一緒に食べない?
次の日、純が教室に入ると、敏はすでに登校していて良太と話しをしている。
純は昨日のことがあるから、二人を無視して席に着いた。
授業が始まるまで、前を向いたままだったし、休み時間になっても出来るだけ後ろを見ないよう、敏と顔を合わさぬようにしていた。
午前の授業が終わって、純が弁当を広げていると、背後から敏が声を掛けてきた。
「一緒に食べない?」
純は思わず後ろを振り返る。
『私に言ってる?・・・』
驚いた顔を隠すことが出来なかった。
「あ、あの・・・。べつに・・・べつにいいけど・・・」
驚きと戸惑いと、遅れて喜びの感情が押し寄せて来る。昨日のひどい目も忘れてしまう。
純は敏の顔も見られないまま、前に向き直った。
敏は空いていた純の左隣の席に移って、机をちょっとだけ純の方に寄せた。
「ね。いつも一人で食べてるの?」
敏も弁当を広げながら聞いた。
「う・・・ん」
純は声が震えるのをやっと抑える。
「僕、村上敏」
思わず、敏の顔を見た。
『村上君が、この私に自己紹介をする日が来るなんて・・・』
「う、うん。知ってる。去年の発表会のダンス、見たから」
「あれ、見てくれたんだ。恥ずかしいな」
照れた笑顔がまぶしい。
純は、気さくな敏の態度が嬉しくて微笑む。
「住吉さんって、すげぇ成績いいんだね。びっくりした」
「それほどでもないよ」
敏の誉め言葉に恥ずかしくなって、純はうつむいた。
「それと・・・」
敏が言いづらそうにして、食事の手を止める。
「昨日のこと・・・ごめんね」
純も食事の手がとまる。
「あ、うん。ううん。よく男の子に間違えられるから慣れてるし、気にしてないから・・・」
本当はウソ。本当はショックでたまらない。本当は慣れてなんかいない。
間違われるたびに、自分の容姿に自信を失くしている。
それならば、もう少し女の子らしい服装をすればいいのに。
『女の子らしい服は似合わない』
純は頑なに信じ込んでいた。
この後の会話が続かなくて、二人で黙って弁当を食べるだけになってしまった。
いたたまれなくなった純は、まだ敏が食事を終えていないのに、
「ごめんね、図書室に用事があるから」
と、席を立ってしまった。
しかしその日以来、敏は昼食は純と一緒に食べるものだと決めたようだった。
昼休み、純の隣の席が空くと、敏は机を少し寄せて座る。
純は自然と朝の弁当づくりに力が入った。
食事をしながらダンス部の様子や、好きな音楽についてなど、色んな話しをした。
弁当の時間が、お互いの考えやそれぞれの思いの一端を知る時間になっていった。
純は、いろいろな表情の敏を間近で見られることに満足を覚え、敏は、純が意外にもたくさんの笑顔を見せてくれることに喜びを感じていた。




