side 信志
「店を出したいなって思うんだけど、いい感じの小さな建物って、ないかな?」
ボクの一言に、一瞬みんなの動きが止まる。
ボクらが帰って来て、これからまた大変なことになりそうって時の発言だから、少しぐらいは覚悟していた。
それにしたって、驚きすぎのような気もするけど。
「店、ですか……?ええ。大丈夫だと思いますけど。」
驚きから回復して、目の前のナルメアさんが答える。
でもその目は不思議なものを見る目のままだった。
「ボクは、何かと戦えるわけじゃない。だから裏で支えることにしようと思って。」
「……なるほど、だから店か。でもお金とるのか?無料でもいいじゃないか。」
なんとか納得してもらおうと説明するボクに、天野くんも回復したのか参加してくる。
無料か……。
確かに前ならそう考えていたけれど。
それじゃあ多分ダメだ。
なぜなら。
「それじゃ、ダメなんだ。ボクらに頼り切ったら、きっといつか立ち行かなくなる。……それは『勇者』として見過ごせないよ。」
ボク自身が苦手と言ったこともある、『勇者』という肩書き。
それをまた、自分の口から言うことになるとは思わなかった。
それでも今は言わなきゃいけない。
面倒臭いとわかっていることを、して行くために。
「……そうか。そうだな。」
しばらくじっと視線を交わした後、す、と天野くんが視線を外した。
◇◆◇◆◇◆
「まさか本当に実現するとはなぁ……。」
組み上がったカウンターの中で、一人言葉をこぼす。
「まさか、って信志さんが自分で言ったんじゃないですか。」
「そうだぞ、信志さま。」
そのつぶやきに、アイリスともう一人、セレスちゃんが笑いながら答える。
確かにその通りなんだけど、まさかこんなにすぐに用意できるとは思っていなかった。
でも、ありがたい。
まだ誰にも言っていないけれど、確かめたいことがある。
できれば一人で。
そのために城ではないどこかに居場所が作れれば、と思って提案したからだ。
「アイリスさま、次どうしようか。」
「一度ここまでにしましょう。」
「わかった、じゃあお茶を入れてくるぞ。」
パタパタと走って奥へ向かうセレスちゃん。
それを見送ってから、ボクも立ち上がった。
◇◆◇◆◇◆
色々とある中で、ひとまず確かめたいことは、メラーシュで聞こえた声。
「声、ですか?」
「うん、メラーシュで最後に遭遇した魔族いたよね?あの時に聞こえたんだけど。」
「声……こえ……あ!」
休憩となった席で、アイリスに聞いてみる。
それを聞いて少し考え込んだ後で、急に声をあげて立ち上がった。
「私も聞いたかもしれません!」
「ぶっ!」
その言葉に、今度はこちらがびっくりしてしまった。
どうも話を聞く感じだと、ボクが声を聞く直前、アイリスもどこからか声を聞いていたらしい。
加えて、ボクはその前にも一度聞いている。
その時は気のせいかと思ってしまったけど、どうやらちゃんと本物だったのだろう。
「私と信志さんに聞こえた声、ですか……。」
「なにか思い当たることあるの?」
難しい顔をして悩むアイリスに聞いてみる。
「はい。……この腕輪なんですけど、ナルメア姉様が言っていたことを憶えていますか?」
「えーと……。」
聞かれて、はてと記憶を辿る。
確かに何か言ってたような……。
あ。
「ボクらとアイリスたちを繋ぐ、って。」
「はい。ですが私の知る限り、そんなことは過去になかったんです。」
確かに、本当にボクとアイリスとを繋いでいるなら声ぐらい聞こえる……のだろうか?
たとえそうだとしても、ここでまた一つ気になることが。
「それに……、あの声は信志さんのものではなかったですよね?」
「うん、ボクは何も言ってない。それはアイリスも、だよね?」
「はい。」
聞こえて来た声はまったく知らない声。
声が聞こえて来たのが、腕輪によるものならばその声はどこから来たのか。
そっちの方はさっぱりわからない。
「んんん……。難しい話は終わりか?」
と。
隣で聞いていたのか、セレスちゃんが話に入ってくる。
「あぁ、ごめんなさい、セレスちゃん。」
「大丈夫だ、アイリスさま。」
気がつけば日も暮れている。
二人して苦笑いした後、ご飯を食べて今日を終える。
寝床に潜り込んで考えるのは腕輪の事。
一体こいつにどんな効果があるのか。
それについてはまた明日考えることにしよう……。
つんつんと腕輪をつつきながら眠りに落ちる。
落ちる、寸前。
星が瞬くように腕輪が光った、ような気がした。
こんばんは、Whoです。
少しだけ設定に触れる回。
まだ人を頼ることに慣れない信志くん。
ではでは。




