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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第二章
36/74

想いはすれ違う

週明け。

朝、村上敏が教室に入るとすぐに、新井良太に廊下へ引っ張って行かれた。

「昨日、すごいものを見ちゃった」

と、良太が敏の反応をうかがう。

「何を?」

良太のはしゃぎっぷりに、敏はなぜか不機嫌になる。

「昨日、ぼく、部活を休んだじゃん」

「それが?」

「母さんと買い物に出かけたんだけど、帰りに白井マーケットに寄ったんだよ」

「あの、お高級スーパー?」

「そう、あそこでしか買いえない物があるから。そこでね、純ちゃんを見かけたんだ。純ちゃん、金松先輩と一緒に買い物してた」

敏は朝から打ちのめされた気分になる。

さらに、ダメ押しが・・・。

「純ちゃん、金松先輩とすごい笑ってて・・・。なんか見たことのない笑顔だったよ」

『・・・見たことのない笑顔って、どんなの?僕は、住吉さんが心から笑っているのを見たことがないような気がする。どこか寂しさを感じる笑顔しか見たことがないよ・・・』

敏は、敗北感すら感じてしまう。

「彼氏の前では、にこにこするもんなんじゃないの?」

敏は不機嫌な顔を隠せなかった。

「土曜は先輩のバイクでお出かけ。日曜も一緒にお買い物。敏、完全に勝ち目ないんじゃない?」

良太が面白半分、心配半分で敏の様子を見ている。

「僕はそんなんじゃないって!」

良太を突き飛ばしそうな勢いで、教室に戻る敏。

背後からの、

「土曜の夜も一緒だったのかなぁ」

と、良太のからかう声に、耳をふさぎたい気分だ。

そこに、敏と良太のやり取りなど知らない純が、ニコリともせず、いつものように前のドアから入って来た。

『僕はそんなんじゃない。そんな気持ちじゃない・・・』

朝のショートホームルームの間中、敏は心の中でつぶやいていた。

目の前の巻き毛が甘く可愛らしく見えるのを否定したい。水色のシャツに包まれた頼りなげな細い肩に目を向けるのが辛い。

見たくないのに、見たい。見たいのに、見たくない。

『そんなんじゃない。そんな気持ちじゃない。じゃ、この気持ちは何なのだ。どんな気持ちなんだ』

ホームルーム終了のチャイムが鳴ったのにも気づかず、敏は自分の席に座っていた。

目の前にあるはずの、純の後ろ姿はとうに無くなっている。

「科学実験室に移動だろ。遅れるよ」

クラスメイトの一人に声を掛けられて、はっとして立ち上がる。

『僕がどんな気持ちだろうと、住吉さんには金松先輩がいる』

敏ば泣きそうになる。


純はその日一日、敏と何の会話もなくて過ごした。

いつもなら、休み時間には何かにつけて、話しかけて来る敏なのに、不機嫌な顔で黙っていたためだ。

四時間目の授業が終わるとすぐに、敏が良太を誘って部室に行ってしまった。

いつも一緒に食べていた昼食も、純は一人で済ませた。


敏は『純と一緒にいるのは金松先輩に悪いから・・・』

と、自分に言い聞かせて、良太と部室で過ごすつもりだった。

けれど、次の日からは、やっぱり少しでも純のそばに居たくて、昼休みになると、純の隣の席に座ってちょっとだけ机を寄せ、一緒に食事をした。


昼食を食べ終わると、純は『図書室へ行く』と言って、教室を出て行ってしまう。

敏は部室に行ったり、友人たちと体育館でバスケをしたり、ダンスの練習をしたり、それはそれで充実していた。

純と一緒に授業を受けられ、一緒に食事も出来る。

『それ以上』を望んではいけない。今のまま、ちょっと仲の良い『友達』としていよう。そう思えるように・・・しよう。

敏は金松貴久の顔を思い浮かべ、そう思おうとした。

でも、時どき『見たこともない笑顔』がみて見たくなってしまう自分の気持ちは、どうすることも出来なかった。


純は、たった一日、一緒に昼食を食べなかっただけなのに、たまらない不安と寂しさを感じた。だから、ふたたび一緒の時間を過ごせるようになったことがとても嬉しかった。

『でも、良太君が女の子達と食事をしているのと、何も変わらない。たまたま席が近くになった私と、ご飯を食べているだけ・・・。ただそれだけのこと・・・』

敏は自分の気持ちを全然わかっていない。純はそのことに気づいて涙ぐみそうになった。



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