決勝戦第一試合(4)
突然イェナとは反対方向に肩を抱き寄せられて、バチッと指輪の結界が発動するがお構いなしに頭をガシガシと乱暴に撫でられる。
「──泣くな。あいつは最期、笑ってた。“悪くない人生だった”って思えたから笑えたんだろ」
最期に見たデケンの顔を思い出す。たしかに穏やかで、あまりにも清々しかった。まるで心残りなんて一つもないかのように。
「……マル、さん……っ」
隣でしゃがみ込んだマルが、私の頭にコツンと自分の頭をぶつけた。彼の表情は見えなかったが、声が少しだけ震えているような気がする。
私よりずっと付き合いは長かったはずだ。だけど人を平気で殺せるような人が、チームメイトを殺されて悲しむなんて。悪党の集まりであるこのチームで仲間の死を悼む描写など原作にはなかった気がする。だけど表面上それを見せなかっただけで、本当は……。
マルに抱き寄せられていたけれど、イェナはこの時ばかりは何も言わなかった。他人の死にも気持ちにも鈍感な人が何を考えているのかは分からないが、ただ黙って見守ってくれるだけでも私には有り難かった。
私の真正面で、今度はアロがしゃがんで顔を覗き込まれた。
「……なっちゃんが泣いて悲しんでくれるなら、デケンも幸せ者だねえ」
優しく呟いたアロは、今だけはサイコパスじゃない。「そう思わない?」と話を振られたフレヴァーも、トコトコと近くに来たかと思うとコクリと頷いた。
「……きっと、彼も満足して逝ったことでしょう」
鎧の奥からこもって聞こえる声にまた涙した。アロもフレヴァーも私を慰めようとしてくれているのが分かったからだ。その温かさが身に染みた。
──こんな人たちが悪役だなんて、笑っちゃうな。
「ナツ……それ以上泣いたら目が腫れるよ、おいで」
最後にイェナが緩く両手を広げる。その胸に飛び込むと、人差し指でそっと涙を拭ってくれた。
どうして私の記憶力はもっとちゃんと機能してくれないのか。もしもこの結果が分かっていたら──私はデケンを助けただろうか。それが原因でイェナを助けられなくなっても?仮定の話をしても無駄なことはわかっている。それによって私自身が自責の念に駆られることになるのも。
それでも、後悔せずにはいられない。もっと何かできたかもしれない。もっと別の方法で助けられたかもしれない。
心の中でごめんなさい、と何度も謝る。
だけどどうしても──思い浮かぶのは、デケンが「お嬢ちゃんのせいなわけないだろう」と優しく笑う姿だけだ。
──どうか、安らかに眠ってほしい。私を助けてくれた大きな人。あなたがくれた花はいつか枯れてしまうけれど。私はこの大会が終わった後あなたを覚えていないかもしれないけれど……心に刻み付けておくよ。
そしていつか──あの世で会いましょう。
たとえそこが、地獄だったとしても。




