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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第二章
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仲良くなれない

週が明けた。

純が登校して来た。

いつものように、教室の前のドアから入って来る。

そして、何事もなかったかのように、席に着こうとしている。

女子達が純に声を掛けた。

「住吉さん、もう大丈夫なの?」

「うん、大丈夫」

純はひと言答えると、すぐに座って皆に背をむけてしまう。

全然会話にならない。女の子たちは不満そうだ。

敏は登校したばかりで、純の家でのことを聞きたくてたまらない良太に捉まっていた。

良太を振り払い、自分の席に座ると、純の背中を指でつついた。

「おはよう。大丈夫?」

「おはよう。大丈夫だよ」

純はちょっとだけ振り向いて答えると、すぐに前を向いてしまった。

貴久や翔たちの前での純と、あまりに違う。

学校での純は、人とのかかわりが下手過ぎると、敏は心配になってしまった。

おびえているのかとさえ思えるような、緊張した態度。

『もっとリラックスして、クラスに溶け込む気はないんだろうか?』

そんな敏の心配をよそに、純は出席出来なかった授業時間に返されていた答案用紙を見ている。

良太は、そんな素っ気ない純とオロオロした敏の様子を見てつぶやく。

「仲良くなれたかと思っていたんだけど、違うの?」


それでも、昼食は、敏と純は二人一緒に食べた。

これまでと同じに、敏が純の左隣りの席を少し動かして、そばに寄せて。

敏が話し掛けないかぎり、純からは話そうとしないのも、いつも通り。

ピンク色の服の純と、ここにいる男の子みたいな服装の純と、

『どっちが本当の純ちゃんなんだろう・・・』

弁当を食べる手を止めて、敏が純の方を見ていたから、純が口を開いた。

「何?」

「う、うん。なんか、さ・・・」

「ん?何?」

「家にいるときと、学校にいるときと、純ちゃん、雰囲気が違うなって・・・」

今まで『住吉さん』としか呼んでいなかったのに、ついうっかり『純ちゃん』と言ってしまって、敏は慌てた。

純はそのことに気付いて、恥ずかしそうに微笑む。そう呼ばれて、本当は嬉しいのに、彼女はそれを言葉に表せない。

「そう?そんなに違う?」

「うん、違う気がする」

「そう?そうかな・・・変わらないと思うけど」

「違う気がするよ」

『純ちゃんは自分では納得してないかもしれないけど、絶対、違うから・・・』

敏は思った。


食事が終わると、純はいつものように図書館へ行ってしまった。

敏も一緒に行こうとしたのに、再び良太に捉まってしまったのだ。

良太に土曜日の報告を強要されそうになったとき、開けっ放しの後ろのドアから、敏にとっては嬉しくない声が聞こえて来た。

「純ちゃん、いますか?」

憲人だった。

『学校の中では「住吉さん」って呼べよ。彼女は上級生だろ』

敏は心の中でツッ込みを入れる。

それに、普段は下級生の教室に上級生が行くことがあっても、下級生が上級生の教室に押し掛けるなんてよほどのことが無い限り、しない。

そういうところも、憲人の行為は、敏の神経を逆なでする。

いや、敏だけが感じているわけでもないようだ。

「何の用?」

良太が、ムッとした顔で応対している。

「今日、登校してますよね?」

「してるよ。それで何?」

いつもはホンワカと優しい良太が、キツい言い方をすると妙に怖い。

「今、いないけど。伝言でいいなら伝えてあげるけど?」

そばにいた女の子の一人が、良太の代わりに問いかける。

「いないのなら、いいです」

憲人は、他の女子には興味は無い、とでも言わんばかりに、帰って行った。


憲人は、学園祭以来、さらに人気急上昇で、同級生はもちろん上級生の女子にまで人気がある。

けれど、憲人と純の仲は、学校内では先生方まで含め、公認のようになっている。

それなのに、敏まで純を追いかけているから、二年三組の女子たちは、純のことが何となく面白くない。

「住吉さんて、憲人君の彼女じゃないの?それとも村上君なの?」

「憲人君の彼女で、村上君の方は浮気?」

「自分の態度をはっきりさせないから、そういうことになるんじゃない?」

憲人に冷たい態度をされたせいか、女子たちの言葉はどんどんキツくなる。

会話が丸聞こえの敏はいたたまれず、どこに行くあてもないのに、教室を出た。

良太ですら何も女子たちに言えず、敏のあとを追った。

昼休みが終わりかけて、純が教室に戻って来たが、誰も憲人が教室に来たことを、彼女に知らせる者はいなかった。


水曜の昼休み、再び憲人がやって来た。

昼休みに入ってすぐだったから、敏と純が一緒に昼食を食べているところに・・・。

後ろのドアから、憲人は二人の後ろ姿を認めた。

良太もいつものように、女子たちと一緒に弁当を食べている。

憲人が来たことに、良太が気付いて、純を呼んだ。

「住吉さん。憲人が来てるよ」

純は振り返って憲人を見ると、立ち上がって後ろのドアに向かう。

その間も、憲人は純ではなく、鋭い眼差しで敏の姿を見ている。

しかし、振り返った敏と目があったとたん、すっと目を逸らした。


「これ、昨日言ってた服・・・」

憲人は、手にしていた大きな紙袋を純に手渡した。

「来週のレッスンの時でよかったのに・・・」

「レッスンの時は、持ち物多いから」

「それもそうだね。ありがとう」

「新しいTシャツも入ってる。僕の舞台を手伝ってくれたお礼だよ。僕が選んだんだ」

「お礼なんてよかってのに。でも、ありがとう」

「じゃ、また」

憲人はもう一度、敏を鋭い目で見て帰って行った。

その様子を、その場の全員が興味津々で見ている。

「住吉さん、服をもらったの?」

良太と一緒にいた女子たちが、純の周りを取り囲む。

紙袋を覗き込む女の子も。

「う、うん」

純は取り囲まれて、戸惑っている。

「見せてよ。ねぇ」

「え?」

「イヤ?」

イヤとは言えない雰囲気。

「ええ・・・。かまわないけど・・・」

女子たちに紙袋がわたって、洋服が取り出された。

紺色の縦縞の半袖シャツを始め、シャツ類が三点。デニムのパンツが二本。薄手のパーカーが二着。あきらかに憲人のものと分かる品物。

それに、新品の女の子向けのTシャツが二枚。水色と淡い黄色。

「いつも憲人の洋服、貰ってるの?」

「い、いつもじゃないけど・・・」

「ふだん、学校に着てくるの、男物なの?」

「そういうわけでもないけど・・・」

「住吉さん、細いから男物でも着れちゃうよね」

どう、ひいき目に見ても、嫌味にしか聞こえない。

純が返答に困って、もごもごしている。

良太が敏に『助けてやれ』と、目配せをした。

「純ちゃん。弁当、早く食っちゃえよ。遅くなるよ」

「あ、う、うん・・・」

広がった衣類を、純が急いでまとめて紙袋に押し込む。

敏はため息をついた。

あの様子じゃ、純はとても女子たちと仲良くなれそうにない。

教室での純の立ち場を考えない憲人の無神経さに、腹が立つ。

敏だって、大差はないのだが・・・そのことに自分は気が付いていない。


いつの間にか『住吉さん』から、親しげな『純ちゃん』の呼称になっていることに、クラスメイトたちは、余計な詮索までしている。

敏はそんなことより、『憲人が着ていたものを、純が着る』事実に、たまらない嫌悪感を抱き、純が手にしている紙袋を、窓から捨てたい衝動にかられていた。






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