レア度の世界は奥が深い?
球根を合成先にして、根核を手に取る。核が手のひらで一回大きく脈打ったので、危うく川に落とすところだった。
「ちょっと、動かないでよ。落としたらそれで終わりなんだから……よし、いくよ」
核の赤い光が細い糸みたいにほどけて、球根の中へ沈んでいく。銀色だった球根はじわじわと緑を帯びて、表面に宝石みたいな艶が浮かんでくる。
そこへ、見慣れないウィンドウが割りこんできた。
【合成結果の生成量を抽選中……(幸運値による補正:極大)】
「量まで抽選なの?」
次の瞬間、球根がぱっと光を放つ。
光の中から、ごろん、と何かが転がり出てきた。ひとつ、ふたつ、三つ、四つ。深い緑色の延べ棒みたいな塊が、私の足元に次々と積み上がっていく。最初は律儀に数えていたけど、二十を超えたあたりで数えるのをやめた。
ようやく光が収まると、岸辺には緑の塊がこんもりと小山を作っていた。両腕で抱えても、たぶん一度には運びきれない量だ。
「えっ、多っ……元は拳ひとつぶんの球根だったよね?」
ヨツバが土の山から蔓を伸ばして、小山のてっぺんの塊をつんつんとつついている。たぶん、食べられるかどうかを確かめているのだろう。
「それは食べちゃだめ。昨日の空き缶とはわけが違うんだからね」
蔓が名残惜しそうに引っこんでいくのを見届けてから、一本を鑑定してみる。
【名称:翠魔鋼】
【等級:エピック】
【備考:魔性植物の生命力と金属が融合した希少な合金。魔力をよく通し、極めて硬く、それでいて粘り強い。生成量は合成時の幸運値に大きく左右される】
「エピック……? レアより上があったんだ」
これまで手に入れたいちばんいい装備は、全部レアだった。ローブも、イヤリングも、チュニックも。レアが最高だと思っていたから、出るたびに一人で小躍りしていたのである。
そもそも等級って全部でいくつあるんだろう。
本の中の分からない単語に鑑定をかけられるなら、ウィンドウの文字にもかけられるかもしれない。表示の「エピック」の部分をじっと見つめて、スキルを使ってみる。
【エピック】
【種別:等級】
【備考:等級は下位から順に、ノーマル、コモン、アンコモン、レア、エピック、レジェンダリー、???。エピック等級の入手難度は高。自身より格上の強敵を倒して得た素材、もしくはそれに準ずる上位素材を用いた製作でまれに得られる】
「出た……しかもまだ上があるっぽいな」
レジェンダリーの上は「???」で、名前すら見せてもらえない。今の私の鑑定レベルじゃ、そこまでは教えてもらえないってことかな。
入手難度は高。格上の強敵の素材でまれに。思い返せば、雌株は私より五つもレベルが上だったじゃないか。あれだけ死にかけて、ようやく「まれに」の枠に滑りこめたわけだ。そしてその「まれ」が、目の前で小山になっている。
「素材を集めて、合成して、量まで運で決まって、等級にもまだ上がある……これ、まんまハクスラじゃね?」
口では呆れたふりをしているのに、顔のほうは正直なもので、さっきからずっとにやけっぱなしだ。レジェンダリーなんて書かれたら、見てみたくなるに決まっている。
気を取り直して、翠魔鋼を一本、平らな石の上に置く。
さっき手に入れたばかりの『武器作成』を使うと、『防具製作』のときと同じように、作れるもののリストが浮かび上がる。
【素材:翠魔鋼】
▼製作可能リスト
・翠魔鋼の短剣
・翠魔鋼の長槍
・翠魔鋼のジャベリン
迷わずジャベリンを選ぶ。個数の欄が出てきたので、五と入れておこう。
大きさは前と同じ三十センチ。素材はこれだけあるんだから、ケチる理由はひとつもない。
MPがぐっと吸い取られる感覚がして、石の上の翠魔鋼が五本分まとめて宙に浮かぶ。光の粒になってほどけて、細長い形に寄り集まっていく。ハンマーの音も火花もない。ローブを作ったときと同じ、静かな光だけだ。
【付属効果抽選中……(幸運値による補正:大)】
【SLOT 1:飛翔速度・貫通力(大)上昇】
【SLOT 2:自己修復(MP消費)】
【SLOT 3:魔力付与効率上昇】
【抽選完了】
三つとも埋まっている。しかも全部、ちょうど欲しかった効果ばかりだ。
光が収まると、石の上には五本の杭が並んでいる。
深い緑色をした、細身の杭だ。光の当たり方で、表面に薄く葉脈みたいな模様が浮かんで見える。穂先は、触るのが怖いくらい鋭い。
【名称:ヴィリディス・ジャベリン】
【等級:エピック】
【状態:新品】
【効果:『マインド・バレット』で操作時、飛翔速度と貫通力が大上昇する。MPを流すことで破損を自己修復する。『魔力付与』の消費MPが減少し、付与した属性の持続時間が延長される】
「前のは小上昇だったのに、いきなり大になってる……」
しかも自分で直るし、魔力付与の消費MPも減る。雌株との戦いでは、四本に火を灯し続けるだけでMPがゴリゴリ削れていた。あれが軽くなるだけでも、戦い方がだいぶ変わるはずだ。
最後に、古いファンネルと鉄槌の番だ。
石の上に旧ファンネル四本と解体の鉄槌を並べる。
一本ずつ手に取っていく。酸を合成した一本は、表面がまだうっすら緑がかっている。最後に、ゴーレムの装甲を叩き割った鉄槌。重たくて、あれ以来ほとんどアイテムボックスにしまいっぱなしである。
「これで全部溶かしこんじゃうんだよね……捨てるわけじゃないって分かってても、今まで使ってたものが形ごとなくなるのはやっぱりちょっとさみしいな」
新しい五本をまとめて合成先に選ぶ。
五本を同時に動かせるようになったときと同じように、MPを五本の糸に分ける。古い杭と鉄槌からほどいた光を、それぞれの糸に流していく。どれか一本に偏らないよう量をそろえるのが難しくて、こめかみがじんわり熱くなってくる。
古い杭と鉄槌は端のほうから光の粒になってほどけて、五つの流れに分かれながら新しいジャベリンへ吸いこまれていった。
【名称:ヴィリディス・ジャベリン+】
【等級:エピック+】
【効果:『マインド・バレット』で操作時、飛翔速度と貫通力が大上昇する。MPを流すことで破損を自己修復する。『魔力付与』の消費MPが減少し、付与した属性の持続時間が延長される】
【追加効果:酸属性(小)、構造物および無機物タイプへの与ダメージ小上昇】
「エピック、プラス?」
見慣れない記号が気になって、等級の「+」にも鑑定をかけてみる。
【+】
【種別:等級補正】
【備考:同じ等級の中で、強化によって性能が上積みされていることを示す】
「同じエピックの中でも、ちょっと上ってことか。古い杭と鉄槌のぶんは、ちゃんと上乗せされてるんだね」
五本を浮かせて、自分の周りを一周させてみる。
軽い。前のジャベリンより重さはあるはずなのに、思ったとおりの場所へ、思ったより一瞬早く届く。試しに一本を岸辺の大岩に向けて軽く飛ばすと、ほとんど音もなく岩に吸いこまれて、反対側から穂先がのぞいた。
「軽く撃っただけなのにこれって……本気で撃つときは、周りに何もない場所でやらないとまずいな」
ヨツバが土の山から蔓を伸ばして、戻ってきた一本の穂先をつんつんとつつく。それから、岸辺に積み上がったままの翠魔鋼の小山のほうへ、蔓をくいっと向けた。
「そうなんだよね……五本作っても、まだあんなに残ってるんだよ」
小山は、五本ぶん減ったようにはまったく見えない。ローブもチュニックも、これで作り直せるかもしれない。
残りの翠魔鋼をアイテムボックスにしまって、炉の火を落とす。
ちゃんとした試し撃ちは、的を用意してからだ。居住エリアのど真ん中で撃って誰かの家に穴を開けたら、管理所に報告どころか反逆者として呼び出される側になってしまう。
お昼を食べたら、今度こそ管理所に行こう。
作者がハクスラ好きなのでそれっぽくなってしまいました…




