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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第二章
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想いはばらばらに

純は寸暇を惜しんで、憲人が編曲した楽譜と格闘していた。

学校では図書室で宿題や復習を済ませ、家にかえれば、ピアノとバイオリンをひたすら練習。

学園祭では、クラスの出し物もあるけれど、純はその手伝いも指示されたことだけやって、そそくさと帰宅する。

そんな純を面白く思わないクラスメイトに、陰口をささやかれているのは分かっていたが、早く帰りたい事情を、彼女は上手く説明できずにいた。今の段階では、確実に『憲人のダンスの伴奏をする』と言えるほどの自信は無くて、他の人には言えなかったから。


学園祭まで残すところ一週間を切った日曜日。

純が自分の部屋のグランドピアノに向かっていると、いつものように、前触れもなく貴久がやって来た。

「お~い」

ピアノの部屋の窓をコツコツ叩く音がする。

「ああ。貴兄さん」

貴久は塾の帰りだ。

純は急いで走って行って、外に通じる勉強部屋の東のドアを開ける。

ヘルメットを手にした貴久は、

「メシ、食わして」

と、相変わらずの調子だ。

「いいけど。今日は軽音楽部って、練習無いの?」

「俺は発表会に出るときは一人だし、それに受験生は塾が優先だろ」

「それはそうだね。待ってて、今、お昼ご飯用意するから」

練習に夢中になっていて気付かなかったけれど、もうすぐ十二時だ。

「卵焼きもだよ」

貴久が甘えた笑顔でねだる。

「うん、わかってるから」

純はくすくす笑った。

子供みたいな貴久に、純は久しぶりに笑顔になったような気がする。

貴久もそんな純を見て微笑んでいる。


貴久は、純が部屋を出ていってしまうと、グランドピアノの譜面台に置かれている楽譜に目をやった。

手書きの譜面の特徴から、それを書いたのが憲人であることに気付く。

譜面をめくって行くと、この楽譜では、ピアノとバイオリンが二つのパートがあることが分かった。

そういえば、グランドピアノの閉じられた反響板の蓋の上に、バイオリンが弓と共に無造作に置かれている。

何故、憲人の手書きの楽譜が純の手元にあって、その曲を弾いているのか。貴久の心がざわつく。


食事の用意が出来たことを純が告げに来た。

貴久はまだ、楽譜を手にして見入っている。

「これ、さ、何?憲人の書いた楽譜?」

「うん。そうなの。たぶん私、憲人のダンスの伴奏をすることになりそう」

「合同発表の?」

「そう・・・」

「ふうん」

貴久は複雑な心境を隠し、平気を装ったつもりだった。しかし、苦い思いはわずかに隠し切れない。

いつもは穏やかな貴久の、些細な不機嫌さを感じ取って、純は少し不安になった。

「あの・・・練習が間に合えば、ってことだよ・・・まだ、全然うまく弾けてないし、それに憲人と音合わせだって一度もしてなくて・・・」

「そっか・・・。ま、憲人のためだ。頑張れよ」

「うん。頑張るね」

貴久は、それ以上伴奏のことには触れず、食事をして帰って行った。


やっと憲人のコンクールが終わった。

バイオリンのレッスンの日、本来ならば練習曲を弾くべきところ、純と憲人は先生に見てもらいながら、初めて音合わせをした。

先生から楽曲へのアドバイスを貰ったり、ピアノからバイオリンに移るときの注意を受けたりした。

曲全体のイメージと音のすり合わせをしたりした。

木曜日に下校したら、もう一度純の家で練習する約束もした。

ふたりで音楽教室を出ると、外はすでに暗くなっていた。

「家まで送るよ」

バイオリンケースを背負った憲人。

「え?いいよ一人で大丈夫だから」

「いや、送って行く」

憲人が言い出したら引かないのを知っているから、純は憲人とバス停への道を歩き出す。

バスは二人席が空いていたので、並んで座る。

二人ともバイオリンケースとレッスンバッグを抱えているから、席はぎゅうぎゅうに窮屈だ。

「純ちゃん、村上先輩と付き合ってるの?」

突然の言葉に、純は飛び上りそうになった。

「えっ?」

「違うの?」

「付き合ってるなんて・・・。誰が言ったの?」

「新井先輩と神山先輩が話してるの、部活の一年生が聞いたって」

ダンス部の新井良太は純と同じクラスだし、部長の神山明和は、純と同じ福山中学出身だ。

純は、重い心で口を無理やり開く。

「付き合ってなんかないよ。席が前と後ろだから、ちょっと話をするだけで・・・ただの友達。ただのクラスメイトだよ・・・」

「そうなんだ。よかった」

憲人は心底うれしそうな笑顔になる。

でも、純は『よかった』の意味も憲人の笑顔も考える余裕は無く、自分自身で言った『ただの友達』の言葉に傷ついていた。

そんな純に、憲人は気づかず、笑みのままだ。

「あのね、舞台で着る衣装なんだけど」

「え?あ、うん。なに?」

「去年のピアノの発表会で着た青いドレスを着てもらっていい?」

「いいよ。憲人は何を着るの?」

「白いシャツに黒のパンツかな。ダンスがし易いヤツ」

「憲人はすごいね。編曲も出来るし、ダンスも得意だし・・・」

純の誉め言葉に、憲人は満面の笑みだ。

「あのね、お願いがあるんだど」

「お願い?」

「僕は、踊るとき、純ちゃんの方を見ながら踊るから・・・。純ちゃんも僕の目を見て演奏して欲しいんだ。いいかな?」

「え?」

純は憲人の言っている意味が分からず、彼の方を見る。

「そういう舞台演出なんだよ。ダンスの演出だよ」

憲人が顔を赤らめる。

「そ、そうなの?楽譜を見てちゃダメ?完全に暗譜するのは、もう時間が無くて出来そうにないんだけど」

「わかった。楽譜を見てもいいから、出来るだけでいいから・・・僕の目を見て」

「う、うん。出来るだけそうする」

演出ならばと、純は自分を納得させる。

純はどこかに、敏に相手にされていないかもしれない、という気持ちが残っていて、少し自棄になっている自分を感じていた。











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