この時だけは
翌日の朝、日曜日にもかかわらず、純の父、勝は会社に出勤して行った。
勝は最近、大きなプロジェクトを抱えているとのことで、忙しそうだ。
会社の経営だけではなく、実務もしたい勝は忙しい。
純は、貴久が昼食も食べに来ることを見越して、食事の用意をしていた。
十二時を回ったころ、貴久がやって来た。
玄関で、開口一番。
「おなかすいた。何か食べさせて・・・」
「やっぱり、そう言うと思った。用意してあるよ」
純は『仕方ないわね』と言う表情をつくって見せ、ダイニングの奥のキッチンに入って行く。
貴久は二年生の後半から塾に通っていて、今日の午前中は模試ということだった。
「学校に行くより早く家を出るから、めちゃくちゃお腹がすく」
と言って、純が席に着くのも待たずに料理に手を出している。
そんな些細なことにも、純は貴久が受験生なのを感じていた。
二人で昼食を取って、一緒に後片付けをしたあと、近くの『白井マーケット』に行くことにした。
憲人の好きなフライドポテトの冷凍になったものも買いたいし、渡の好きなちょっと変わった輸入物のお菓子も買いたい。
皆で集まるのは二時からだから、食事ではなく、お菓子類と飲み物だけ買うつもりで出かけた。
店内はたくさんの買い物客でにぎわっている。
白井マーケットは高級品を扱うスーパーマーケットで、品物も良いけれど値段も高いので、近くにあるとはいえ、純も滅多に来ることはない。
だから、珍しい商品に魅かれて、貴久も純もついつい見入ってしまう。
こんなものもある、あんなお菓子もある・・・これ見たことない・・・。
店内を回っていると、憲人から純に写真が送られて来た。
翔と憲人、渡の三人が、バスの中で撮った写真だ。バスの中ではしゃぐ姿。
その三人の姿がおかしくて、貴久と純は顔を見合わせ声を上げて笑った。
二人も顔を寄せ合って、笑い顔のままで写真を撮り、
『白井マーケットで待っている』
と、返信した。
渡は店内に入ってすぐに見つけたお菓子の箱を抱えながら、純のもとへやって来た。
翔は自分のお気に入りの飲み物を、貴久の持っていた買い物かごに入れた。
憲人はかごを覗いて、冷凍のフライドポテトの袋が入っているのを確認する。
五人で食べきれるのかな、と思うほどの買い物をして、純の家に向かう。
この時ばかりは、受験のことも進路のことも・・・恋しい想いも・・・、すべての悩みを忘れて、冗談だけを言い合う。
純、貴久、翔、憲人、渡。
皆の笑顔。
『これからもずっと、こうやって五人、仲良くしていたい』
そう思っているのは、純だけではなかった。




