あきらめに似た秋
和幸の言葉もあって、純はやっと夏休みに買った本を読んだ。
思っていた通り、内容に夢中になる。
学校の授業の歴史は、好きではなかったけれど、建築に焦点を絞って歴史を追っていくのは面白かった。
設計図の描き方の本は、さらに興味深かった。
ときどき、父親の仕事で目にする設計図が、どういう意味を持つのか解り易く書いてあった。
『音楽だけを目標にしなくてもいいのではないか』
そういう考えも、純の頭によぎるようになった。
だからと言って音楽をあきらめたわけではなく、ただ漠然と思っているだけだけれど。
学校の図書館で勉強するついでに、手当たり次第に色んなジャンルの本を借りて読むようになった。
建築だけに夢中になるのが怖い・・・そんな理由だった。
十一月も下旬になると、西山高校はマラソン大会が行われる。
男子は十キロ。女子は三キロの距離を走る。
西山高校に一番近い、市営の運動公園を借りて行われる。
陸上競技場の中からスタートして、運動公園の中を周回して競技場に戻って来る。
受験生の三年生は自由参加だけれど、一、二年生は全員参加が原則だ。
番号の付いているゼッケンをつけて、一年一組からクラスごとに五分おきにスタートする。
一学年四百人ほどの生徒がいるから、スタート地点は人の波だ。
純のクラス一年三組もすぐにスタートした。
紅葉も終わりかけで、運動公園の中はいたるところ色づいた落ち葉で綺麗だ。
女子は三キロしか走らないから、短時間でゴールする。
それでも、純は体育の時間くらいした走ったりしないから、息切れして苦しかった。
純はゴールしたあと、競技場のスタンドに座り、持って来た水を飲んでいた。
男子生徒が十キロを走りぬき、続々と戻って来るのが見える。
『千二百人もの生徒が集まっているんだ。その中の一人など、見分けることなんて出来ない・・・」
純は、そうどこかで思っていた。
たくさんの生徒が走って来るのだから、人ごみに紛れて、誰が誰だかわからないはずなのに。
半そでのTシャツに短パンの村上敏を、純は見つけてしまった。
『本当に、久しぶり・・・』
少し伸びた髪が光で茶色に透けて見えて、彼の優しい顔を縁取る。
純はグランド上の彼を見つめた。
何故か、寂しく悲しいような気持ちがあふれ出る。何かをあきらめたときのような侘しさを感じる。
そんなことを思って、一瞬彼から目を離した隙に、純は敏を見失っていた。
視界のどこを探しても、もう、敏の姿を探すことは出来なかった。
紅葉した落ち葉の印象を残して、敏の姿は純の記憶の中のものとなった。
虚しさだけが、純の心を支配していた。
十二月に入ってすぐに、後期の中間試験があり、結果が出るとすぐに、二度目の文系・理系のコース選択の問い合わせがあった。
三者面談の時の希望と違う生徒だけが変更届を出す。
純は、変更届を出すことが出来なかった。
今回の試験の結果を見ても、そして好きなものも理系だったし、二年から三年に進級するときにも、コース変更が可能だという、どこか問題を先送りにする甘えもあった。
今は、あえて父親と揉めることをする気には、どうしてもなれなかった。




