side アイリス
その日は、体は疲れているのに、不思議と眠れない夜でした。
何かあったらすぐ呼んで、と言ってくれるサラさんにお礼を言って、少し外へ足を向けます。
小屋の外はとても静かでした。
ついさっきまで、私たちを追いかけていたアンデットも見当たりません。
「アイリス……。」
「信志さん。……ふふ、なんだかあの時みたいですね。」
振り返ると信志さんがいました。
後ろから声をかけられて、信志さん達が召喚された夜の事を思い出します。
違うのは、ここがユーステスの城ではないこと。
それから。
「あれ……。変、ですね。なんだ濡れて……。」
ぽつり、ぽつりと手の上に水が落ちてきました。
雨でも降りだしているんでしょうか。
今度はあの時みたいですね、とお父様の事を思い出して少し辛くなりながらも、信志さんの方を振り向くと、信志さんも私の方を向いていました。
でもその目は辛い物を見るみたいで。
「こんな時ぐらい、無理しないで。」
そう言って、私の手を握ります。
ぎゅっと、強く暖かい手で。
急に私の視界が歪んで、目が熱くなります。
そこまで来てようやく、先程の水がなんだったのか分かりました。
気づかずに流れ出ていた私の涙。
「じんじ、ざぁん……。」
鼻声になるのも構わず、その手にすがり付いて、泣きました。
ずっとずっと願っていた、誰かの役に立ちたいと。
それはさっき叶った。
信志さんやサラさん、ガルマンさんをアンデットから守る事で。
でもそれは、自分以外の誰かを傷つけることで、だった。
魔物を倒せば。
魔族や魔王を倒せば、世界は平和になると信じていた。
でも、違う。
こんな。
こんな苦しい気持ちになることの先に、平和になったとして、それを心から喜べるのでしょうか……?
わからない。
今まで当然のように思っていたことが、崩れていく。
「私はどうすれば、良かったんでしょう?あの時は必死で、みなさんを助けなきゃって、それで……。」
言葉が流れとなって溢れてきます。
表情の分からない、領主様と同じ顔のアンデット。
咄嗟にとった行動は『ヒール』。
治癒師が使える癒しの能力。
でもそれは、アンデットには攻撃に成り得る。
サラさんを見て分かっていたのに。
効果が現れた瞬間は苦悶の表情になった。
それでも、消えていく時は安らかな顔で。
どうして。
あんなに苦しそうに見えたのに、どうして。
「どうして、あんなに優しい顔で……!?」
「……きっと、本当に安らかになったんだ。あの時。」
「え……?」
自分でも、びっくりするぐらいに大きな声で言ってしまった言葉に、信志さんが答えてくれる。
「アイリスの能力は癒しの能力、なんでしょ?だったらきっと、それは誰にかけても癒しになるんだ。」
誰に、かけても……。
ああ、ようやくわかった気がします。
前に、信志さんが言っていたこと。
『ちょっと待って。ボクは嫌だよ、魔族と戦争するのは。』
多分、それはこういうこと。
魔族だって魔物だって、もちろん私達だって、生きている。
それを、ただ一方的に排除してはいけない。
そうしなくても、いい道を、探していきたい。
それがどこに続いているかはまだ分からないけれど。
「落ち着いた?」
「はい……、ありがとうございます。」
まだ声は震えているけれど。
涙だってとまってはくれないけれど。
もっと強くありたい。
いつか、ちゃんと目指すべき目標が見えた時に、そこへ向かえるように強く。
「戻りましょう、信志さん。私、頑張りますね。」
「うん、良かった。元気になったみたいで。……ボクはもう少しここにいるよ。」
心のなかでフンス、と気合いを入れる。
もう少し残ると言う信志さんを置いてひとまず中に戻る。
小屋を出る前とは、別の意味で眠れなくなっていたのですが……。
お久しぶりです、Whoです。
テストも終わったので再開しますね。
じつは、ちょっと書き方忘れてしまって、思い出すのに時間がかかりました。
またゆっくりと書いていくので気長にお付きあい下さい。
ではでは。




