side 信志
「なるほどなぁ……。」
「はい。ですから、いまはどうにもできない状態なんです。」
「確かに、冒険者が離れていると話には聞いていたが、まさかここまでとはな。」
ボクが元いた世界には魔物なんていなかったけど、もちろんこの世界ではそんなことはない。
魔物に対抗できる力がない者だけで移動するのは、とても危険だ。
(魔物に対抗できる力、か……。)
治癒師であるアイリスはもちろん、操草師のボクにもそんな力はない。
アイリス曰く、メラーシュでは魔族にとどめを刺したのはボクらしいのだが、あの時のことはほとんど覚えていない。
唯一覚えていることは、誰かの声に従って何も分からず『スプラウション』を唱えたことだけ。
(そういえば、最近『声』は聞こえないな。)
「……信志さん?どうしました?」
「……え?あ、いや。なんでも。」
「そうですか?なにか考え込んでいるように見えましたけど。」
気がつかないうちに視線をテーブルのコップに向けていたからか、下から覗き込む形でアイリスが聞いてくる。
「そうだ、そういえばグラッドさんはここに何を……?」
「ん?ああ、ちょっとした依頼を頼みに来たんだが……。そうだなおまえさんたちに頼むか。」
「依頼、ですか。」
「ああ。普段なら人の出入りが激しいこの街だが、今はそうでもないだろ?入ってくる人間はいても、出て行く人間が少ないんだ。ちょうど今のお前さんらみたいにな。」
◇◆◇◆◇◆
「いいい、いらっしゃいませ……。」
緊張でガチガチに固まったアイリスが、震えながら声を出す。
それを見た通りすがりの人が、若干鼻の下を伸ばしながらこの店に入ってくる。
そう、店。
あの後、ボクらはグラッドさんの店を手伝ってくれないかと依頼された。
アイリスは入り口で客引きを、ボクはレンツくんの手伝いを頼まれている。
「よう、旦那。景気はどうだい?」
「まぁまぁさ、見てわかるだろう。さて、今日は何が入り用だ?」
「そうだな……。じゃあ、これと……、それも貰おうか。」
「毎度。……、ついでにこんなのもどうだ?今なら買い時だぜ?」
入ってきたお客はグラッドさんの知り合いだったようで、気楽に商品を売って行く。
それが終わると、また次の客へ。
アイリスが入り口に立ってから、お客さんが絶えない。
「ところで旦那。あんな可愛い子、どこで見つけて来たんだ?」
「あの子って、どの子だよ?」
「とぼけないでくれよ、入り口に立ってるあの子だよ。」
「ああ。……拾った。」
「ひ、拾ったってそんな。犬や猫じゃないんだから……。」
「本当のことなんだからしょうがねぇだろ。さ、次の客の邪魔だ。行った行った。」
「ちぇ、わかったよ。」
そんな感じでたまにアイリスを気にする人もいるが、だいたいはグラッドさんにあしらわれる。
そんな感じだからもちろん、アイリスに直接声をかけてくる人もいる。
「な、なぁ姉ちゃん。この後、どっかお茶でも……ヒッ!」
誘い文句を言いかけて、突然悲鳴を上げる。
理由は簡単。
向かいにある店の店主が、すごい眼力で睨んでいるのだ。
アイリスが店の前に立つことで、周りの店にもお客が流れて来ている。
それを連れ出そうとすれば、当然睨まれてしまうのだろう。
(それでも、声をかける人がいなくならないのは、やっぱりアイリスが王女だからかなぁ。)
◇◆◇◆◇◆
レンツくんの手伝いとして、裏から商品を持って来たりしているうちに夜に。
「今日はこんなもんだな、店閉めるぞ。」
「「「はい。」」」
行き交う人もまばらになったところで、グラッドさんが声をかけた。
来る人もいないのに、店を開けていても仕方ない、ということで、いつもより早めの店じまいらしい。
「つ、疲れました……。」
「お疲れ。」
相当疲れたのか、アイリスがフラフラとしながらやって来た。
「あはは、お疲れ様です。」
「冒険者はまだ来ねぇんだろ?明日も頼めるか?」
「いいんですか?」
「おう、こっちも助かってるからな。持ちつ持たれつってやつだ。」
「ありがとうございます。」
どうやら明日も手伝うことが決まったみたいだ。
こんばんは、Whoです。
今回は信志視点で次回はアイリス視点にするつもりだったんですが、
すいません、もう一回信志視点が入りそうです。
ではでは。




