小さな秋の憂うつ
夏休みが終わり、授業が再開した。
純は、夏休みの間に、クラスメイト達が急に大人びたように感じた。
『私もどこかは、変化しているんだろうか?』
自分では、自分の成長など感じられず、何か取り残されたような気持ちになってしまう。
前期の期末試験が近づいていて、焦りも感じる。ざわついた夏休みだったのもあって、勉強し足りない気がして。
勉強、ピアノ、バイオリン。そして家の用事。
それらで精一杯だ。
もうすぐ試験という、九月の半ばの日曜に、純は父の勝と共に、金松家の夕食に招待された。
一緒に住んでいたときのように、伯母の京子の手伝いをし、テーブルに料理を並べる。
チラチラ、貴久の様子を伺うが、泰久が邪魔をして内緒の話しなど出来そうも無い。
そうしているうちに、夕食が始まってしまった。
「貴兄さん、元気?」
大人達の会話の隙を狙って、純は貴久に声を掛けた。
「純ちゃん、兄さんに『元気?』って。同じ高校なんじゃないの?」
泰久がツッコミを入れる。
「校舎が違うから、意外と会わないよね?」
純が貴久に同意を求めた。
「うん、そうだな」
貴久は余計なことは言わず、短く答えただけで黙ってしまう。
大人達がいる席で、優奈のことなど聞けるわけもなく、純までが沈黙してしまった。
翔が言ったように、貴久が落ち込んでいるようには見えなかった。
帰り間際、純が貴久のそばに近付いて、
「大丈夫?」
と、聞くと、
「なにが?」
と、貴久は聞き返す。
「ううん、元気ならいいの」
それ以上は周りの目を気にして、純は話しを続けられなかった。
「じゃ、またな」
貴久はそれ以上『何も言うな』とでも言いたげだ。
「じゃ、また」
純は話しを諦め、勝と帰路についた。
期末試験が始まると、純の忙しさはピークに達する。
午前中は試験。急いで帰宅。食事をしたら勉強。
勉強に疲れたら、ピアノ。発表会の課題曲の練習。
しかも気持ちの乗らない曲。思い通りに弾けない曲に、最近は八つ当たり気味だ。
全ての試験が終わり、解答用紙が返されてくる。
純にとって、不得手な科目がどれなのか、如実にわかる結果だった。
『順位がかなり落ちたな』
と、覚悟した。
結果が発表になると、総合順位が五番だった。想像していたほど悪くははかったけれど、中間試験より悪い。
純は、掲示板の前でため息をついた。
期末試験が終了すると、夏休みが終わったばかりなのに、二期制の西山高校は三日間の休みがある。
西山高生は『秋休み』と読んでいる。
前期終了の終業式のあと、ホームルームがあり、担任の加藤先生から成績表と共に、三者面談の通知が渡された。
希望の進路。
それにあわせて、二年から文系か理系かどのコースを選択するのか、保護者とよく話し合ったうえで、三者面談に臨むようにと、注意書きがある。
二年で文系コースを選んだ場合、三年で理系に変えるのはほぼ不可能とのこと。
理系から文系に変えるのは、比較的可能であること。
二年になるまで、三者面談を含め、三回希望を問うとのこと。
最終は一年の二月で、そこでクラス分けを決定するとのこと。
明記されている。
純は、父親との話し合いを思うと、憂うつでたまらなかった。
三日間の『秋休み』の初日。
純がため息をつきつつ課題曲の練習をしていると、インターホンが鳴った。
貴久だ。
「どうしたの?」
メッセージも無しでの突然の訪問に驚く。
「秋休みがあるのは西山高生だけだから、ヒマなんだよ」
秋休みの期間は、『部活も強制的に休みだ』と貴久がぼやく。
「バイクに乗って来たの?」
貴久の手にはヘルメット。
「ああ。それより、何か食わせて」
時刻は十二時近い。
「何でもいいなら」
「いいよ、なんでも。でも、卵焼き作ってよ」
『貴兄さんのおねだり・・・これが優奈さんと別れた原因・・・』
今さらどうしようもないことを、思ってしまう。
黙々と食事をして、貴久はまたバイクに乗って行ってしまった。
「何をしに来たんだろう」
思わず純は独り言を言う。
『ご飯を食べたかっただけなのか・・・。貴兄さんの訳の分からなさは相変わらず。ニ、三回会っただけでは、理解なんかできないよね・・・」
しかし、貴久が元気そうで、純はホッとしていた。
後期の授業が始まった。
純は相変わらず、一人で昼食を食べ、昼休みは図書室へ。
放課後はさっさと帰って家で過ごす毎日。
火曜日のバイオリン、土曜はピアノへ。
そしてm近づくピアノの発表会に向かって、課題曲を苦心しながら練習。
十月の最終週の日曜に発表会。
その週には三者面談がある・・・。
学校からの文書を手渡しているのに、純はまだ一度も父親の勝と進路について話し合っていない。
高校受験のときのことを思うと、進路の話しに触れるのを、勝もためらっているように、純には思えた。




