side アイリス
「きゅ、急にどうしたんですか!?」
夜の街の中。
急に走り出した信志さんのあとを、私も必死についていきます。
「聞こえたんだ、声が。」
「こ、声、ですか?」
「うん。」
ちらりとこちらを振り返りながら信志さんが言います。
けれど、その声は私には聞こえてきません。
耳をすませても、聞こえてくるのはさっきまでも聞こえていた街の音だけです。
「アイリスは覚えてない?メラーシュでのことなんだけど。」
ふと、足を止めた信志さんが、あたりを見回しながら聞いてきました。
「レンツくんや、グラッドさんに会う前。あの魔族に襲われた時!」
「…………ぁ。」
言われて、やっと思い出します。
まるで頭の中で、もやもやしていたものが急に晴れる感覚でした。
さっきまでは気にもできなかったのに。
「あ!ああ!!」
「…………こっちだ!」
一度思い出すと、どんどん思い出して行きます。
メラーシュで最後に出会った魔族。
襲われた私たちは確かに、不思議な声を聞きました。
それから……。
「それで、その声がまた聞こえたんですか?」
「うん、一瞬だけだったけど、確かに聞こえた。」
確かに気になります。
どうして今なのか。
どうして助けてくれたのか。
どうして、私たちにだけ聞こえたのか。
「でも、どうしてまた聞こえるようになったんでしょう。」
「……わからない。」
だからこそ、と信志さんが言ったような気がしました。
でも、私はそれを確認することができませんでした。
それを確認する前に、その信志さん自身の足が止まってしまいましたから。
「ここは……。」
「うん。」
たどり着いた場所。
信志さんが声を聞いて向かっていた場所。
それは。
「昨日降りた地下水路の入り口、ですね。」
呟くように言ったはずの私の声が、その時はやけに大きく響いたようでした。
◇◆◇◆◇◆
ピチャン……、ぽちゃん……。
「暗いですね。」
響いてくるのは水の音だけ。
見えるのは暗い道だけ。
昼間とは違って、差し込む光もまったくなく、本当に真っ暗でした。
「っひゃぁ!!」
突然私の手のひらに何かが触れました。
思わず声を上げてしまい、手を引っ込めます。
「あっとと。ご、ごめん。」
隣では信志さんが申し訳なさそうに頭を下げていました。
どうやらただ手が当たっただけのようです。
そのことに気づいて、咄嗟に残念に思ってしまいます。
(信志さんの手……。)
繋ぎたい、と思ってしまってから頭を大きく振ってその考えを追い出します。
今はそんなことを考えている場合ではありません。
でも……。
「あー、えっと。……こ、転ぶと危ないし、手、繋いでおこうか?」
「そ、そうですね。転ぶと危ないですから!」
詰まりながらも、二人で言い訳をし、手を取り合います。
もちろん転ぶと危ないのも本当です。
「!」
「あ、これって。」
瞬間、信志さんの手のひらがぴくりとしました。
同時に私もぴくりとしてしまいます。
それはもちろん信志さんと手を繋いだから、ではなく。
聞こえてきたからです。
今度は私にもはっきりと。
「アイリスにも聞こえた?」
「はい、今度は聞こえました。」
あの、メラーシュで聞こえた声。
その声が確かに、私たちの向く方向、水路の奥から聞こえてきました。
「行こう!」
「はい!!」
しっかりと手を繋いだまま、私たちは水路の奥へと進んでいきました。
◇◆◇◆◇◆
「信志さん、あれ……。」
しばらく進んだ先。
私たちが昼間に進んだのと同じくらいの距離を歩いた場所に、それはありました。
「うん。なんだろ、あれ?」
「魔法陣?とは違う気がしますが。」
青白く光る、まるいなにか。
それが水路の真ん中で輝いていました。
『やぁ、久しぶりだね?元気だった?』
そしてその中から、今度こそはっきりと聞こえてきました。
その声はやっぱり、聞いたことのあるあの声で。
「……へ?」
『?』
同時に。
うっすらと光がおさまって、見えてきたのは。
「え?きゃ、きゃぁぁぁああ!!」
なぜか裸の男の人でした。
こんばんは、Whoです。
戻ってきた地下水路にいた(あった?)のは全裸の男。
その正体やいかに。
もちろん光は完全には消えていません。
全裸のように見えるだけです。
ではでは。




