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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第二章
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負けたくない

いろいろなことが垣間見えた学園祭も終わり、日常の生活が戻って来た。

学園祭の余韻に浸る暇もなく、前期の中間試験が目前に迫って来る。

敏は再び、純と一緒に昼食を食べるようになっていた。

しかも、昼食が終わるとそのまま純と図書館へ行く。

そして、彼女の邪魔をしないように気遣いながらも、出来るだけ近くに席を取り、敏も勉強した。

もう、誰が何と言おうと、どう思われようとかまわない。

金松貴久にも、辺見憲人にも・・・突き詰めれば純にさえも・・・勝てる『何か』が欲しい。

純に自分を認めてもらいたい・・・。

そんな敏の様子に、良太はもちろん、同じ二年三組の鮎川真二と魚谷京平の二人も、いつもならちょっとブラックな発言をする東雄一郎ですら、何も言わず見守るだけだった。

おそらく、九組の神山明和が見たら、「敏のヤツ、必死だな」と言うに違いない。


学園祭以来、憲人も純に対して積極的だ。

バイオリンのレッスンの日はもちろん、毎日のように純が下校する時間に合わせ、校門付近で待っている。

純と同じ路線の電車だから、一緒に帰るのは避けられなかった。

女子生徒たちに憲人が人気があるというのは本当だった。

女の子たちは、憲人と純が一緒に帰るのを、羨望と嫉妬の眼差しで見ている。

純は、そんな女の子たちの視線が怖かった。

憲人は、学園祭直前の国際的なコンクールで、優勝こそ逃したものの、入賞を果たしていた。

その副賞として、アメリカの音楽大学のサマースクールに参加することになったという。

そして、ピアノのレッスンはやめて、バイオリン一本に絞って勉強することになった。

着実に自分の夢に向かっている憲人が、純はまぶしく感じられた。

一緒の下校の時に、夢を語る憲人が羨ましかった。


もうすぐ試験というある日の昼食。

敏はいつもの通り純と食事を共にしていた。

「住吉さんは、何か目標ってある?いつも一生懸命に勉強しているでしょう?」

「うん、一応はね」

純は箸を休めて答える。

「私、高校受験のとき、本当は西山高校に入るつもりはなかったの。上原大学の音楽科を受けようと思ってたの」

「ふうん」

「でも、父に音楽科に入るのを反対されて・・・。高校から音楽を専攻すると、視野が狭くなるって」

「そういうものなのかなぁ。僕にはよくわかんないけど」

「それに、勉強も出来ないのに、音楽なんて出来ないって言われて・・・。私、父に言い返せなかった・・・」

純が悔しそうな表情を浮かべる。敏が見たことのない表情だ。

「勉強も出来ないのにって・・・。純ちゃん成績いいのに。お父さん、厳しいね。じゃ、大学は音大に行くつもり?」

「う~ん。それなんだけど。最近の憲人を見てたら、本当に音大に進むのがいいのかどうか、この頃、わからなくなってきてるところなの・・・」

敏は、こんな時ですら、純の口から憲人の名前が出るのが面白くない。

「憲人を小さいときから見てるけど、自分は憲人みたいにはなれないって、よくわかる。最近は特にそう思うよ」

「住吉さんだって、すごく上手じゃない?ピアノだってバイオリンだって」

「ううん。憲人の才能は全然違う。本当に別物だもの。最近の憲人の音色は、どうやっても自分なんか足元にも及ばない」

純は憲人のバイオリンの音色を思い出すように、遠い目をした。

「そうなのかな・・・」

敏には、学園祭での憲人の音と純の音の違いは分からなかった。

「二年になるときのコース選択で迷うくらいなら・・・そこで決心出来ないくらいなら、ダメかもしれないって思っちゃって。だけど、このまま父に負けたくないの」

いつもと違う、純が発する強い意志のある言葉に、敏は驚いた。

「でも・・・」

純が強い目をちょっと緩める。

「父の会社を継がなきゃならないかも、とも思うし」

純の迷いを知って、敏は少し胸が痛む。

「お父さんの会社、ね。何の会社なの?」

「建築設計事務所なの」

純は、休めていた端を再び口に運ぶ。

「なんか、かっこいいな」

「ふふっ。そんなふうに思うんだ」

純はちょっと笑った後、すぐに真顔になった。

「村上君は?考えてる進路とか、ある?」

「う~ん。具体的には考えてないんだ、まだ。そろそろ考えなくちゃならないけど」

毎日のことで精一杯で、そういう意味でも、憲人に遅れを取っている。

『自分も真剣に考えなければ・・・」

敏に焦りが生まれる。

いつもより長くなってしまった食事を終わりにすると、二人で図書室に向かった。


中間試験が始まった。

試験期間は月曜から木曜までの四日間の午前中だけ。

敏も純も午前の試験が終わると、昼食も取らず話しもせずサッと下校した。

最近では、家でも今までになく勉強に力を入れている敏だ。

中学二年の弟、あつしには、『悪い物でも食べたんじゃないか』とからかわれた。

母親は『やっと進学校に入ったことに気が付いたか』と、言いつつも、今までが今までだったから、不審を通り越して、心配の眼差しで見ている。

敏は勉強に行き詰まりそうになると、スマホの写真を見つめた。

遠足の時の、動物園で撮った笑顔の純の写真。

学園祭のバイオリンを弾くブルーのドレスの純の写真。

学園祭の写真は、写真部の友人が撮っていたものを貰った。

純と憲人が一緒に写っているものも見せられたのだが、それが目に焼き付いていて、学園祭の写真を見るたびに、純と一緒に憲人を思い出してしまう。

憲人にも、貴久にも、自分は勝てるのだろうか?

敏は、再び机に向かう。

『勝ちたい。勝たなければ・・・』





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