side 信志
「あの……、信志さん。ちょっと相談したいことが……。」
グラッドさんとレンツくんが、馬車を出発させて少しした後。
アイリスが、不安げな表情で切り出してきた。
「いいよ。何?」
「はい。あの、メラーシュでの事なんですが……。」
「静かに!……なにかいるぞ……!」
何かが、いる。
グラッドさんのその声に、背筋がぞわっとする。
たった今アイリスが言いかけたメラーシュの事。
その二つが関連づいて、あの魔族の顔が、目が、声が頭をよぎった。
「ぁ……。ハァ……、ハァ……ハァハァ……ッ。」
息がつまる。
あの時死にかけた事実が、今頃現実味を帯びて襲ってきた。
怖い、逃げなきゃ。
逃げれない……。
そんな言葉が頭の中を回り始める。
「だ、大丈夫ですか?」
「よぉ。俺たちに気がつくとは、いい鼻してるじゃねえか。」
「お前ら……、盗賊か。なんのようだ!」
突然、息が荒くなったからか、アイリスが慌てて声をかけてくれる。
それに、なんとか手を上げて応えたところで。
近くの草むらが揺れ、馬車を囲むようにして、男達があらわれた。
「おーおー、こわいねぇ。」
「馬車と積荷を置いていきな!そうすりゃ命だけは助けてやるよぉ。」
「断る。お前さんらに渡すものなんてねぇ!」
「コイツ……!」
一歩も引かないグラッドさんに、盗賊がイラつき始める。
「メンドクセェ!一気にたたんじまうぞ!」
「ヒャッハー!やっちまいましょう!」
一歩前に出ていた盗賊が叫ぶと、周りにいた盗賊も次々と得物を抜く。
そのまま走り出し、一息にグラッドさんの目の前まで迫る。
「今更後悔したって、遅いからな!」
握った斧を振り上げ、そして。
「うるせぇ。」
「ガフッ……!」
振り下ろす直前。
グラッドさんの拳が盗賊の鼻先に突き刺さった。
「ぶっ……、テメェ!」
まさか反撃が来るとは思わなかったのか、盗賊は鼻を押さえて一歩下がる。
一人目に続こうとしていた、他の盗賊も驚いて立ち止まっている。
そして、それはこちら側も同じだった。
「グ、グラッドさん……?なんで……?」
「驚きました?グラッドさん、あれで、『拳闘士』なんです。」
今はご覧の通り、いち商人なんですが。
と、レンツくんがさりげなく説明してくれる。
いやいや、それにしたって……。
「クソ!怯むな、全員で一斉にかかれ!」
「チッ、面倒だな。おいレンツ!そっちのは任せるぞ!」
振り返りながら叫ぶグラッドさんの視線を追うと、盗賊が二人、後ろに回り込んでいた。
「はいはい、わかりましたよ、っと。」
「なんだぁ、おめぇ。俺たちの相手がおめぇに務まると思ってんのかぁ?」
馬車から飛び降り、腰から短剣を抜いたレンツくんを、盗賊が笑う。
「さぁ、どうでしょうか。やってみれば、わかりますよっ!」
「っ、こいつ!」
しゃべりながら一歩を踏み出し、一気に盗賊に肉薄する。
その速さに、一瞬驚いた盗賊だったけど。
「オラよ!」
まっすぐ突っ込んでくるレンツくんの真正面で、武器を振り下ろす。
自然と、吸い込まれるその一撃に。
「ほいしょ。」
そんな気の抜けた一言と共にレンツくんは駆け抜けた。
そして。
ガラァン……。
「ぐわぁぁ……。」
武器を振り下ろしていた盗賊は、手を押さえ地面に倒れこんでいた。
すごい……。
ほとんど何もみえなかった。
◇◆◇◆◇◆
「さて、これで全部ですかね。」
盗賊と遭遇してから数分後。
あらわれた盗賊は全て倒れ伏し、グラッドさんとレンツくんの足元に転がっていた。
「でもどうしましょう。このまま放っておいて、また襲われるのも嫌ですね。」
「そうだな……。何か縛るものでも積んでいたっけな……。」
「あ、それならボクが……。『スプラウション』」
盗賊の近くに丈夫な蔦を生やし、グラッドさんに手渡した。
「…………。」
受け取ったグラッドさんとレンツくんは、受け取ってしばらく眺めた後。
「使わせてもらおう。」
「ありがとうございます。」
そう言って、盗賊たちを縛り始める。
これは後で聞いた話だけど、その事をギルドや憲兵所へ報告すれば、人数や規模によっては報酬が出るのだそうだ。
縛り終わった後、馬車は再び走り出した。
こんばんは、Whoです。
アイリスが話そうとした矢先の襲撃。
なんとも間の悪い盗賊です。(しかもグラッドに顔面パンチもらったり……。)
それにしても、グラッドとレンツ強くしすぎたかな……。
ではでは。




