて」


校長が歩みを緩める。


「そろそろ昼の時間ですね」


その言葉に、周囲の空気がわずかに緩んだ。


「食堂へご案内いたします」


「はい」


頷きながら、歩き出す。


その途中――


すれ違う学生たちが、こちらを見て足を止める。


「……あれ」

「さっきの……」


小声が、広がる。


(早いな……)


情報の伝わり方に、思わず苦笑する。


やがて――


広い扉の前で、足が止まった。


「こちらが食堂です」


扉が開かれる。


中はすでに、多くの学生で賑わっていた。


ざわざわとした声。

食器の音。

昼の空気。


だが――


私たちが入った瞬間。


「……」


音が、わずかに途切れた。


視線が集まる。


そして――


「あ」


誰かが、気づく。


「さっきの」

「練習場の……」


ざわめきが、じわじわと広がる。


(またか……)


そう思った、そのとき。


「エレノア!!」


聞き慣れた声が響いた。


視線を向ける。


「お姉様」


人混みの向こうから、アメリアが手を振っていた。


その隣には、ルーカスの姿。


そして――


見慣れない四人の学生。


「こっちだ!」


ルーカスの声に導かれるように、そちらへ向かう。


周囲の視線を受けながら。


護衛は、ぴたりとついてくる。


(本当に近い……)


改めてそう思いながら――


私は、いつもの二人のもとへと歩いていった。


「さっきは大変だったな……!」

「無事で何よりだ」


「お二人こそ……」


その周囲には、四人の学生。


興味深そうにこちらを見ている。


「紹介する」


ルーカスが言った。


「こっちは――レティシア・フォン・アルヴェール」

「どうも、噂の方?」


上品に微笑む女子生徒。


「クラリス・フォン・ヴァルモンドです」

「よろしくお願いします」


もう一人の女子も丁寧に頭を下げる。


「で、こっちが――」

「ガイウス・フォン・ドレイクだ」


腕を組みながらも、しっかりとこちらを見る男子。


「ユリウス・フォン・カストル」

「……よろしく」


もう一人は、落ち着いた様子だった。


全員、明らかに貴族。


「エレノア・フォン・セレスティアです


よろしくお願いします。」


そして――


「……さっきの、見てた」

「模擬戦のやつ」


視線が、変わる。


「一撃で止めたって、本当?」

「どうやったの?」


質問が飛ぶ。


「えっと……」


少し困る。


「まあまあ、飯にしながらでいいだろ」


ルーカスが割って入る。


「そうね、立ち話もなんだし」


アメリアも頷く。


そのまま、一緒に食事を取ることになった。


護衛は、やはり至近距離。


自然に配置されている。


(慣れてきたかも……)


そんなことを思いながら、席に着く。


向かいにはアメリアとルーカス。

その周囲に、四人のクラスメイトたち。


護衛は――やはり近い。


少し離れた位置にいるが、完全にこちらを中心にした配置だ。


「それで、さっきの」


早速、話題が戻る。


レティシアが身を乗り出した。


「一撃で止めたって、本当なの?」


「見てたけど……正直、意味が分からなかったわ」


クラリスも頷く。


「魔力の流れが、途中で消えたように見えた」


「消えたんじゃない、収束だろ」


ガイウスが腕を組む。


「だがあの速さは異常だ」


「……制御が桁違いだな」


ユリウスが静かに言った。


全員の視線が集まる。


「えっと……」


少しだけ考える。


「普通に、まとめて撃っただけなんだけど……」


沈黙。


数秒。


「……普通とは」

「その“普通”が分からないんだが?」


即座に突っ込まれる。


「いや、ほら……無駄な流れを省いて」


「それができねえんだよ」


ガイウスが即答した。


「……ああ、なるほど」


レティシアが納得したように頷く。


「基礎構造の最適化ね」


「それを戦闘中にやるのが異常なんだよ」


ルーカスが苦笑する。


「まあ、エレノアだからな……」


「納得するしかないわね」


アメリアも肩をすくめる。


(そんなにかな……)


いまいち実感が湧かない。


そのまま会話は続き、食事も進んでいく。


内容は他愛のないものに変わり――


学院の授業の話。

教師の癖。

ちょっとした噂話。


さっきまでの騒ぎが嘘のように、穏やかな時間だった。


やがて。


「さて、午後はどうする?」


ルーカスが問いかける。


「せっかくだし、もう一度見ていくか?」


「……うん、そうする」


頷く。


自然と、流れは決まった。


「じゃあ、練習場だな」


立ち上がる。


それに続いて、全員が動く。


護衛も、当然のように配置を整える。


再び訪れた練習場。


だが――


空気は、明らかに違っていた。


「……来たぞ」

「さっきのやつだ」


ひそひそとした声。


だが隠しきれていない。


視線が、はっきりと向けられている。


(さっきより増えてる……?)


人が多い。


明らかに、“見に来ている”。


「噂、回ってるな」


ルーカスが小さく言う。


「早すぎない?」


「こういうのは一瞬だ」


苦笑混じりの返答。


そのとき。


「――おい」


低い声が響いた。


視線が、集まる。


人垣の中から、一人の男子生徒が前に出てきた。


周囲の空気が、わずかに変わる。


「さっきの、見てた」


真っ直ぐ、こちらを見る。


逃げない視線。


「正直、納得いかねえ」


一歩、近づく。


護衛が、わずかに反応する。


だが――動かない。


見極めている。


「一撃で終わり? あんなの」


口調は荒くない。


だが、はっきりとした“対抗意識”があった。


「……偶然じゃないのか」


ざわり、と空気が揺れる。


周囲も、同じことを思っていたのかもしれない。


「だから――」


さらに一歩。


距離が詰まる。


「確かめさせろ」


完全に、場の中心になっていた。


「本当に強いのか」


沈黙。


視線が集まる。


逃げ場はない。


(やっぱりこうなるよね……)


小さく息を吐く。


視線が集まる中、一歩前へ出る。


護衛が、ぴたりと寄り添う。


空気が張り詰める。


「……どう確かめるんですか?」


静かに問いかける。


一瞬の沈黙。


その男子生徒は、ゆっくりと口元を歪めた。


周囲が、息を呑む。


一歩、踏み出す。


距離が詰まる。


「決まってるだろ」


低く、はっきりとした声。


そして――


「俺と決闘しろ」


――その一言で、場の空気が凍りついた。

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