side ネロ
「…………。」
耳をすませても、誰かがいる気配はしない。
そう考えてから、私はそっと詰めていた息を吐き出した。
自分で思っていたよりも緊張していたらしい。
それにしても。
「…………。」
思い出すのはさっきまでのこと。
再会した二人、信志とアイリス。
まさかこんなところで再会することになるとは思ってもいなかった。
ここは、メラーシュともましてや信志達がいた国とも違う。
そこまで離れている場所でもないから、絶対に会わない、とは思っていなかったけれど、まさか本当に会うとは思っていなかった。
「……。」
そして。
信志は相変わらずのようだった。
魔族を連れていると言うのに、その扱いは人間と変わらないのだろう。
メラーシュで私に同じようにしてくれたように。
「…………っ。」
そこまで考えて、ふと手に痛みを感じる。
目を落とすと、強く握りしめて小さく傷でもついたのか、血がにじみ出ていた。
そこでようやく、全身から力が抜けていないことを自覚した。
「……疲れた。」
口にして、座り込んで。
ようやく体から力を抜くことができた。
どうして、ここまで緊張しているのか。
自問するとすぐに答えが返ってくる。
(……私も……。)
私も、あっち側に行きたい。
行きたい、信志の側へ。
魔族だ、人間だと、そう言うのはもうとっくに飽きている。
けれど、いまはまだできない、行けない。
それを悟らせないために、自分でも知らないうちに緊張し、全身に力を込めていた。
悟ればきっと、信志は私を助けようとしてしまう。
『面倒臭い』と言いながらも、行動してしまう。
どんな危険でも、彼はやろうとしてしまうかもしれない。
おそらく、私と、私以外の魔族も巻き込んで。
それだけはどうしても避けたかった。
「…………。」
自分にそれだけの価値はない。
仮に万が一、うまくいっても私は自分を責めることになってしまう。
もうこれ以上ーーー。
「考え事ですかな?」
「……なんでもない。」
急に降ってきたかのような言葉に、慌てて返事をする。
下に向けてしまっていた視線を上げると、そいつは立っていた。
「左様でございますか。それは失礼しました。」
そう言ってお辞儀をするそいつは、ヤギの頭をしていた。
その頭からヤギの体があって。
そして、二本の足で立っていた。
「では、次へ参りましょうか。」
「……わかった。」
促されるまま、そいつについて歩き出す。
今はまだそいつ、そいつの上にいる存在に逆らえない。
そのことに、心の中で大きく息を吐いて。
そして。
ゾワリ、と心の底が疼く。
その疼きが『喜び』の感情だったことを知るのは、もう少し先のことだった。
こんばんは、Whoです。
久しぶりのネロサイドです。短いです。
はたして彼女が、信志の元へ行ける日はくるのか。
ではでは。




