side アイリス
信志さんとこの国に帰って来てからもう二週間が経ちました。
初めは、突然できた店に戸惑う人も多かったのですが、今では毎日のように来てくれるお客さんもいます。
「ありがとうございます、またお越しください。」
「ああ、また来るよ。」
花屋とは言っても、信志さんの『スプラウション』では、本物の野菜なども作れてしまうので、主に売れるのはそちらの方なのですが……。
「アイリスさま。これ、こっちにおいておくぞ?」
「あ、ありがとうセレスちゃん。」
「おーい、こっちも頼む。」
「あ、はーい。」
呼ばれた方へ向かうと、ちょうど信志さんも来ているところでした。
「今日はなんにします?」
「そうだな……。人参と玉ねぎ、それから馬鈴薯もお願いできるか?」
「わかりました。『スプラウション』!……と、これど全部ですね。」
「ああ、ありがとう。」
「ありがとうございました。」
私も声をかけると、お客さんは「ああ、またくるよ」と店を後にしました。
それを見送ってから、さて、と振り返ると店の中は静かになっていました。
ちょうどさっきのお客さんが最後だったのでしょう。
「ふぅ、意外と人気出るもんだなぁ……。これもアイリスのおかげかな?」
「んもう、何言ってるんですか。」
信志さんの何気ない一言につい慌ててしまいます。
「みなさんは、信志さんの売ってくれる物を買いに来てるんですよ?」
「と言ってもなぁ。やっぱりアイリスがいてくれてこそ、売れてるんだと思うし。」
この会話ももう何度目か。
事あるごとに、どちらのおかげか、言い合うことがあります。
でもそれはもちろん不快なものではなくて。
「突然できた怪しい店にわざわざ来てくれるなんて、アイリスの顔のおかげだと思うけどなぁ。」
「そ、そんなことないですよ!」
言いながら、少し前のことを思い出す。
私自身は確かに、あまりみなさんの前に顔を出すような王女ではなかった。
けれど、どことなく人相は知られていたようで。
初めてのぞいてくれたお客さんに、慌てられてしまったけれど、似ている他人、ということで誤魔化した。
いまでも時々、「まるで話に聞くアイリス様のようだ。」なんて言われてしまう。
「で、でもずっと買いに来てくれるってことはやっぱり信志さんのおかげですよ。だって、欲しいものが必ずありますから。」
「それについては、まぁ。目の前で作ってるからね。……若干ずるいような気もするけど。」
そう。
私たち、というよりも、信志さんが始めたこのお店は、植物を売るお店。
植物であるなら、花も野菜も、信志さんが作り出せる。
「仕入れの心配とか、在庫の心配がないんだもんな。」
手の平を見つめながらいう信志さん。
その目はどこか、悲しそうな目で……。
「こんばんは。」
「あ、はい。いらっしゃいませ。」
入り口のドアが開き、お客さんが
「あ、いや。客じゃないんだ。」
お客さんではない人が入って来ました。
「ええと、ではどのような……?」
「ああ、近頃この辺で物取りが出ているようでな。それの注意喚起に回ってるんだ。」
「物取り、ですか?」
「昨日おとといと酒場や宿から食料がいくつか盗まれてるんだ。この店はそういった心配はないかもしれんが、まぁ用心に越したことはない。」
「そうですね。わざわざありがとうございます。」
「ああ、じゃあまた来るよ。」
「はい、お待ちしてます。」
ばたん、とドアが閉じられます。
くるり、と振り返ると、信志さんがこちらの方を向いていました。
今の話をしっかりと聞いていたのでしょうか?
「物取り……か。んー。」
「どうしました?」
「いや、ちょっと、ね。そうだ、せっかくだし……。アイリス、ちょっと手伝ってよ。」
「手伝う、ですか?……何を。」
「アイリスさま、私も手伝うぞ。」
そのまま、「何か」を言わずに信志さんを手伝うことに。
初めは私もセレスちゃんも、首を傾げていましたが、それが完成するにあたって、ああ……、とか、ええー、なんて反応に変わっていきました。
こんばんは、Whoです。
本当はもうちょっと店の感じとか書いてみたいんですけど、だらだらと長くなってしまいそうなんで早々に次のイベントへ。
物取り、ということはもちろん屋内に侵入しますよね?
ということは……、的な感じで次回です。
ではでは。




