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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第一章
24/74

ふわ雪

冬休みに入ってすぐ、純は風邪をひいて熱を出した。

バイオリンのレッスンを休んだから、一緒に習っている憲人から連絡が行ったらしく、すぐに音楽教室の仲間たち全員からメッセージが届く。

貴久からは電話が来た。

「憲人から、純が熱を出して寝てるって連絡あったぞ」

「うん」

「熱は何度ある?」

「さっき測ったら、三十八度二分だった」

「病院行ってないだろ?」

純が病院嫌いなのは周りの皆は誰でも知っている。

「うん、行ってない」

「行けよ。それだけ熱が高いんじゃ体が辛いだろ?」

「やだ。行きたくない」

「叔父さんに連れて行ってもらって、行って来いってば」

「注射されるから嫌。それに、お父さん一昨日から出張で留守だもの」

「藤井さんは?」

家政婦の藤井は休暇中だし、病院に連れて行くことは契約に無いのだと純は貴久に告げる。

それを聞いた貴久は、母の京子と話をしているようだ。

「母さんが迎えに行くって。しばらく家に来てろって」

純は久しぶりに金松の家に泊まることになった。


京子伯母の車で、純が金松家に到着する。

貴久が待ち構えていたように、玄関に出て来た。

「はやく、二階へ行って寝ろよ。クリスマスがもうすぐなのに、熱なんか出してる場合じゃないぞ」

平然を装いながらも、貴久が嬉しそうなのを、母の京子は見てとった。

純はだるそうな顔のままうなずいて、玄関から直接二階へと上がる。

貴久は京子から荷物をひったくるように取りあげると、純のあとを追った。


二階の三つならんだ西側の角部屋は、純が中学時代を過ごした部屋だ。

「貴兄さん、出てもらっていい?」

荷物を置いた貴久に、部屋を出るよう促す。

「ん?」

何でだ?という顔の貴久。

「パジャマに着替えるから」

「あ、ごめん」

貴久が迂闊うかつさに気付いて少し顔を赤くしたとき、純のスマホでメッセージの着信音が鳴った。

純は画面を確認しただけで、返信せずにベッドにスマホを放置してしまっている。

どうやら、音楽教室の仲間たちではなさそうだ。

「誰から?」

「ん?うん・・・伊藤建設の息子さん」

「あ、あの?」

「うん・・・」

「返信しないの?」

「うん、後でするから」

聞いてはいけないとは思いながらも、貴久は聞かずにはいられない。

「なんて?」

「え?」

「何て言って来たの?むこう・・・」

純とどんな話しをしているんだろうか。どんな人なんだろうか。純を問い詰めたくなる。

「あのね・・・。クリスマス・イブに一緒に出掛けないかって」

貴久は一瞬顔の血の気が引いたような感覚におちいる。

「ふうん・・・。で、どうするんだ?出かけるのか?」

無理やり平気を装う。

「貴兄さん。私、熱があるんだよ。そんな人がお出かけする?」

純の言葉に、内心ちょっとほっとする。

「だけど、イブまで二日ある。それまでに熱が下がったら?」

「行かないつもり。早く治して、イブは伯母様とケーキを作る約束をしたんだもの」

純はさっき、金松家に来る車の中で、クリスマスも正月も金松家で過ごす約束をしたのだと言う。

「そっか」

貴久は思わず笑顔になる。

「とりあえず、私、着替えるから・・・」

純が疲れた顔で貴久を追い払おうとする。

「うん。ごめん。じゃ、ちゃんと寝てろよ。それと、早く返信しちゃえよ」

「わかってる」

純は貴久が部屋から出て行ったと同時に、スマホを拾い上げた。

和幸からのデートのお誘いを、丁寧な文面で理由を述べて断った。


大晦日に父親の勝も合流して、純はお正月も金松の一家と過ごした。

純の目にも、こころなしか貴久がいつになく機嫌が良いように見えた。


お正月の三日目、貴久の部屋で、弟の泰久やすひさと純はゲームをしていた。

貴久はベッドに寝そべって、ゲームの画面を覗いて何やかや言い騒いでいたと思ったら、

「あっ!雪・・・」

貴久が寝そべったまま、窓を見ている。

純と泰久は、ゲーム機を放り出して、小さな子供みたいに窓辺に張り付いた。

真っ白な雪。ふわふわ舞っている。

「きれい・・・」

純は窓を開けた。

冷たい風が入る。

去年の今頃を純はふと思い出す。

『受験のことで父と揉めていて嵐のようなお正月だったんだ』

「今年はいいことがあるよ。きっと」

まるで、純の心を読んだように、貴久が優しい言葉をくれる。

「うん・・・きっと、ね」

純が微笑むと、

「いいことって何?」

と、泰久。

「それ、今から分かっちゃったら、つまんないだろ?」

貴久が笑顔で答える。

「そういうもの?」

「そういうもの!」

やりとりが可笑しくて、三人で笑ってしまった。

『貴兄さんの笑顔も、泰久の笑い声も、私を安心させる。今年は何かいいことがあるかもしれない・・・』

貴久が言ったように、この雪が新年を占うものとなるのだろうか。
















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