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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第二章
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ふたりの遠足(上)

四月の下旬の火曜日は、西山高校の遠足だった。

西山高校の遠足は、クラスごとに生徒の希望を募り、行き先が決められる。

純たちのクラス、二年三組は多数決で上田公園に決定していた。

貸し切りバスで公園の近くまで行って、公園内で解散し、あとはそれぞれが勝手に見学して、時間になったら集合するという、ユルい遠足だ。


行きのバスの中も、周りの生徒たちが気を利かせて、先に乗っていた純の隣に、敏が座るようにしむけている。

周囲には完全に、敏の純に対する気持ちはバレている。

知らないのは純だけだ。

今日の純は、いつもの黒いキャップではなく、白黒のギンガムチェックの帽子を被り、淡いグリーンのシャツに濃い色のジーンズを穿いている。

小さな紺色のデイバッグを膝に置いて座っていた。

「ここ、いい?」

敏は、純の返事を待たずに、隣の席に座った。

純は敏が隣に座るなんて思ってもみなかったから、ドギマギしていた。

バスが走り出す。

「今日はどこを見るつもり?」

敏がたずねる。

「まずは、科学博物館かな。恐竜展をやってるみたいだから」

昨夜、純は去年と同じように一人で過ごすことになることを見込んで、ネットでいろいろしらべて来たのだ。

「ほかには?見たいところある?」

敏は、そう言いながら、黒いリュックの中からペットボトルを出し、ゴクリと水を飲んだ。

敏の喉仏がゴクリという音とともに上下するのを見て、純は妙に心臓がドクドクしてしまった。

「ほかには?」

もう一度、敏に促される。

純は慌てて敏の首から目をそらした。

「ど、動物園・・・に・・・行きたいかな?」

「動物、好きなの?」

「うん・・・。村上君も、動物、好き?」

「うん。じゃ、最初に科学博物館を見て、そのあと動物園に行こうか?」

まるで二人で行くのが当然のように、敏は純を誘ってしまう。

バスの中は、はしゃいだ生徒たちの声で騒がしい。

良太も相変わらず、女子達と盛り上がっている。


公園の近くでバスから全員降ろされると、それぞれ自分たちの行きたい方へ散らばる。

敏と純は、科学博物館のチケット売り場で、特別展のチケットを買った。

特別展は、純が言った通り恐竜展だった。

会場に入ると、遠足と思われる小学生でいっぱいだ。

「迷子になりそう」

純が言う通り、人の波で離ればなれになりそうなくらい、混みあっている。

「迷子になっても大丈夫なように、メッセージのID、交換しようか?」

敏は、ずっと前から気になっていたことを口にしてみた。

二人はスマホを出して、IDを登録し合った。


純は小学生の波に押されながらも、展示してある恐竜たちを眺めている。

「そんなに恐竜に興味があるの?」

敏は、丁寧に解説を読んでいる純を見つめた。

「うん。村上君は興味無い?」

「いや、興味がないわけじゃないよ」

「だって、何億何千万年も前に、こんな生物がいたなんて、わくわくしない?」

純の言葉に、敏は微笑んだ。

「そうだね、わくわくするよね」

でも、敏は恐竜を見るふりをしながら、純の横顔をチラチラ見るのに忙しかった。


純が熱心に展示物を見ていたためもあって、恐竜展を見ただけで、すでにお腹の空く時間になっていた。

「ほかの展示も見る?」

「村上君が見たいものがあれば」

「お腹も空いたし、僕はほかはいいけど」

「じゃ、お弁当食べる?」

見上げる純の切れ長の目の綺麗さに、敏の心はときめく。

「う、うん。そうだね」

二人は科学博物館を出て、弁当が食べられそうな場所を探した。


広場を通り過ぎて、大きな池が広がる場所に、ベンチがひとつだけ空いていたので、二人はそこに座った。

天気が良くて、青空だ。陽射しがまぶしい。

「ああ、失敗したなぁ」

敏は空を見上げて背伸びをした。

「なにが?」

純はデイバッグを背中から下ろしながら聞いた。

「帽子、被って来るんだった。暑い」

「私の帽子、被る?」

「いただき~」

敏は純の帽子をサッと奪って被った。

少し伸びた純の巻き髪が風になびく。

「いつも帽子を被ってるよね。帽子、好きなの?」

「好き。でも、それより・・・」

「それより、何?」

「この、天然パーマが目立つから」

そう言うと、純は巻き髪を指で摘まんだ。

「その、クルクルが可愛いのに?」

思わず言ってしまった『可愛い』のひと言に、敏は自分で収集がつかなくなってしまう。

純の顔が赤らむ。

「そ、そうかな・・・」

二人とも恥ずかしくなって、照れた笑顔を浮かべたまま、池の方を向いた。

敏は帽子を脱いで、純の頭にギュッと押し付けるように被せると、リュックの中から弁当とペットボトルえを取り出した。

今日の純の弁当は、玉子と野菜のサンドイッチだ。

敏のは、のり巻きと唐揚げ。

「サンドイッチ、美味しそうだね」

「そう?でも今日のは失敗。マスタードを買うの、忘れちゃったから」

「自分で作ったの?」

「うん」

「いつもの弁当も、もしかして、住吉さんが自分で作ってるの?」

「そうだよ」

純は敏に、家の事情をひと言も口にしたことがなかった。

「料理、するんだ」

敏は、純の違った一面を見たような気がした。

「まあね・・・」

ふと、敏は良太の『純ちゃんと金松先輩が一緒に白井マーケットで買い物をしていた』という言葉を思い出した。

『金松先輩のために、料理を作ったりするのだろうか・・・』

胸がチリチリして、急に純が作ったものをどうしても食べたいような気がして来た。

「サンドイッチ食べたいな」

純は、敏の子供みたいにねだるのを聞いて微笑む。

「私のサンドイッチより、村上君ののり巻きの方が、ぜんぜん美味しそうだけど・・・」

「じゃ、のり巻きあげるよ」

お互いに一切れずつ交換することにした。

敏がサンドイッチを食べるのを、純が心配そうに見つめている。

「美味しいよ」

純は敏の言葉に安心したように、のり巻きに手を伸ばした。

「のりまき、お母さんの手づくり?」

「うん、そうだよ。食べてみて」

「そう、お母さんの手づくり・・・」

のり巻きを大事そうに眺めてから、純はほおばった。

「美味しい。とても上手」

純の声が何か寂しげに聞こえた気がして、敏はハッとした。

急いで純の顔を見たけれど、池の方を見ている純はいつもの表情だった。




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