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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第二章
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引き潮

遠足の翌日、敏が登校して席に着いていると、純がいつものように前のドアから入って来た。

「おはよう」

敏はうきうきした気分で声を掛ける。

「おはよう」

純も挨拶は返したけれど、敏に親しい顔を見せるわけでもなく、敏を背にして前を向いて座ってしまった。

遠足で仲良くなったように思っていた敏は、物足りなく寂しい気持ちになった。

敏は純の背後から覗いて見たけれど、プレゼントしたペンケースを使っている様子はない。

その後の授業の合間に休み時間さえも、会話もなく過ごした。

純と敏の様子を、良太と女の子達は、心配半分興味半分で見ている。

しかし、昼休みは敏が部室に行ってしまい、二人は一緒に弁当を食べることも、話しをすることもなかった。


純は、憲人に対してこれからどう振舞えばよいか悩んでいた。幼い頃から仲良くしていた憲人を、傷つけるような言動はしたくない。

かと言って、単純に彼の気持ちを受け入れることは出来ない。これまでの関係を変えたくない。

どうすればいいのか、深く悩んでいた。


五月に入って、本格的に部活も忙しくなって来る。

敏たちダンス部は、学園祭の練習のために、昼休みも練習に追われた。

本当は敏も、純と一緒の時間を取りたかったけれど、昼休みを有効に使わないと、学園祭に間に合わない。

前後の席なのに、遠足以来敏と純は挨拶以外、話らしい話しもしなかった。

遠足の最後は、ちょっと残念なことになってしまったけれど、それなりに純の気持ちに近付いたように思ったのに、引き潮のようにサーッと、純が遠くに行ってしまったように感じて、敏は虚しかった。

まるで、遠足での出来事がなかったかのようだ。

敏は遠足が事実であったことを、スマホに残っている写真で何度も確認しては心をなだめた。


純は、ある夜、貴久に電話を掛けた。

「どうした?何かあったか?」

めずらしく純から電話があったことに、貴久は不安を感じた。

「うん・・・」

思った以上に暗い純の声。

「ずいぶん落ち込んでいるな」

「遠足のとき、村上君と一緒だったんだけど、私、泣いちゃって」

「なに?敏と何かあった?」

貴久は胸の中心がジリジリする感覚に陥った。

「ううん、違うの。遠足に行ったのが上田公園で、そこの動物園が、ママと行った最後のお出かけの場所で・・・。そこでママが倒れたんだけど。それ、急に思い出しちゃって」

「そのこと、敏に説明したのか?」

「ううん、何も言ってない。ママが亡くなったことも、村上君知らないし。だから心配かけちゃって」

貴久は少し考えて言葉を口にする。

「別に、言ってもいいんじゃないかな?」

「なんか、そういうこと・・・言いづらい」

「そっか・・」

純はしばし無言になってから、切り出そうとした。

「それと・・・」

「うん?」

「ううん、なんでもない」

純が本当に相談したかったのは憲人のことだが、やはり貴久には話すことが出来なかった。

貴久は、言いかけて止めた純の言葉の続きが気になって、その晩は勉強が手につかなかった。


純は敏に貰ったペンケースを買った時の透明のパッケージのまま、いつも持ち歩いていた。

夜は枕もとにおいて、あるいは抱きしめて、一緒に眠った。

敏の夢を見たかったから。

現実の敏は、純の気持ちなど知らず、部活が忙しかった。

学園祭が近づいていた。




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