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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第二章
32/74

尾行

四月も中旬を過ぎた金曜の夜、貴久は純にメッセージを送った。

『明日、一緒に和泉屋いずみやで昼飯食わないか?』

和泉屋は、音楽教室の近くの安いうどんの店で、レッスン仲間のお気に入りの場所だ。

いつもなら、土曜日はピアノのレッスンがある日だが、ピアノの先生・・・清水渡の母親が保護者会に出席するので、休みということになった。

それを知った貴久が、昼食に誘ったのだ。

『いいよ。ひさしぶりだね』

同じ西山高校に通っているのに、校舎が離れているので、滅多に会う機会が無い。

『授業が終わったら、裏門から出たところで待ってろ』

貴久は校則違反のバイクで行くつもりだ。


土曜日の授業が終わり、純が帰る準備をしているのを見て、敏が声を掛けた。

「今日は昼飯食べて帰らないの?」

敏は当然、今日も純と一緒に昼食を食べられると思っていた。

「今日は、用事があるから・・・」

「そうなの・・・」

純は、残念そうな敏の表情をちらりと見た。

『どんな用事』って聞かれたら、なんて答えよう・・・』

一瞬考えをめぐらしたけれど、敏はそれ以上追及しなかった。

「じゃ、バイバイ」

純は黒いキャップを被り、赤いリュックを背負うと、小さく手を振った。

「じゃ、また来週ね」

敏も手を振る。

「今日は振られちゃったねぇ」

敏の背後から、新井良太が絡んで来た。

「そんなんじゃねぇよ」

敏は平気を装った。良太は敏をにやにや見ている。

そんな良太と敏のやり取りを、教室を出て行ってしまった純は知らない。

「敏。部室で弁当食う?」

「うん。行こうか」

良太と敏は教室を出て、部室を目指した。


各部の部室のある建物は、校舎の裏手の方向にある。

ホコリっぽい外廊下を通り抜け、敏と良太が歩いていると、教室二つ分ほど先に、見慣れた黒いキャップに赤いリュックの後ろ姿が見える。

敏と良太は思わず顔を見合わせる。

「部活やってないんだもん、部室に用事は無いよね?」

良太が、純の後ろ姿から目を離さず、敏に問いかける。

「裏門から帰るんじゃないの?」

敏も純を見つめたままだ。

「裏門は駅からも遠いし、バス停だって無いよ」

「家が裏門に近いとか?」

「純ちゃんの家は福山市内のはずだよ。バスか電車は使うよ」

敏は、良太が『純ちゃん』と呼ぶことに、なぜかイラつくものを感じる。

『自分は『住吉さん』としか、呼べないのに・・・』

「福山市内に住んでるって、何で知ってるの?」

「神山君が言ってた。同じ中学だったって。純ちゃんすんごい無口で、あの神山君でさえ、ほとんどしゃべったことないって言ってたよ。だから、敏が一緒にお昼ご飯食べてるって言ったら、すごくびっくりしてた。」

神山明和かみやまあきかずは、同じ二年のダンス部で、今年は部長だ。

しかしながら、純のことに限らず、良太の情報収集は女の子並みだ。敏は、そんな良太に何か関心する。

ダンス部の部室なんて、とうに通り越して、二人は純を尾行している形になっていた。


純は裏門から出て、住宅街を少し行った角に立った。

敏と良太が後方で覗いているとは全く知らずに。

間もなく貴久から連絡が入り、バイクがやって来た。

バイクが純の前で停止する。

貴久は、自分が被って来たフルフェイスのヘルメットを脱いだ。

「顔がバレないように、純はこっちを被れ。学校にバレたら、お前に迷惑かけるから」

純の被っている黒いキャップを脱がせ、ヘルメットを被せる。

自分は、他にしていたもう一つのヘルメットを被った。

「それなら、学校に乗って来なければいいのに」

貴久の後ろの座席に乗って、純は貴久の腰に手を回しながら文句を言う。

「せっかく免許もとって、苦労して手に入れたバイクなんだから、乗りたいんだよ」

『純と一緒に乗りたくて、買ったんだから・・・』

背中に純の体温を感じて、思わず笑顔になる。

二人を乗せたバイクがエンジン音を響かせ、走り去った。


敏も良太も、ヘルメットを外した顔に見覚えがあった。

三年生の軽音楽部の金松貴久だ。

「金松先輩!」

良太は思わず大きな声をあげてしまって、慌てて手で口をふさいだ。

「うちの高校、バイク禁止だよね。しかも二百五十㏄だし」

良太は興奮して早口になる。

「・・・」

敏は、全てがあまりにも意外で、言葉も無かった。

「なんか、けっこう大胆・・・っていうか・・・。純ちゃんってクソ真面目なだけかと思ってたのに・・・」

つぶやく良太。

「・・・」

「金松先輩って、純ちゃんの彼氏かな?」

思わず発した自分の言葉に、良太は慌てて敏の方を振り返った。

敏は無言で裏門へ引き返して行く。

良太は焦って、不機嫌そうな敏の背中を追った。


敏の頭の中では、

『金松先輩は純ちゃんの彼氏』

と、いう言葉がぐるぐる駆け回る。

ふてくされたようにズンズン歩いて部室に入った。

良太がそれを追いかけて入る。

敏が頭を振って『金松先輩』『純ちゃん』の言葉を消去しようとしていた。






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