新しいクラスになって
短い春休みも終わり、四月が始まって、純も今日からは二年生だ。
彼女は、いつものように・・・一年生の時と何も変わらずに・・・登校した。
正門の掲示板に、新しいクラス分けが貼ってあって、生徒たちは皆クラスを確認すると、それぞれの教室へ向かって行く。
純も何も考えず、ただ自分のクラスを確認するために掲示板を見た。
二年の理系のクラスは一組から四組だから、一組から順番に見て行く。
純の名前は三組にあった。
『三組・・・知ってそうな人、いるかな?去年同じクラスだった人とか』
もう一度、三組の名簿を眺めた。
『知ってる名前・・・新井良太君?あ、去年の学園祭のとき、村上君と一緒に踊った人だ・・・』
もう一人、見知った名前に急に純の胸が鳴る。
『えっ?村上敏・・・村上君?・・・同じクラスなの?』
自分の目が信じられなくて、二年三組の名簿を更に見つめる。
純は自分のコースの選択のことだけで頭がいっぱいだったから、村上敏と同じクラスになることなど夢想だにしていなかった。
気を取り直し、あわてて正門の回りを見渡す。
敏の姿はどこにも無い。
『もう教室にいるんだろうか?』
正門前の校舎の二階に、二年三組の教室がある。
純は教室へと急いだ。
教室にも、敏の姿はない。
しかし、良太がクラスの女の子たちと楽しそうに会話していた。
女子のうち一人が純と一年の時同じクラスの子だった。
純は、良太たちの後ろの席に、そっと座ってみる。
「良太」
呼ぶ声がして、良太が後ろのドアの方を振り返った。
「お、敏」
良太の言葉に、純はドキッとして思わず振り向いてしまった。
純の後ろに、村上敏が立っている。
敏は、純の方など見向きもしないで、良太たちの話しの輪に加わって行く。
窓際の席に座っている男子たちとも、挨拶を交わしている。
気さくな敏の雰囲気が、純には嬉しく、そしてちょっぴり羨ましく思えた。
『同じクラスならば、いつかは話しをする日が来るかもしれない・・・』
純は、敏が気づかないのをいいことに、彼の優しげな笑顔を見つめて期待してしまった。
担任の中川先生が入って来た。
「適当に席に着け!」
皆、がたがた椅子の音を立てて、手近な席に座る。
「よし。その席で前期は決まりだ」
中川先生の言葉に、生徒の中からはブーイングの声が上がる。
敏も中央の前から二番目の席に座っていたから、「ええっ!」という声を発していた。
純は純で一人で焦っていた。
『今の席では、黒板が見えない。どうしよう・・・』
目が悪いのに、メガネもコンタクトもしていないせいだ。自信の無い容姿を更に悪く見せるメガネを掛けるのが嫌だし、コンタクトは目の中に異物を入れると思っただけでも怖くて出来ない。
そういうわけで、近視なのに裸眼で通してきた。
先生は、生徒の反応などおかまいなし。完全無視で出席を取り始める。
出席確認が済むと、始業式のために体育館に移動だ。
始業式を終えて教室に戻ってくると、純は思い切って、前の席に生徒たちに声をかけてみた。
真っ先に席の交換に応じてくれたのは、中央の最前列の女の子だった。
なんと、敏の前の席だ。
純は敏の前に座ることになってしまったのだ。
『ドキドキするけど、仕方ない。でも村上君の姿が一番見えない席かもしれない』
そう思い込もうとした。
しかし、それ以上は考える暇もなく、一年次の復習テストが始まった。
昼休み、一年の時と同じように、純は一人で弁当を広げる。
敏は良太と一緒に女子たちと弁当を食べはじまった。
彼たちのひそひそ話しの会話に、『住吉純』の名前が出たのに気付いた。
音に敏感な純は素知らぬ顔で聞き耳を立てた。
『成績』『変わってる』『無口』
の単語。
『そう言われても、仕方ない・・・』
とは思ったけれど、敏の声で『コミュ障なの?』というささやきが聞こえてしまった。
純はがっかりしすぎて、食べていた弁当を途中でやめた。
スマホを取り出しイヤホンを耳にして、音楽をかけて耳をふさぐ代わりにした。
『勝手に村上君にドキドキしていた自分が恥ずかしい・・・』
悲しくて、スマホの音量を上げた。
午後のテストが終わっても、純は後ろを振り返らないように急いで帽子を被ってリュックを背負い、前のドアから逃げるように出て行った。
明日は、入学式で部活説明会に出ない生徒は休みだ。
純は、敏と顔をあわせなくて済むことに、悲しい安堵感を覚えていた。




