side ユーグ
暗い地下通路。
そこを、僕は全力で走るはめになっていた。
「よっと!」
気合一閃。
腕で、目の前の敵をまとめて薙ぎ払う。
もちろん、それだけで倒れてくれる相手じゃないようなので、そのまま走り続ける。
理由はかんたん。
襲われているからだ。
(こいつら、気配をほとんど感じないのに、実体はしっかりある……。)
考えながらも足と腕は止めない。
逃げ続けないとすぐに囲まれてしまうだろうし、なにより、こいつらは僕の天敵に近い。
(まったく、触れるもの全てが腐敗していくなんて。)
言っているうちに、腕に纏わり付かせた植物が枯れ始める。
僕の力で若干の強化をしているとはいえ、力には相性がある。
流石に『腐る』という自然現象そのものを起こされては、どうすることもできない。
それにしても。
「ッーーーーー。」
「あいつからはまた違った何かを感じるな。なんだろ、あれ。」
僕を追いかけてくるのの一つは、無形の黒い闇。
それがある程度の塊となって、僕に迫ってきている。
それはまだいい。
いや、よくはないけど、腕で払える。
問題はその後ろ。
声にならないような叫びをあげて、迫ってくる大きめの、人間大の何かが一つ。
足が生えているところを見ると、ますます人間のような見た目なのだけど。
『それ』からは、一切の生気を感じない。
曲がりなりにも『生』を司っている僕とは真反対に位置するような『それ』。
「くそっ!」
再びまとわりついてきた闇を、新たに力を込めた腕で薙ぎ払う。
走って払って、また走って。
とにかく動き回りながら、打開策を考える。
このまま闇雲に逃げ回っても、こちらが疲れるだけ。
ならばどうするか。
「喰らえ!!」
「!!」
振り返ることもなく、後ろに向かって荊を張り巡らせる。
それは確かに、触られた部分から腐って崩れていく。
それでも、全てが一斉に崩れるわけじゃない。
一瞬の動揺のあと。
うっとおしそうに荊を触り始める『それ』を見て。
僕は全速力でその場を後にした。
◇◆◇◆◇◆
と、思っていたのだけれど。
「まさかもう一人いたとは……。」
「…………。」
目の前。
逃げてきた方向にはまだ荊が巻きついている。
それとは反対側。
つまりこれから逃げるはずだった、まさにその方向にその少女は立っていた。
「……まさか、君がこんなところにいるとはね。」
「…………あなた、だれ?」
僕の言葉に、その少女は目を細める。
そういえば彼女は僕を見たことはなかったんだったか。
その少女(あの二人には「ネロ」と呼ばれていたんだっけ?)は、細めた目をそのままに、ゆっくりとこちらへ向かってきた。
「…………私はあなたをしらない。」
ゆっくりと、その歩き方に合わせるように少女は喋る。
「…………けれどあなたは私を知っている?」
「……。そうだね、僕は君を知っている。」
「…………そう。」
「っ!」
言った途端、彼女の力が膨れ上がるのを感じた。
反射的に出現させた植物の壁を、その力はやすやすと貫いて。
「…………残念。」
僕のすぐ横の壁に直撃した。
ちっとも残念そうじゃないその言葉を聞きながら、冷や汗をかく。
振り向かなくてもわかる。
派手な爆風も、目がくらむような閃光もない。
それなのに、直撃したその場所は腐って溶け落ちていた。
「…………次は外さない。」
そのまま、力をもう一度膨れ上がらせる少女。
さっきの一交錯でわかったように、僕の力は彼女とも相性が悪い。
けれど。
だからこそ、僕は『僕の力ではない』力に頼ることにした。
『信志!アイリス!こっちだ!!』
「っ!…………その、名前…………!!」
反応する目の前の少女に、ウインクを一つ。
呼んだ名前はあの二人。
メラーシュで目の前の少女と出会った、二人の名前。
そのすぐ後で。
二つ、いや三つの足音が聞こえてきた。
……。
…………。
…………え?三つ?
この時の僕はまだ、彼らにもう一人、仲間が増えていることを知る由もなかった。
こんばんは、Whoです。
ユーグは少し間抜けなところがあって、なおかつ少しばかりのお茶目なキャラ、というあたりを目指しているんですが上手く表現できているでしょうか。
この章が終わっても出番がありそうなあたりを目指しているので、暖かく見守ってくださいね。
ではでは。




