side アイリス
「……!」
持っていたナイフをそのままに、サラさんが顔を上げます。
そこには焦りがあって。
「どうしたんですか?」
「……嫌な感じがする。」
「嫌な感じ、ですか?」
「……ん。……アイリスは感じない?」
「いえ、わたしは……。」
特に感じない。
そう答えようとした矢先に。
「っ!」
感じた。
何かはわからないけれど、心の中でもやもやとしたものが湧き上がってくる。
こんなのは今まで感じたことがありません。
そんな私をみて、サラさんも察したみたいで。
「……アイリスも感じたなら、気のせいじゃなさそう。」
「これは、一体……?」
「……私たちは『治癒師』だから。」
それだけ言うと、突然サラさんが走り出しました。
「……ガルマンと信志は?」
「確か、さっき散歩に行くって。」
「……なら多分、そこ。」
なにが『そこ』なのかもわからないまま、私もサラさんの後を追って外へ向かいます。
理由はわからなくても、そうすべきだと、胸がざわめいていました。
◇◆◇◆◇◆
治癒師。
生物の傷を癒す役割。
昔は聖なる力として、崇められていたこともあったと、お父様から聞いたことがあります。
「でも今は……。」
「……そう、今は違う。……でもそれは思われていないだけ。」
「思われていないだけって、どういう……。」
こと、と続けようとした矢先。
鼻を臭いが通り抜けました。
何かを腐らせたような臭い。
「……あそこ!」
走りながら、見えてきた物。
腐った臭いを感じた時に予想は出来ました。
そこにいたのは、たくさんのアンデッドと。
それに囲まれたガルマンさんと信志さんでした。
◇◆◇◆◇◆
「サラ、頼む!」
こちらに気づいたのか、ガルマンさんが大声を出します。
それに応えるようにサラさんは手を伸ばし。
「『ヒーラス』!」
治癒の能力を使います。
でもそれは。
「サラさん!?」
ガルマンさんや、ましてや信志さんの方ではなく。
なぜかアンデッドの方に向かっていました。
そして。
「あ゛ああ゛ぁぁああ゛あぁぁあぁぁぁああ゛ぁぁ!!」
アンデッドが白い光に包まれた途端。
耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきました。
もちろん、そのアンデッドからです。
「よし。残りも頼む。」
そのまま崩れ落ちたアンデッドをそのままに、次々とサラさんが『ヒーラス』をかけていきます。
信志さんたちに襲いかかろうとするアンデッドは、ガルマンさんが往なしていきます。
「……ぐっ!……セァッ!」
「……『ヒールウェーブ』!」
「「「ああ゛あぁぁあぁぁぁ!!」」」
周りの人達を同時に癒す、『ヒールウェーブ』を唱えたところで、悲鳴以外が聞こえなくなります。
そんな混沌とした中で。
ガッ!
「ああ゛あぁぁぁあ゛あ。」
「っ!離して、ください!」
急に後ろから足を掴まれた私は、思わず転んでしまいます。
振りほどこうと、足を動かそうと、腕の主に向いて。
向いて……。
「そんな、まさか……。」
「ああ゛あぁぁぁあ゛あ。」
見えた顔。
見たことのある顔。
腐食して、すぐにはわからなかったけど。
その顔は確かに。
「領主……様?」
「ああ゛あぁぁぁあ゛あ。」
メラーシュの領主様、その人でした。
その顔を見て、思い出します。
この町の跡に、人の死体が一つもなかったこと。
なのに町は荒れて、人の姿がなかったこと。
それはつまり。
「みなさんがこうなって……?」
「ああ゛あぁぁぁあ゛あ!!」
まさか、そんな。
否定したい。
違うと言いたい。
それでも、目の前の顔がそれを許さない。
この町にいた人はアンデッドに変えられてしまった。
「ああ゛あぁぁぁあ゛あ!!」
「いたっ!」
手に込められる力がだんだんと増しています。
サラさんもガルマンさんも、信志さんも。
こちらには来れなくて。
私だけでどうにか、しないと!
「『ヒーラス』!」
気づけば私は、治癒の能力を使っていました。
サラさんのそれより、弱い光が領主様を包んで。
「ああ゛あぁぁぁあ゛あぁぁぁああ゛ぁああ゛ぁ!!」
「っ!」
サラさんの時よりも大きな悲鳴。
私は目を背けることもできずに、その顔を見てしまいました。
これだけの悲鳴。
きっと苦しんでいるだろうと思っていた、その顔。
「え……?」
逆でした。
苦しむどころか。
落ち着いた、安らかとも言える顔で。
それでも、大きな悲鳴をあげながら。
領主様もその場に崩れ落ちました。
こんばんは、Whoです。
なんと、治癒師の使う治癒はアンデッドに特攻があったのです!
……あ、いえ、ボクが触れてきた話ではよくある設定だったのですが、この話ではそれを匂わせてなかったなと。
一応、ちゃんとこの設定にするつもりで、他のキャラの名前つけたりしてますが、その辺はまた追い追いと。
もうすぐメラーシュも抜けて、ユーステスに帰るはずですが、
こうして見ると、全然「行商編」じゃないですね。うーん。
サブタイは変えるかもしれません。
ではでは。




