side アイリス
「まずは長旅お疲れさん、とでも言っておこうか。」
そう言って私たちにも座るように勧めてくれるのは、バルザールさん。
この冒険者ギルドの長です。
そしてここは、冒険者ギルドの二階にあるお客を通すようなお部屋のようで、ソファに座るバルザールさんと向かい合うようにソファが置かれ、間には机も置かれています。
「ありがとうございます。」
代表して私がお礼を言った後、向かい合う形で座らせてもらいます。
それを待つか待たないかのうちに、バルザールさんがもう一度口を開きました。
「で、お前らは確か……、商人ギルドの方に登録してるんだったよな。……あぁ、その魔族は別だったな。」
手元にあった書類に目を通しながら、順に私たちの方を向き、最後にロットさんのところで止まりました。
やっぱり、ナルメア姉様から話を既に聞いているみたいです。
そして。
「ここまではわかった。……それで、お前たちはどうしたい?」
信志さんに向かって問いました。
それは、私たちにとって少し意外な問いでした。
私たちはこれでも国を追われた身です。
移動する中でも、良くて無関心。
最悪の場合は軟禁のような扱いも覚悟していました。
「え、っと……。それはどういう?」
同じ思いだったのか、信志さんも首を傾げながら聞き返します。
「どうもなにも、お前たちはここに住むことになるんだろう?違うのか?」
「それは、はい。許してもらえるなら。」
「だろう?それならやりたいことの一つや二つ、初回特典でこっちで用意してやるよ、ってことだ。」
そっちは好きなことができて嬉しい、こっちも街に人が増えて嬉しい。
どっちも嬉しい、それがいい商売の基本ってやつだ。
あっけからんと、当然のようにバルザールさんが言いました。
それぐらいバルザールさんにとって当たり前のことで、私たちの中にも不思議とするりと言葉が入ってきました。
「店、を持つことはできるでしょうか?」
信志さんから出たのはユーステスの時と同じものでした。
「ふむ……、店、か。」
その言葉を聞いたバルザールさんは手で頭をかきました。
「そういえば、そんなことも書いていたな。……なるほどな。」
「だめ、でしょうか?」
「いや、そんなことはない。が、そうすぐに店となる建物を用意することはできない。」
そこでふと、バルザールさんが手元の紙を見、私たちを見、もう一度紙を見てから。
ニヤリと笑いました。
「そうだ、いい案があるぞ!すこし待っていてくれ!!」
そう言って立ち上がると、部屋から出て行ってしまいました。
私たちが何か反応をする暇もなく、足音が遠ざかっていき、そのまま。
ーーー消えることなく、近づいてきました。
「待たせたな!!」
後から聞いた話ですが、信志さんはこの時、(全然待ってない!)と心の中で突っ込んだそうです。
それはさておき。
本当にすぐに、バルザールさんは帰ってきました。
後ろにメガネをかけた、男の人を連れて。
「まったく、少しは事情を説明してくださいよ、ギルド長。」
「ハハハ!そういえば忘れていたな。今からするから許してくれ。」
「まったく……。」
私たちが呆然としている中、連れてこられた人はギルド長に説明を求めていました。
それを飄々とした態度でかわしながら、バルザールさんは私たちに手を向けます。
「それじゃあ、紹介しよう。今日この街に来た、『王女』と『勇者』と『魔族』だ。」
「……は?」
今度はその男の人が呆然とする番でした。
確かに私たちを端的に表すと、そういう紹介になるかもしれませんが。
「……はぁ。」
しばらくして、頭を抱えたままため息をもらしました。
なんだかとても疲れた顔をされています。
「なんだかよくわかりませんが、分かりました。あなたは嘘だけはつきませんからね。……ごほん、申し遅れました。私は、ユーリ・フォント。この街の商人ギルドの副ギルド長を任されています。どうぞ、お見知り置きを。」
くるり、とこちらをむいて頭を下げる、ユーリさん。
私たちも慌てて頭を下げます。
そのユーリさんの後ろから。
「と、まぁこんな具合に街には情報が流れていない。お前たちはここではただの移住民ってことになる。」
「ただの、」
「移住民、」
「っすか。」
満足そうに頷くバルザールさん。
くるりと、もう一度そちらを向いたユーリさんは、今度は感情を押し殺したような低めの声で。
「で?ギルド長。彼らのことはわかりました。でもいつの間に彼らと会ったんですか?」
「ギク!」
その声に、バルザールさんは分かりやすく動揺します。
……口でギク、なんていう人は初めて見ました。
「まさかとは思いますが……この時間に仕事にも手をつけないで街を歩き回ってた、なんてことはないですよね?」
「ギクギク!!」
「…………。」
「あ、あー……その。これも立派な交流だし、そのおかげで彼らとも無事会えたし……。は、ハハハ……。」
先ほどまでとは打って変わって、尻すぼみになるバルザールさん。
それに詰め寄ったユーリさんは、バルザールさんに人差し指を突きつけて。
「仕事してください!ギルド長!!」
「わ、わかったよ。……というわけだ、えーとシンシって言ったか。詳しいことはユーリから聞いてくれ!!」
そう言い残し、バルザールさんは部屋を追い出されました。
「では、僭越ながら私が説明させてもらいます。難しいことはないと思いますが、しっかりと聞くようにしてくださいね?」
こちらを振り返ったユーリさんは、説明をしてくれました。
この街の特徴の一つ、『バザー』について。
こんばんは、Whoです。
この街は秘密に対して、とても口が固い、というお話。
商売は信頼が命ですからね(しったか)。
ではでは。




