祭りのあと
バスに乗ってすぐ、純はスマホにメッセージや電話の着信があったことに気付いた。それも何件も・・・。
電話の着信は翔から三件。貴久からは一件。
渡からはメッセージが入っていた。
渡のメッセージの内容からすると、貴久の家に行くというウソがバレて、翔が怒っているらしい。
みんな、純がどこに行っているのか、どうしているのか、心配しているという。
須川駅前のバス停で降りてすぐに、歩きながら渡に電話を掛ける。
小雨が降り出した。
渡はコール音と同時くらいに電話に出た。
「もしもし。純ちゃん、今どこにいるの?」
「いま、須川駅の前」
「何で、貴さんちで食事だなんて言ったんですか?」
「え、それは・・・」
「今日、翔さんがレッスン前に貴さんと会っていたそうです。それで、翔さんが『純が貴んちに食事に行くなんて聞いてない』って言って・・・」
「・・・」
「純ちゃん、聞いてますか?」
「あ、うん」
「とにかく、翔さんはレッスンのあと、純ちゃんの家に向かうって言ってましたよ」
「ほんとに?」
レッスンの終わり時間からは、すでに二時間以上も過ぎている。
「早く翔さんに連絡を入れてください」
「わかった・・・」
そうこうしているうちに、純の家が見えて来た。
家の前の車の入っていないガレージで、しゃがんでゲームらしきものをしている翔の姿が目に入る。
レッスンバッグは、車止めの上に放り出してある。
すぐに、翔が純の姿に気付いた。
「ヤー!どこに行ってたんだよ」
立ち上がりながら、翔は大声を出した。
「ごめんなさい」
「どこに行ってたんだよ。不良!夜遊びなんかしやがって」
「お友達と日越銀座商店街の七夕祭りを見に行ってた・・・」
「心配したぞ。ウソついたろ、お前」
「うん。ごめんなさい」
「さっきから、何回ごめんなさいって言ってるかわかってんの?七夕祭りって、ウソをつかなきゃ行けないような場所なのか?」
「ううん・・・」
「友達って誰だよ」
「学校の・・・クラスメイトと・・・」
「男と?女と?」
「え?」
「男と二人でか?」
「う、うん・・・ううん・・・全部で四人」
純はとっさに、再びウソをついた。
「やっと女の友達が出来たのか?」
「ううん・・・私以外は男の子」
「なんだ、男か・・・」
「いけない?」
「ダメって言ってるんじゃない。お前は女の友達がほとんどいないから・・・心配・・・いや、何でもない」
「心配?」
「何でもないってば」
純はウソをついた心苦しさはあったけれど、翔の優しさが嬉しかった。
「小父様はまだ帰って来ないんだな」
翔は、純の家の暗い窓を見上げる。
「今日は出張で、帰って来ないはずだもの」
「それで、夜遊びしてたのか」
「そういうわけじゃ・・・」
二人で傘をさして門扉の前に行く。
「ちゃんと鍵、閉めろよ。それと、貴と渡に連絡入れろよ」
「渡とは、さっき電話で話した。貴兄さんにも電話入れるから」
「憲人には黙っておいてやるからさ・・・。アイツが知ったら、もっと大騒ぎになるからな。分かってるだろ?」
「うん・・・」
純はうなずく代りにうつむいた。
「それに、今、憲人も忙しいだろうし。憲人の母さん、具合が悪いの知ってる?」
「え?なにそれ?知らない・・・」
驚いて顔をあげる。
「膝の手術を勤めている大学が休みになったらするんだって・・・」
「え?本当?」
「憲人に聞いてみろ。俺は詳しいことは分かんないから」
「うん」
翔は純が門を閉めるのを確認すると、帰って行った。
純が玄関に入ると同時に、スマホが鳴った。貴久からだった。
「貴兄さん。ごめんなさい。心配かけて」
「うん。どこ行ってた?」
「日越銀座商店街の七夕祭り」
「そっか。誰と?」
「村上君と、東君と新井君・・・」
本当のことでもあり、ウソでもあり・・・。
「ウソなんかつくなよ」
ドキリとする。
「俺んちで食事だなんて、ウソをつくようなことじゃないだろ?」
そのことだ。
「ごめんなさい」
「誰も、純が友達と出かけるのを嫌がっているわけじゃないだろ?」
「うん。ごめんなさい」
「みんな、純のことが心配なんだ」
「うん、分かってる・・・」
「七夕祭りに一緒に出掛けるような友達が出来てよかったな」
貴久は優しい言葉の残して電話を切った。
純は、仲間たちにウソをついたことにひどく後悔を覚えた。
そして、楽しかった敏との時間を忘れてしまうくらい、落ち込んで行った
『今まで隠し事やウソなど、皆との間にはなかったのに・・・』




