悲しい間違い
水曜から通常の授業が始まった。西山高校は授業が厳しい。二年生になれば、なおさらだ。
始業式の日にやった復習テストの答案がもう返されてくる。
純はテストの点数よりも、後ろの席に村上敏がいることの方が気になってどうしようもない。
『『コミュ障』だなんて思われたくない。少なくとも敏にだけは・・・』
だからと言って、振り向いて話しかけることなど出来ずに、ヤキモキするだけだった。
昼休みになると、部活に入っている生徒たちは新入生の勧誘に行ってしまい、教室はわずかな生徒しか残ってていなくて静かだ。
純は、敏がいないのを確かめると、振り返って彼の机を見つめた。そんなことしか出来ない自分が情けない。
六時間目の授業が終わって、七時間目の体育の授業を受けるため、三組の生徒たちは教室を移動する。
純も他の生徒たちに混じって体育館へ向かった。
二年になって、理数系の授業が増えて純は嬉しかったけれど、一年の時は七時間授業の日が水曜日だけだったのに、二年は月・水・金の週三回になった。
バイオリンにピアノ、家事もこなし、勉強もそれなりにしていくのは工夫が必要だ。
『本も読みたいし、音楽を聞く時間も欲しい・・・』
いつか、伊藤和幸が言ったように、
『電車に乗ってる時間』『寝る前の十分間』を有効に使わなければ・・・。
そんなことを考えながら、純が女子更衣室に入ろうとしたとき、ふいに右肩に痛みが走った。
「ちょっ!まっ!」
肩の痛さと鋭い声に振り向く。
「えっ?」
村上敏の手が痛みの元だった。純の肩をわしづかみしている。
新井良太がかたわらで唖然として敏を見つめていた。
「そっち、女子更衣室だよ」
敏の慌てた言葉に一瞬、周りの空気が固まった。
次の瞬間、すべてを理解して行動を起こしたのは、良太だった。
「ゴメン。なんでもない。気にしないで」
良太は、純の肩の上の敏に手を無理やり引きはがすと、
「行こう!」
敏を引っ張って、男子更衣室へ消えた。
純は、引きずられるように連れて行かれる敏を、ポカンとして見送った。
そしてもう一度、敏の言葉や行動を思い出し、敏の意図に気付く。
更衣室の中に入って着替えながらも、純はずっと敏の目と声を思い出して悲しく落ち込んでいた。
『よりによって、村上君に、男と間違えられるなんて・・・』
体育の授業の間中、敏は純ばかり気にして見ている。
敏もショックだっただろうが、純はそれ以上だ。何故か悔しい感情まで湧いてくる。
体育が終わると、純は大急ぎで着替えて教室へ戻り、帰り支度も急げるだけ急いで済ませ、逃げるように教室を後にした。
敏と顔をあわせたくなかった。




