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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第二章
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許し

悪寒に疲れ果て、敏は明け方になってやっと眠りについた。

汗びっしょりで目覚めたのは、昼近くになってからだった。

長い夢を見ていたような気がする。

昨日のことが夢でないのは、凹んだクローゼットのドアが証明している。

『自分が悪いのに、父親にはすまないことをしてしまった』

でも、本当のことは言ってはいけないと思う。

スマホには、純から無断外泊をしたことへの心配のメッセージが入っている。

『叱られたけど、それは何とか大丈夫』

と、返信した。

すぐに、『今日は会えるかどうか』の問いが返って来た。

急に純の声が聴きたくてたまらなくなる。電話をしてしまった。

「もしもし・・・」

「返信が来ないから心配してたの」

「ごめん。寝てた」

「いっぱい怒られちゃった?」

「大したことないよ。それより・・・」

「なあに?」

「今日は、会えなさそう」

「そうなの・・・」

純のがっかりした声。

「僕も熱が出ちゃったんだ」

「え?」

「うつっちゃったんだ・・・あんなことしちゃったから・・・」

「・・・」

敏には、純が顔を赤らめたのが見える気がした。

「早く元気になって、早く会おうよ」

「うん。ゆっくり休んでね」

「純ちゃんは、大丈夫なの?」

「もう、ふつうにご飯も食べられるし、私のことは心配しないで」


「起きてるの?」

ドアの向こうから母親が声を掛けてきた。


まだまだ純と話していたいけれど、電話を切るしかなかった。

「今、起きたところ」

母親がドアを開け、入って来た。ちらっとクローゼットの方を見て、机の前に椅子に腰をおろし、敏の方を向く。

「純ちゃんでしょ?」

「今の電話?」

敏の胸がドキリと鳴った。

「ウソをついても分かっちゃうのよ」

「え?何のこと?」

「純ちゃんと一緒にいたんでしょ?」

「え?・・・」

「やっぱり・・・」

「いや、そんなこと・・・」

『・・・ああ、ウソで押し通せない。ウソも思いつかない・・・』

敏の表情が固まる。

「そうなのね?」

敏は何も言えないまま、下を向く。

「なんか、おかしなことになってないわよね?」

「おかしな・・・って?」

思わず母親の顔を見た。

母親の目に、涙が浮かんでいる。

「母さん、勘違いしてるよ・・・」

『・・・いや、勘違いではないんだけれど・・・。二人でベッドに寝ちゃったし。あんなキスしたし。でも、ここで譲っちゃダメだ・・・』

「純ちゃんが病気だったんだ。すごい熱を出して・・・それで」

「えっ?おうちの人は?」

「お父さんは出張でいなくて、家政婦さんは休みで、それで・・・」

「本当に?」

「ウソじゃないよ。だから病気がうつって僕も熱を出したんじゃないか」

「そういうことなの・・・」

「そういうことなんだ。無断外泊は謝る。でも、正直に言ってもダメだと思ったから」

ちょっと事実を伏せているところもあるけれど、これは真実だ。

「高校生が二人きりで夜を過ごすって、大人からは許せないことだわね」

「許してもらえないのは、わかってる。でも、仕方なかったんだ」

「純ちゃんのお父様にも、許してもらえないことなのよ?わかってる?」

「はい」

敏は素直に頭を垂れた。

「それで、純ちゃんは?もう、大丈夫なの?」

「今、電話で話したんだけど、大丈夫だって・・・でも・・・」

「なに?」

「今回、すごく思ったのは、自分は何にも出来ないんだなって・・・いろいろ・・・看病とか料理とか」

「こまったでしょう?」

「純ちゃん、お母さんがいなくて・・・それなのに、一人で何でも出来て・・・」

そう言う敏の顔を、母親は微笑んで見つめた。

「きっとあなたより、純ちゃんの方がずっと大人よ」

「そうだね」

そう言いながらも、敏の目に浮かんだのは、純の甘えた姿だった。

敏しか知らない純の姿・・・。

ぼうっとしてしまった敏を、心配顔で母親は見つめた。、

「汗びっしょりじゃないの。着替えなさいよ」

母親は声を掛け、

「食欲があるなら、お昼ご飯にしましょう」

と、部屋を出て行った。





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