ベッドルーム(二)
純が伸ばしてきた両腕を、敏は自分の肩に導く。
敏は、そのままベッドにうつ伏せて、純の隣に身体を滑り込ませた。
そして熱のせいでうつらうつらしている純の頭を支えるように、両方の手のひらで包んだ。
『・・・せつない・・・人を好きになるのって、こんなにせつない気持ちだったの?』
敏は、胸がいっぱいになる。
「どこにも行かない。純のそばにいるよ。ずっと・・・」
純がすすり泣き、敏の胸にしがみついて来た。
敏は左手を、純の背中に滑らせる。華奢な背中。熱い身体。
敏の頬に、純の熱い熱い吐息がかかる。
『もう、何も考えられない。ただ、純のすべてを包みたいだけ・・・純のすべてを・・・』
右手で、純の濡れた頬をぬぐう。そして、その頬に唇を押し当てた。
純は、ピクッとして潤んだ目を少しだけ開いた。
「好きだよ。愛してる・・・」
胸からあふれる想いを口にしてみる敏。
「私も・・・私も・・・愛してる・・・好き」
震える声で、そうつぶやくと、純は再び目を閉じて、深いため息をついた。
敏は、熱く甘い吐息を感じた唇に、そっと自分の唇を重ねた。
熱を持った甘い唇・・・涙がこぼれそうなほど、柔らかい。
純は、されるがまま。
柔らかさの虜になってしまったように、敏はさらに唇を重ねた。
純の唇は、敏の理性を吹き飛ばす。そして、なぜかとても物足りない気持ちにさせる。
『・・・もっともっと、純を知りたい・・・』
もどかしさに、純の身体をきつく抱きしめ、身をよじった。
『・・・もっともっと、純を愛したい・・・」
純の唇の隙間から、自分の舌先を差し込んでみる。
彼女の熱い舌とぶつかる。
その熱い舌を絡め取り、敏は自分の中に導いた・・・。
長い時間をかけた、深い深いくちづけのあと、抱きしまたまま、再び純の両頬に、かわるがわるキスをする。
「うれしい・・・」
敏の胸の中で、純がかすれた小さな声でつぶやく。
ひと筋の涙が左の頬から落ちて、柔らかな巻き髪の中に消えて行く。
涙にぬれた純の濃いまつ毛が綺麗だ、と敏は見惚れていた。
「・・・寒い・・・」
急に純が身震いをする。
敏は、ハッとして現実に引き戻された。
『いけない・・・これ以上はダメだ』
純を求める欲は押さえがたいものがあったけれど、なにより純の身体が前より熱くなっている。
純を興奮させてしまったからなのか、病気が悪化したからなのか・・・。
『このままじゃいけない。身体を冷やさなければ・・・』
「純ちゃん、水、飲める?持ってくるから待ってて」
純の返事が無い。
敏が身体を離そうとすると、純がしがみ付いて来た。
「どこにも行かないから。大丈夫だから。ちょっとまってて」
敏は、純の腕をはずして、ベッドから離れた。
キッチンでグラス二つに水を注ぎ、両手に持ってベッドルームに戻る。
「水を飲んで。飲まなきゃ」
ぬいぐるみの並んだベッド脇のテーブルにグラスを置き、純を抱き起した。
純は敏に抱きつこうとする。
「水、飲んでからね」
純にグラスを押し付けるように手渡す。
「いっぱい飲んで」
ほおばるように水を含むと、純の滑らかな喉がゴクリと音をたてた。
「もう、いらない」
「もう少ししたら、また飲んでよ」
「うん」
「一緒にいるから・・・そばにいるから」
「うん」
テーブルにグラスを置くと、純を抱きしめた。
『・・・熱よ、下がってくれ・・・』
巻き毛の前髪の上から、額に唇をあてる。
熱い額。敏の首筋にかかる、純の熱い吐息。
抱いたまま、純をベッドに寝かせた。
純がうとうとしている。眠りについたようだ。
規則正しい熱い寝息が敏の胸にかかる。
敏の背中にまわした純の腕の感触が心地いい。
純の巻き髪をゆっくり撫でる。
「・・・ママ・・・」
はっと、暗闇の中の純の顔をのぞき込んだ。
おそらく、夢の中で母親に会っているのだろう。
小学生で母親を亡くして、中学生で頼っていた祖母を亡くして。
『ずっと独りを耐えて来たのか・・・』
そう感じると、敏は純のすべてに応えたいと、強く思った。
『外は嵐でも、腕の中で眠る純に、安寧を与えたい・・・』
闇の中で、長い時間、敏は熱のある純を抱き締め、荒れる雨風の音を聞きながら、ただ『これから』を考えていた。




