貴兄さんからの誕生日プレゼント
短い冬休みが終わり、日常が戻って来た。
清水渡と辺見憲人は高校受験で忙くしているようだ。
純と貴久が通っている西山高校の受験日の前日、夜遅くに憲人から純のスマホに電話があった。
憲人が珍しく弱音を吐く。
「緊張して眠れない」
「大丈夫だよ。憲人なら絶対受かるから」
去年の夏、憲人が約束したように、人一倍彼が努力していて、成績も上がっていたのを聞いていたから、太鼓判を押した。
「そう?本当に大丈夫かな・・・」
「絶対大丈夫。明日は落ち着いて。頑張って」
純は電話口で微笑みながら応援した。
憲人は少し落ち着いたようで、純に礼を言うと、電話をすぐ切った。
純は憲人が西山高校に合格できるよう心の中で祈る。
西山高校の受験日は、在校生は休校だ。
純が、勉強部屋にあるアップライトピアノを弾いていると、勉強部屋の東側にある外に通じるドアを叩く音がした。
「おーい」
貴久の声だ。
ドアを開けると、バイクのヘルメットを二個持って、ダウンジャケットを着こんだ貴久が立っていた。
「ヒマか?」
勉強部屋にずかずか入って来る。
「なに?」
「なんか食べさせて」
いつものように、食事だけが目的なのかと純は思った。
「昼飯食ったら、ツーリングに行くぞ」
「ツーリング?」
「もう一個、ヘルメット買ったから、後ろに乗せてやる」
「貴兄さんのバイクって、二人乗り出来るの?」
「なんだ、そんなことも知らなかったのか」
貴久はあきれた顔だ。
「とりあえず、メシ・・・」
一瞬甘えた顔の貴久を、純は可愛らしく感じた。
「わかったから」
「絶対に・・・」
「卵焼きも、でしょ?」
思わず笑って、純は勉強部屋をあとにした。
食事を終えて、貴久のバイクに二人乗りして出発する。
貴久の腰に純が腕をまわして、背中にぴったりくっついて・・・。
風が身を切るように冷たいのに、貴久の背中と純の胸だけは温かい。
純は、その温かさを感じる余裕は無いくらい、スピード感に耐えていた。
貴久は背中の温かさに、ヘルメットの中で微笑まずにはいられなかった。
向かったのは、大きな池もある記念公園。
冬の平日だから、人影もまばら。
バイクを駐車場に停めて、入口でチケットを買う。
貴久は二人分のチケットを買った。
「お金、出すよ」
純の言葉に、貴久は手を振る仕草をして、それを止めた。
「いいよ。これは誕生日のプレゼントだ」
純の誕生日は来週の木曜日だ。
「え?これが?」
「不満?」
「べつに、不満じゃないけど」
「ヘルメット買ったから、これ以上は無理。たまにバイクに乗せてやるから」
貴久は、純をバイクに乗せて走りたくて、もう一つヘルメットを買ったのだ。
純へのプレゼントというより、自分のためでしかないのを、貴久はちゃんと認識していた。
冬の公園は、風が冷たかったけれど、陽射しは明るかった。
枯れ葉がカサコソ言う林の中を、ぽつりぽつり話しをしながら散歩したり、子供みたいに広場の遊具であそんでみたり。
純は、貴兄さんからの誕生日プレゼントがとても気に入った。




