side アイリス
「…………。」
(グラッドさん……?)
信志さんが蔦を渡す瞬間。
グラッドさんの目が一瞬細くなった、ような気がしました。
でもそれはすぐに元に戻って。
「使わせてもらおう。」
「ありがとうございます。」
そのまま、受け取った蔦で盗賊を縛り始めました。
「よし。じゃあ出発だ!」
縛りおえたグラッドさんの一声で、また馬車を走らせ始めました。
◇◆◇◆◇◆
「お話したい事があるんです。」
馬車が出発してから少し。
私は信志さんに切り出しました。
「信志さんは、覚えていますか?メラーシュでの、ネロさんの事を。」
「……うん。覚えているよ。」
「そうですよね。……でも、どうしてなんでしょうか。」
「どうしてって?」
首を傾げた信志さんに、私は声を少し潜めました。
「最後に会った魔族。私たちが町での事を思い出せないのは、あの町が幻だからだと言っていました。そして私たちは本当に思い出せません。」
「そういう事か。」
「はい……。」
なるほど、と頷いた信志さん。
その上で。
「確かに不思議だけど、いまは気にしないようにしてるよ。考えても仕方ないとも思ってるし。」
「……そうなんですか?」
「うん、それに……。」
「あ、アイリスさん。ちょっと手伝ってもらっていいですか?」
「レンツさん?どうしました?」
信志さんが頷いたところで、レンツさんが前から声をかけてきました。
「ヨイツまでもう少しかかりそうなんで、ご飯の準備でもしようかと。……ええと、何か取り込んでました?」
「えっと……その。」
「いや、大丈夫だよ。」
「そうですか?よかった。それじゃお願いします。信志さんはグラッドさんと一緒に前で見張りお願いしますね。」
最後に信志さんが何か言いかけたと思いましたが……。
レンツさんに連れられて、馬車の後ろで野菜を向くのを手伝い始めました。
◇◆◇◆◇◆
「よし、これで全部ですね。」
「あれ、もう終わりなんですか?」
レンツさんの一言にふと、手元を見ると、確かに用意してあった野菜はすべてむき終えています。
いつの間にか、ぼんやりしてしまっていたようです。
「すいません、私あまり役に立てなくて……。」
「いやいや、大丈夫ですよ。」
そういうレンツさんの手元には、私よりもひとまわり大きい山が出来上がっています。
少し申し訳なくなりながらも、野菜や道具を片付け始めると、不意にレンツさんが切り出しました。
「そういえば……。これは聞いてもいいか迷ったんですけど。」
「はい?なんです……っ!」
振り返ると、レンツさんの顔が直ぐ近くに。
驚く私をよそに、声を小さくして続けました。
「多分なんですけど。アイリスさんって、王族かそれに関わる人、ですよね?」
瞬間、ドキリとしました。
隠していたことを、怒っているのでしょうか。
そんな思考を巡らせてしまい、表情を凍らせた私をみて、レンツさんは慌てて手を振りました。
「あ、その……。深入りするつもりはありませんから安心してください。」
「では……なぜなんですか?」
「……その腕輪にどことなく見覚えがあったんですよ。僕もこういった身分なので。」
そう言ってレンツさんは胸元からペンダントを取り出し、見せてくれます。
そこには、少し離れたところにある王国、ノイツェシュタインの印が刻まれていました。
「!……ということはレンツさんも……。」
「はい。だから、なんとなくわかりました。」
「このこと、グラッドさんは知っているんですか?」
「教えていません。教えてしまうと、きっと対等に扱ってくれませんから。」
一般階級の人の元で、10年過ごすこと。
それがレンツさんの家に古くからある伝統なのだとか。
そのために、身分を隠してグラッドさんの元に来たのだと、レンツさんは言います。
「なので、グラッドさんには内緒にしておいてくださいね?」
「はい……。それは、わかりました。」
最後まで道具を片付け終え、レンツさんは前にいるグラッドさんに声をかけます。
「グラッドさん、終わりましたよ。」
「よし、こっちもいい頃合いだ。今日はここまでにしよう。」
日が落ちきる前に休みどころを探す。
そう言ったことも、グラッドさんのところに来て教わったのだと、レンツさんの言葉を思い出しました。
こんばんは、Whoです。
昨日はすいません。
なんとか完成です。どうぞ。
最近お一人ですが、評価点をつけてくださる方がいまして。
ええ、喜びで机の角に足ぶつけました。
それぐらいうれしいです。ありがとうございます。
ではでは。




