決勝戦第一試合(3)
「その毒は俺の特別な調合をしてある。薬の調合を間違えたらドッカーン……なんてよく聞く話だろ?それを応用してな。お前の体に複数の毒を染み渡らせてある。毒が効かないからよく分からなかっただろ?それが全身に行き渡ったら──体の中から木っ端微塵だよ」
フェブルのそんな説明も、頭の中を通り過ぎていくだけ。彼が何を言っているのか、理解し難かった。
「──さあ、あと10秒ってとこかな」
ゆっくりと立ち上がった満身創痍のフェブルがカウントダウンを始める。私の頭では現状を理解できていないはずなのに、どうしてか喉が締め付けられて目頭が熱くなった。まるでこの先の展開を知っているかのように。
「デケン、さん……っ」
震える声で名前を呼べば、そんなに大きくなかったはずなのに彼は反応して振り向いてくれた。その時の顔は、戦闘中に見せていた厳しい顔ではなくて──私が知っている、とても優しい顔だ。
「やだ……!」
首を横に振って嫌だ嫌だと駄々をこねる私に困ったように眉を下げたデケン。
「──ああ、お嬢ちゃんを泣かせてしまうなあ」
涙が瞳に溜まって彼の姿がぼやけていく。下瞼の限界を超えた滴が頬を流れていった。
「ナツ、イェナをよろしく頼むよ。……パーティーの約束、守れんくてすまんなぁ」
『この大会が終わればケーキでお祝いしようじゃないか』
デケンの言葉が頭の中で響いて、また涙が溢れる。彼が謝ったその意味は──。
彼がにっこりと笑ったその瞬間、フェブルは最後のカウントとともにパチンと指を鳴らす。その場にいた全員がハッと息を飲んで──大きな音とともにデケンの身体は爆発した。もはや彼の身体の一部ですら認識できないほど粉々に、跡形もなく消えてしまったのだ。爆風と煙に吹き飛ばされそうになるのをイェナがしっかりと支えてくれる。
「……っ!!」
その衝撃的な光景に私は声すら出せなかった。煙が晴れたあと、私は腰を抜かして足元から崩れ落ちる。
「──ナツ!」
それをイェナが慌てて腕と腰を掴み、倒れるのを防いでくれた。
「勝者、フェブル!!」
審判の声が高らかに響き、第一試合の終了を告げる。
人の体はこうも簡単に木っ端微塵になってしまうのか。あれだけ屈強な男でも、あの大きな体でも。
あの優しい笑顔も、低くて落ち着く声も、頭を撫でてくれたり花を摘んでくれた大きな手のひらも──ああ、ぶん投げられたこともあったっけ。
彼がどれだけの悪党だったかなんて、私は詳しく知らない。私が知っているのはトランプで負けても大笑いする、豪快で怖い顔の優しいおじさんだってことだけ。
──そんなデケンの全てが……今、消えた。
それを理解した瞬間、私はずるずると座り込んで泣きじゃくった。歓声や罵声に紛れたおかげで思い切り泣き叫ぶことができる。イェナは隣でしゃがみ、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。




