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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第二章
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モノローグ

更衣室に向かう廊下は誰もいない。

憲人は速足で歩いて行く。純はその後を追った。

「村上先輩と、ずいぶん仲がいいんだね」

憲人は振り返りもせずに、純を責める口ぶり。

純は何も言えず、黙ったままだ。

憲人が急に立ち止まり、振り向く。

つられて純も立ち止まる。

「怒ってるの?」

純は憲人の様子を伺う。

「なんで?何に?・・・怒ってると思うの?」

「・・・わからない・・・」

「怒ってなんかいないよ。たぶん・・・たぶん、純ちゃんと村上先輩が仲いいのが嫌なんだ」

憲人の独白に、純は戸惑いながら憲人の脇をすり抜けた。

「着替えてくるね」

そういうのが精一杯で、純は女子更衣室に逃げた。


純は着替えが済むと、憲人を避けるようにして体育館へ戻った。

ガーメントバッグとバイオリンケースを持ったまま、会場の人ごみに紛れ込んだ。

「住吉さん、すごいね。ピアノもバイオリンも」

「辺見憲人君と仲いいの?」

人ごみに紛れたつもりでいたけれど、同じ二年三組の女子生徒たちに見つけられ、声を掛けられる。

「あの・・・幼なじみだから・・・音楽教室の・・・」

女子たちの口ぶりが怖くて、どきどきしながら答える。

「住吉さん、明日から、きっと大変だよ」

「え?大変?大変って何が?」

クラスメイトの言っている意味が、純にはよく分からない。

「憲人くん、女の子たちにすごく人気があるんだから・・・一年生だけじゃなくて、二年生や三年生の女の子たちにも」

「え?どういう・・・意味?」

「嫉妬されるってことよ。嫉妬・・・たぶんね」

それは、心配して言ってくれているのとは違う口調だ。

「そんな・・・。幼なじみなだけだから・・・。嫉妬だなんて・・・」

ここで弁解しても、何にもならないことに気付かない。

クラスメイトたちは、純を冷ややかな目で見て、

「まあ、頑張ってね」

と、意味不明な言葉を残すと、もっと舞台が良く見える場所に移って行った。

純は不安な心を押さえて、立ち見の人の影に身を縮め、敏の順番を待った。


発表会も後半になり、新井良太の優しく伸びやかなダンスが終わった。

次に憲音楽部全員での演奏が入り、敏の順番がやって来る。

黒のVネックのTシャツの上に、黒のライダーズジャケットを羽織った。

去年の秋、気に入って買ったのはいいけれど、まだ一度も来ていなかったジャケットだ。

楽器が撤去された舞台。中央に敏が立つ。

幕が開く。

純がどこにいるか、今更探すことはしない。

見ていてくれるはず。

見ていると信じている。

今は、自分が出来る以上のことは出来ない。

音楽が流れ出す。

タイトルは『モノローグ』

曲のタイトルをそのまま使った。

英文の詩。

敏の今の正直な気持ちにぴったり合った曲。


敏は踊り始める。


『いったいどうすればいい?

ひと目見たときから、

君を僕のものにしたくて・・・。

君の心を覗きたい。

もしかしたら、

君も僕を想っているかも、なんて・・・。

僕は君に狂っている。

僕の愛を全部あげる。

だから、君のすべてが欲しい。

君は僕のただ一人のひと。

いったいどうすればいい?

君への想いが強すぎて、

いったいどうすればいい?』


敏は純のことを心に秘めて、精一杯踊り切った。

純は、今まで見たことのない、敏の必死に踊る姿を心に留めた。





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