side アイリス
バタン……。
信志さんが部屋を出た後、私はもぞもぞとベッドから起き上がりました。
「はぁあああぁあぁ……。」
思わず漏れるため息。
宿の部屋を取る時はなんともなかったのですが、いざ部屋に来てみると、途端に恥ずかしくなりました。
「変に思われたりしてないでしょうか……。」
恥ずかしくなった私は、昼間で疲れたことにして、さっさと潜り込んで顔を隠しました。
理由はもちろん、メラーシュでの事。
メラーシュの町は幻だったとはいえ、ネロさんに言われたことは心に残っています。
私が。
(私が、信志さんのことを……。)
そこまで考えたら、治った顔の火照りがまたぶり返して来ました。
起こしていた体を倒して、毛布に体を埋めます。
(本当にどうしてしまったんだろう……。)
自分でも制御できない感情。
今まで、ここまで人を好きになることはなかったから。
出口のない迷路に迷い込んだように感じるけれど、不思議と悪い気はしなくて。
信志さんのことを考えている時は、なんだか心がふわふわして。
そんなことを考えながら、いつのまにか私は目を閉じていた。
◇◆◇◆◇◆
パチリ。
そんな音がしそうなほど、自然に目が覚めました。
「信志さん……?」
近くのベッドに目を向けると、毛布が目に入ります。
でも、信志さんの姿はそこにありません。
もう下に降りたのでしょうか。
私も下に降りるため、荷物から服を取り出して着替えます。
服は、街の人たちが来ているような目立たない服。
目立つのは避けた方がいいと、昨日グラッドさんに渡された服です。
(よし。)
ざっとチェックをして、問題がないことを確かめると、外へ足を向ける。
ユーステスにいる頃は、手伝ってもらうことも多かったけど、今ではすっかり慣れている。
私もやればできるのです。
コンコンコン。
小さくガッツポーズをしていたところで、ドアがノックされました。
「アイリス、もう起きてる?入ってもいい?」
「あ、はい。どうぞ。」
扉を開けて入って来たのは信志さん。
信志さんもこの街でよく見かける服に着替えていました。
「おはよう、アイリス。グラッドさんに少し時間もらったからさ、朝ごはん食べたら少しギルドに行ってみない?」
「……そうですね。冒険者の方がいるかもしれませんし。」
冒険者ギルドには昨日のうちに、依頼の張り紙をお願いしておきました。
昨日の今日ではいないかもしれませんが、いってみるのもいいかもしれません。
「じゃあとりあえず下に降りようか。」
「はい。」
◇◆◇◆◇◆
宿にある食堂で朝食を済ませた私たちは、早速ギルドへ向かうことに。
昨日はあまり見れなかった街並みを見ながら、少しだけゆっくりと歩きます。
「そういえば信志さんは、昨日の夜、どこへ行っていたんですか?」
せっかくなので、ふと疑問に思ったことを訊ねて見ます。
信志さんは少しびっくりした後で、起きてたのと、つぶやきました。
「ちょっと寝付けなくてね。下に水をもらいに行ったんだ。……そしてそのままグラッドさんと話してた。」
「グラッドさんと、ですか?」
「うん。ちょっとした悩みをね。でもなんとか解決しそうだよ。」
「そうですか、よかったですね。」
だから、と信志さんは一度言葉を切ります。
「アイリスに教えて欲しいことがあるんだ。その、お金について。」
「お金、ですか。」
「うん。ボクは勇者にも戦士にもなれないからね。ボクなりの努力をしてみようと思った。」
その答えが商人なんじゃないか、と彼は言います。
正直、なぜそう思ったのかすぐにはわかりませんけど、以前と違って前向きな彼の目に、嬉しくなりました。
そうこうしているうちに、ギルドの前に到着です。
中へ入ると、時間が微妙なのか人は疎らでした。
受付に人が少ないので、順番はすぐに回って来ます。
「いえ、まだ依頼を受ける冒険者の方はいませんね。」
「そうですか。」
すみません、と謝る受付嬢さんに笑いかけてからギルドを出ようとした、その時。
「……今日はやる気でない。」
「何を言ってるんだ、サラ。」
入り口の方からやってくる、冒険者と思しき二人。
大柄で布製の防具をまとった男の人と。
その隣にいる、小柄な。
「ネ、ネロ、さん……?」
ネロさんにそっくりな女の子。
その子が、私の呟く声を聞き逃さなかったのか、まっすぐこちらにやってくる。
「……今、『ネロ』って言った?」
近くまでやってくると、有無を言わさない表情で私に問いかけます。
その表情に、私は頷くしかありませんでした。
こんばんは、Whoです。
少しぶりのアイリス視点。
なんだか突然にラブコメを書いている気分です。
アイリスよ、君はどれほど悶々としているんだ……。
ではでは。




