side アイリス
「あ、おかえりなさいっす。」
「うん、ただいま。」
「ただいまです。」
あの後、地下水路で出会ったユーグさんと別れて、私たちは帰路につきました。
家に帰り着くとロットさんが出迎えてくれます。
側にはあの魔族の方もいます。
「もう、大丈夫ですか?」
「…………。ええ、なんとかね。」
私が声をかけると、プイとそっぽを向きながらも、そう答えてくれました。
もう、先ほどのように取り乱すこともないみたいです。
「もうこっちのお腹の準備はできてるっすよ。」
「じゃ、せっかくだし、ご飯にしながら自己紹介でもしようか。」
早く早く、と急かすロットさん。
そのお腹からは、かすかに音が聞こえてきます。
私たちは信志さんのその一言で、一つのテーブルを真ん中に座りました。
私の横に信志さん、そして正面にロットさん。
それから信志さんの正面に、魔族の方。
「ボクは信志、椿信志。故郷は……、ずっと遠いところ、って言えばいいのかな?」
「アイリスです。ユーステスから来ました。」
「ロットっす。自分はお二人とユーステスで出会ったっすね。」
信志さん、私、ロットさんと紹介を済ませ、今度は。
「ラミアよ。」
一言。
魔族の方、ラミアさんは言いました。
取り乱すことはなくなったみたいですが、やはりまだ、私たちを警戒しているようにも見えます。
「で?あなたたちは、私たち魔族と仲良しになりたいんだったかしら?」
そのままの視線で私たち、というよりも信志さんにめがけて尋ねます。
ちょうど、そのことを言おうとしていたので、信志さんの動きがピタリと止まりました。
「あれ?ボク言いましたっけ?」
「まだよ。でも少しだけロットちゃんから聞いたわ。……その時は半信半疑だったのだけどね。」
ふぅ、と一度ラミアさんは息を長く吐きます。
そして。
「あなた、舐めているのかしら?」
「…………。」
強い口調で、信志さんを睨みつけました。
ガタタッ!!
ラミアさんの体から魔力が溢れるのを感じて、思わず立ち上がってしまいます。
すぐそばでは、ロットさんも同じように立ち上がっていました。
「私たちは敵なのよ!?それを今更?……できるわけないわ!」
「…………。」
収まる気配のないラミアさんの魔力に、思わず私も何かしてしまいそうになった、その時でした。
「確かに今のままじゃできない。だってラミアさんですら、こんなに怯えてるし。」
「……へぇ、私が怯えてる?不思議なことを言うじゃないか。」
先ほどまで黙っていた信志さんが、そう言いました。
その言葉に、ラミアさんは当然ながら、私も、そしておそらくはロットさんも驚きました。
ラミアさんが怯えている?
私には怒っているようにしか見えません。
「当然だよ。ボクだって怖い。めちゃくちゃビビってる。」
「それはそちらのことでしょ?なんで私も怯えることになるの?……なんにも知らなくせに。」
「うんそう、その通り。知らないんだ、何も。……、だから、怖い。」
信志さんが最後に付け足したその一言に、今度はラミアさんが黙ってしまいます。
「ボクはそれを無くしたい。知らないから、見た目が違うから。そんな理由だけで、種族全部を否定するなんてもったいない。」
続いた言葉に今度は目をパチクリとさせました。
ですが、今度は言葉を返して来ました。
「……ふぅん、じゃあ、私にも首輪はつけないつもり?」
チラリ、とロットさんの方を向いて、言うラミアさんに。
「うん。奴隷にしたりなんてしない。もうここで暴れたりしないって、信じてるから。」
「……はぁ。」
信志さんは考えることもせずにそう言います。
それには流石に言葉を返せなかったのか、ラミアさんはため息をつきました。
「そう……。じゃあ私はこれで失礼するわ。」
「え?まだなにも手をつけてないっすよ?」
「食欲がなくなっちゃったの。ごめんねロットちゃん。」
「そう、っすか。」
立ち上がると、廊下へ向かいます。
そしてそのまま、部屋の奥に消えていきました。
◇◆◇◆◇◆
「ふぅ…………。」
少しして。
信志さんも長めの息を吐き出しました。
「お疲れ様でした。」
「うん。あー……緊張した。」
そう言って突っ伏す信志さんに、横から声をかけます。
「私もドキドキしてしまいました。信志さんは怖くなかったんですか?」
「実はめちゃくちゃ怖かった。いつ攻撃されるのかと。」
「えっ?」
帰って来た言葉に、思わず驚いてしまいます。
なぜなら、さっきまで信志さんは、口では怯えていると言いながらも、決してそう見えなかったからです。
「怖いよ。でも、だからと言って、怖がっていても仕方ない。」
だから、必死で怖くないふりをしていた。
そう言って笑う信志さんに。
やっぱり、そうやってできるのはすごいことです、と心の中で思いました。
こんばんは、Whoです。
ユーグとはもう少し話したことがあったのですが、それはおいおいと。
忘れているわけではないのであしからず。
さて、ラミアさん。
彼女にも首輪をつけることはない、と言った信志ですが、はてさて。
ではでは。




