side extra(伝わる想いと、届かない思い)
お礼を言った後、去っていく二人を見送る。
これまでに何度も経験してきたことだ。
そしてこれからも、何度も経験することになるんだろう。
(……。)
今は、それが少しだけ寂しく思える。
◇◆◇◆◇◆
「どうした、レンツ。」
「え?何がですか?」
「いや、なんでもない。」
レンツに言いかけた一言を飲み込んだグラッドは、気持ちを切り替えるように荷物を運び始める。
「オラ、今日もしっかり稼ぐぞ。」
「わっかりました!」
言葉でせっつくと、レンツも動き始める。
それを横目で見つつ、グラッドはさっきのことを考えていた。
『上手く偽装しているんだろうが、一目でただ物じゃないとわかった。』
彼にとっては確信的なものがあったが、実のところ根拠はなかった。
つまりはただの勘だったのだ。
しかし。
(あの年で『言えない身分』、か。今まで苦労を……いや、これから苦労することになるんだろうな。)
ま、頑張れ。
彼にしては珍しく、そんなことを考えた。
◇◆◇◆◇◆
一方その頃。
(『お前さんたちが聞かないで欲しそうに見えたからだ』か。)
グラッドのすぐ隣で荷物の整理をする、レンツもさっきまでのことを考えていた。
彼の名前はレンツ、ではなく。
レンリット・ツイン・ノイツェシュタイン。
ノイツェシュタイン王国の、歴とした王子なのだ。
その王家のしきたりで、一般階級、つまりは庶民の元で10年暮らさなければならない。
もちろん、王子ということは隠して、だ。
(僕の正体も実はバレてる、なんてことは……。)
さっきの会話を聞く限り、絶対にないとは言い切れない。
もうとっくにバレているかもしれない。
それでも、何も言ってこない。
それとなく尋ねることすら、しない。
(優しい人だよなぁ。)
それはきっと、僕が知って欲しくないと思っているから。
彼はその思いすら、感じ取って実行に移している。
相手の望むものを用意する。
そんな商人の意地にかけて。
だからいつか恩は返す。
仮にも、商人の弟子を名乗るのだ。
それくらい、できて当然というものだろう。
◇◆◇◆◇◆
(本人が知って欲しくなさそうだし、聞けない。)
グラッドとレンツ。
近い場所で、お互いの事情をなんとなく察しながら、お互いに思う。
知らないふりを続ける。
そんな二人の奇妙な旅は今日も明日も、明後日も続いていく。
◇◆◇◆◇◆
「準備はできたか?」
「はい。お待たせしました。」
ヨイツにある4つの門。
そのうちの一つの前で、ガルマンが信志とアイリスに訊ねる。
側には小さめの馬車が一台。
「……なら出発。」
返事を聞いた直後。
言うが早いか、早速サラが馬の手綱を握った。
「……早く。」
未だに馬車に乗っていない3人を急かす。
やれやれと肩を竦めるガルマンと信志、アイリスを乗せると、出発する。
目指すはメラーシュ。
本来ならば、ユーステスまでを考える所だが、サラの頭は別のことで一杯だった。
(……ネロ姉様。……やっと会える……!)
ネロ。
彼女の生き別れた姉。
物心ついた頃から、彼女たちに親はいなかった。
だからずっと二人だった。
それを不思議に思ったこともなかった。
自分は姉と一生一緒に暮らしていくのだと、信じて疑わなかった。
それなのに。
(……っ!)
嫌なことを思い出して、手綱を持つ手が震える。
あの日、唐突に終わったのだ。
姉がいる生活が。
何者かに連れ去られる、と言う形で。
(……でも。)
諦められなかった。
だから力をつけた。
彼女を探すための力を。
きっといつか、また会えると信じて。
(……それなのに。)
あれから10年。
手がかりは一切つかめていない。
行ける場所は片っ端から探した。
危ない橋を何度も渡ることになったけど、情報屋のもとを何度も訪れた。
それなのに。
(……何もわからなかった。)
もう死んでいるのかもしれない。
だから一切の情報がないのかもしれない。
自分でも半ばそう思いつつ、それでも諦められなくて。
(……。)
ある日訪れたギルドで、名前が聞こえた。
懐かしい、その名前が。
『ネロ、さん』と。
聞き間違えかとも思った。
ついに幻聴が聞こえるようになってしまったか、と。
それでも、そんなことはなかった。
(……だったら。)
ならば生きている。
また会うことができる。
そう思えるだけで、胸が苦しくなる。
やっと願いが叶う。
そのための道は示されている。
あとは行くだけだ。
だから、急ぐ。
一刻も早く、その願いを叶えるために。
◇◆◇◆◇◆
サラが馬車を急がせている、ちょうどその頃。
メラーシュから人影が一つ。
三角の耳を頭に生やしたその人影は、静かにユーステスに向かって進んで行った。
こんばんは、Whoです。
最近また、忙しさが加速し始めて、なかなか進めれませんが、なんとかやって行きます。
どうかお付き合いください。
多分これで行商編も半分になります。(変な回が間にこなければ)
ではでは。




