side 信志
「この街には、バザーと呼ばれる、多くの店が集まる場所があります。」
ユーリさんの説明はその一言で始まった。
バザー……、やっぱり市場みたいなものなんだろうか。
「バザー自体は毎日開かれますから、たくさんの品物が並びますよ。」
バサっとテーブルの上に、街の地図を出して説明してくれる。
指さされた部分はこの街の半分くらいを占めていた。
「開かれる場所は大体、この辺から……このあたりまでですね。」
「そ、そんなに、ですか!?」
「はい。街全体で行っている、一大イベントのようなものですからね。」
驚くアイリスに、ユーリさんが笑いながら頷く。
でも。
「そんなに毎日やって大丈夫なのか、ですか?」
ユーリさんがずばりと指摘してきた。
「はい。えと……、なんでわかったんですか?」
「そうですね、商人としての勘、とでも言っておきましょうか。」
パチリ、とウインクでもしそうな軽さでユーリさんが答える。
なんだか最初のバルザールさんと会話してた人とは別人みたいだ。
「で、その疑問についてですが、問題はありません。というのも、いくつかの条件さえ守ってもらえれば出店の形態は自由にしているんですよ。」
開店する時間帯や日数、それに迷惑でなければ他の場所に出向いての宣伝も、と指を折りながら教えてくれる。
なるほど。
確かに扱う商品も異なるなら、売り方も異なってくるんだろう。
「ここまでは理解してもらえましたか?」
確認のために聞いてくるユーリさんに、三人で頷く。
そういえばここまでロットが無言だけど……。
そう思ってロットを見ると、普段はあまり見ないような顔をしている。
ボクはまだ、よくはわかっていないけれど、ロットの思う奴隷像を再現しているのだろうか。
「よろしい。」
ひとまず理解が得られたのでユーリさんが微笑む。
が、その顔はすぐさま難しいものに変わってしまった。
「と、ここまで説明しましたが、実は、ですね。」
言いよどみながらも、言葉を続けるユーリさん。
その中身は意外、というほどのものではなかった。
「あまりに急な話だったので、まだ準備ができていないんですよ。」
「準備、ですか?」
「はい。この街の大きさに制限があるように、バザーに使える場所も限度があります。なので、一度区画の整理をしなければ、あなた方の使える場所を確保できないんです。」
それは確かに、当然といえば当然だ。
バルザールさんも思いつきの勢いだった感じがするし……。
「わかりました。では私たちは……。」
「はい。その間は、ひとまず暇ということになりますね。ですので、こういうのはどうでしょう?」
アイリスの言葉を引き継いでユーリさんが続ける。
「一度、冒険者、というものを経験してみませんか?」
◇◆◇◆◇◆
「と、着きましたね。ここが用意させてもらった家です。」
「わぁ。」
「でかっ。本当にここでいいんですか?」
「はい。……といってもたまたま用意できたのがここだけだったという話です。遠慮せずに使ってください。」
「ありがとうございます。」
ギルドから出て、ボクたちは一度、家がたくさん建っている区画へとやってきた。
ギルドからあまり離れていないのに、結構静かな場所にそれはあった。
「では、私はこれで。ギルドには話を通しておきますので、また顔を出しに行ってください。詳しいこともその時に説明されるかと思います。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
一礼して元来た道を戻っていくユーリさん。
彼の、冒険者になってみないか、という問いには了解の旨を伝えている。
なぜかって?
それはもちろん、ひとまず他にすることがなかったから。
「おお、こっちにも部屋があるっすよ!」
「ほんとだ、景色もいいし。」
「わぁ、ベッドもふかふかですよ。」
加えて、家もくれると言われてしまったからだ。
ホテル暮らしや、自分達で購入しろと言われると思っていたから、まさか何もしないわけにはいかない。
家がここまで豪華なのはうれしい誤算だったけど、余計に了承してよかった。
「では、行きましょうか。」
部屋割りを決めて一息ついた後、ボクらは改めて冒険者ギルドへ向かった。
こんばんは、Whoです。
なんだかこうしていると忘れそうですが、一応信志くんたちは国を追われた立場です。
待遇を見る限り、説得力皆無ですが。
ではでは。




