side アイリス
「では次は……これはどうですか?」
その日は庭で、信志さんとロットさんの三人で実験をしていました。
なんの実験か、と言われると……。
「『スプラウション』!!」
図鑑に描いてある『プネ』と記されている植物の絵を見て、しばらく目を閉じた信志さんがスプラウションを唱えます。
しかし、庭には何も変化が起きません。
「うーん、これもだめか。」
「じゃあ、こっちはどうっすか?」
別の本のページを開いたロットさんが絵を指します。
そこには……ええと。
「なに、この……なに?」
「なにって、さっきから何どもやってるじゃないっすか。これも草っすよ?」
「まぁ、そう見えなくもない……かな?」
確かにどことなく植物に見えなくもありませんが、私には見覚えがありません。
ロットさんの住んでいる場所にはよく生えていたのでしょうか?
それも信志さんはスプラウションで生やそうとしますが、やはりなにも起きません。
「やっぱりだめかぁ……。」
「っすねぇ。」
「みたいですね。」
信志さんの役割『操草師』、その能力である『スプラウション』には生やせるものとそうではないものがある。
そう言った信志さん自身が今日のこの実験を提案しました。
そこで私たちは、この世界の植物が載っている図鑑を借りてきて、その実験に協力することにしました。
あいにく今日はまだ、一度も成功していませんが。
「でも、この街に来て見つけた薬草はできたんだけどなぁ。」
「『ヒス』の葉、っすね。そういえば今のところ、あれだけできるんすね。」
「なにか理由があるのでしょうか?」
「うーん……。」
信志さんが生やせるのは、元いた場所にもあったものと、ヒスだけ。
なにかルールのようなものがあるのでしょうか?
と、三人で頭を悩ませていた時。
くぅ……。
そんな気の抜けるような音が聞こえて来ました。
ちょうど静かなタイミングだったので、やけに大きく聞こえます。
「あ、あはは。久々に頭使ったからお腹空いちゃったっす。」
「そういえばもうお昼か。……一度、ここまでにしようか。」
「賛成っす!」
お昼も近いということで、実験を切り上げた私たちはギルドへ向かうことになりました。
もちろんお昼ご飯と、今日の仕事をもらうためです。
◇◆◇◆◇◆
「地下水路の調査、ですか?」
お昼も終えて。
三人でお仕事をもらいに行くと、受付嬢さんからされた話は少し意外なものでした。
「はい。この街の地下には水を流すための水路があることはご存知ですか?」
「はい。あちこち動き回りましたから。」
「そうでしたね。ではその辺の説明は省かせていただいて……。」
確認をしたあと、受付嬢さんは地図を取り出しました。
私たちももう見慣れた、この街の地図です。
「この街の水路は川の流れを途中で分けた水で作っています。」
街から少し北側に指を置いて、川をなぞって行きます。
その途中で川が二つに別れ、その一つがこの街に流れ込んでいます。
「そのせいか、どうにもゴミが溜まってしまうのです。そのゴミの状態の確認と、持ち運べる分のゴミの回収をお願いしたいのです。」
「なるほど……。」
「お願いできますか?」
どうする?と振り向く信志さん。
私たちも特に断る理由はないので、ロットさんと二人で頷きました。
「わかりました、受けます。」
「ありがとうございます。ではこちら、使い捨ての簡単な松明と、地図をお渡ししますね。」
そう言って渡されるのを受け取り、私たちはギルドを出て、街の地下へ向かいました。
◇◆◇◆◇◆
「これは。」
「思った以上に。」
「汚いっすね。」
地下に降りて一言目を三人で言ってしまいました。
それほどまでに地下の様子はひどいものでした。
まず、水はほとんど流れていなくて淀んでいます。
受付嬢さんの話では、こうならないために流れをそのままにして流し込んでいるはずですが……。
「あー、やっぱり結構流れ込んで来てるな。詰まったのはこれが原因かな?」
水路の両脇を挟むようにしてある通路を少し進むと、水路を塞ぐようにして積み重なった葉っぱや枝がありました。
たしかにこれは、掃除をしないとすぐに詰まってしまいます。
「ただ確認するだけなのもアレだし、少し崩していこうか。」
「気をつけてくださいね。」
信志さんが通路から手を伸ばして届く範囲の枝を避けると、そこから水が流れ込み、少しずつ流れて行きます。
これで少しはましになるのでしょうか?
ともあれ、ここからはどんどん暗くなるみたいなので、松明に火をつけます。
ぼんやりとした明かりが、少し先の道までを照らします。
「よし、じゃあ気を取り直して出発!」
「頑張りましょう。」
「りょうかいっす!」
◇◆◇◆◇◆
「ん?これは……。」
「ロットさん?どうしました?」
しばらく歩いたところで、不意にロットさんがしゃがみこみました。
そのまま目の前のゴミに手を伸ばして。
「あぁ、やっぱりっす。」
立ち上がったロットさんの手には一本の花、のようなものでした。
「自分の住んでたところによく生えてた草っすね。この辺じゃ珍しいはずっすけど、どこかで咲いてるんすかね?」
「へー、見せて。」
「どうぞっす。」
信志さんの伸ばした手の上に置かれる花。
丸くて、黄色い花の一部に赤い線が入っています。
「これ、名前はなんていうんですか?」
「えーと、確か。そう、『リシュー』っす。」
ロットさんが花の名前を教えてくれたのと同時。
ドサッ!
「!!」
「今の音は!?」
「こっちっす!」
明らかに誰かが倒れるような音。
それが私たちの進もうとしていた方向から聞こえて来ました。
こんばんは、Whoです。
街の中の水路。
そこで聞いた音の正体やいかに。
ではでは。




