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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第二章
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信頼と哀れみ

学園祭まで二週間を切った土曜日の放課後。

敏たちダンス部の二年生は、一年生を体育館で練習するように指導すると、自分たちは軽音楽部の部室へ向かった。

合同発表会での曲順などを決めるためだ。

軽音楽部とダンス部の部員同士の練習は始まっているので、今回は順番と、それに伴う楽器の移動や、人員の配置などを決める。


軽音楽部の部室は、そのまま楽器の練習が出来るように広い間取りだ。

でも、色んな楽器が置いてあって、ダンス部の二年生全員が入って行くと、急に狭く感じられた。

敏と良太は部室に入ってすぐに、貴久を見つける。

部室の片隅でアコースティックギターを爪弾きながら、声を落として歌っている。

その歌声も姿も、敏たちと一学年しか違わないのに、大人な何かを感じさせる。

貴久は二人の視線に気付いて、敏たちをじっと見た。

敏はあわてて頭を下げ、視線を外した。


ダンス部の部長の神山明和かみやまあきかずと軽音楽部の部長の東雄一郎あずまゆういちろうの二人が中心になって、打ち合わせが始まる。

オープニングは軽音楽部二年生全員の演奏で、ダンス部の二年生の全員で踊る。

敏と同じ二年三組の鮎川真二あゆかわしんじ魚谷京平うおたにきょうへいのキレキレのダンスが初めの方にあり、がっちり観客のハートを掴む算段だ。

去年大うけだった、敏と良太の女装のダンスは今年もある。

敏としては、今年はもう女装なんかしたくなかったけれど、良太が大乗り気なためもあって、周囲に押し切られてしまった。

その代わり、敏はソロで男らしさを全面に出した曲とダンスで頑張って、名誉挽回を狙っている。

発表会の前半部分には、貴久のソロの演奏もある。

細かいところまで、段取りを決めて、二年生は部室に戻った。


ダンス部の部室に二年生が戻ると。

一年生も練習から戻って来たところだった。

神山明和が、一年生の中から辺見憲人を呼んだ。

入部当初、『出来るだけ参加する』と言っていた憲人だったが。部活に参加できる日は、他の一年生に比べると半分にもならず、学園祭でのグループのダンスはもちろん、部員全員でのダンスも参加するのは難しかった。

でも、上級生が見る限り、憲人のダンスは一年生の中では突出して上手かった。

そういう諸事情のため、一年生では特例のソロでのダンスで出ることになっていた。

「憲人のダンスの準備は、ピアノだけでいいのか?」

明和が心配そうにたずねた。

「ピアノを舞台の中央寄りにしてもらって、あとは譜面台が二つあれば大丈夫です」

憲人は、明和の目を見てキッパリと答える。

「プログラムのタイトルが『四季・・・夏』って何?」

鮎川真二が、さっき決まったプログラムの下書きを見ながら聞く。

「使う曲がビバルディの『四季』なので・・・」

「ふうん」

真二はクラシック音楽とヒップホップダンスをどう融合させるのか理解できず、不思議そうな顔のままだった。

「ピアノ以外は、譜面台の位置も自分で決めますから」

一年生とは思えない態度で、はっきりと答える憲人。

『普通に部活に出席できていたら、来年の部長に押すのに・・・』

明和は残念に思っていた。

「出演者のところに書いてある『憲人+』のプラスって何?」

敏は、軽音楽部との打ち合わせの時に、疑問に思っていたことを聞いた。

「『+』っというのは・・・。ちょっと楽器を手伝ってくれる人が必要なので・・・」

「軽音楽部か吹奏楽部の誰か?」

ピアノを演奏する人を頼むのだろうと検討をつけた明和。

「部外者なんですけと、今、交渉中です」

「あと二週間しかないんだぞ。本当に大丈夫なのか?」

責任のある明和は、些細なことも心配でならない。

「たぶん大丈夫です。ダメだったら自分でなんとかします。迷惑を掛けないようにしますから」

憲人は自信たっぷりで、ニッと笑った。

『バイオリンの演奏で賞を幾つも取っているくらいだから、舞台度胸はかなり鍛えられているだろうし、そこは心配なさそうだ』

明和は、改めて憲人に信頼を寄せた。

「コンクールが近いので、またしばらく練習に来られないかも」

と、憲人は言っていたが、それ以来、学園祭当日まで、憲人は昼休みに幾日か出て来た以外、放課後の練習に出てくることはなかった。


ある日の放課後、ダンスの練習を終えて後片付けをしている時に、敏は明和を掴まえた。

「うちのクラスの住吉純さんて、神山と同じ中学だったよね?」

「うん、中三の時は同じクラスだったよ」

「いつも一人でいるよね。中学の時もそんな感じ?」

敏は素知らぬ風に聞いてみる。

「誰かとツるんでいるのは見たことないね。無口だし、それに成績が良すぎて近づきにくいしな。本当かどうかわかんないけど、千代田大学の付属高の理数科が受かってたらしいんだけど、なぜだか西山高校に入って来たんだ。俺、びっくりしたよ」

「ふうん・・・。千代田付属が受かってたんだ。なんで西山高校に来たんだろ?」

そう言いながら、敏は金松貴久の存在を思い浮かべた。

明和が急にニヤッとする。

「付き合ってるんだって?住吉さんと」

「えっ?そんなこと、誰がいってんの?」

敏は不機嫌になる。

「良太とか、あずまとか」

まったく余計なことを言う奴らだ。

「付き合ってなんかいないよ。それに住吉さん、彼氏いるみたいだし・・・」

出来るだけ平気を装っているが、内心はイライラしながら反論する。

「へぇ。あんな男子中学生みたいなヤツ、村上以外に付き合う男がいるんだ。村上が彼氏だとばっかり思っていたよ」

遠まわしに自分もけなされていることには気づかないのに、敏はカッとなって強い口調で言い返す。

「住吉さんのこと、男みたいだなんて言うなよっ!それに、僕は彼氏なんかじゃないっ!」

敏の大きな声に、周りの部員が『何だ何だ』と寄って来た。

「どうした?喧嘩か?」

「何やってるんだ」

三年生の部員まで、二人の間に割って入って来た。

良太はびくびくしながら、敏と明和の顔を交互に見ている。

三年生の前だということもあり、悔しいけれど、敏が頭を下げる。

「すみません。何でもありません」

一年生も遠巻きにして、先輩たちを見ている。

「村上。重症だな・・・」

明和は哀れみの表情を浮かべて、三年生と一緒に行ってしまった。

『悔しい・・・』

明和に哀れに思われてしまうくらいの自分。そして、自分で『自分は彼氏ではない』と認めざる得ない事実。

敏は顔を見せないようにして、皆を振り切り、体育館を後にした。





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