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花屋は商魂たくましい  作者: Who
幻の都編
40/159

side extra(交差する者達)

信志とアイリスがメラーシュの町を出て魔族と遭遇した頃。

近くを通る、馬車があった。


「うぅ……。やっぱりこの辺は、絶対なんかあるって……。」

「うるせぇ!くっちゃべってないで、しっかり働け、レンツ!」


馭者台に座った少年、レンツがこぼした一言に、後ろから怒鳴り声がする。

荷台には麦か何かが入った大袋と、木箱がいくつか。

その隣には大柄な男が、どっかりと腰を下ろしている。


「この道を通れば、次の街までの近道になる。なら通らない手は無いだろうが!」

「そうですけど……。でもですよ、グラッドさん。ここ最近、この道を通った人いないって聞きましたよ……。」


なおも気弱そうな事を言う少年に大柄な男、グラッドは思わず顎を撫でた。

実を言うと、グラッドも内心不安なのだ。

それでも、この道を通れば街に早くたどり着く事も確か。

安全性と利益。

その二つを天秤にかけて、彼は後者を取った。


「チッ、わかったよ。次の街に着いたら少し贅沢してやる。」

「わー、ほんとですか!なら頑張ります!」


現金なレンツに、ため息を一つ落としてグラッドは気持ちを切り替える。

確かに、この周辺はなんだか嫌な予感がする。

早めに抜けた方が良さそうだ。

そう思ったグラッドは、より一層レンツを急がせた。



◇◆◇◆◇◆



「うわ!うわわわわ!!」


荷馬車の程よい揺れと、日も沈んだ時間という事もあって、ついうとうとしてしまっていたグラッド。

レンツの叫び声と、次いでガクンと大きく揺れる馬車。

極め付けに横からの強い風を受けて、叩き起こされた。


「おい!しっかりやれ!!」


慌てて荷馬車の縁に捕まり、なんとか落車だけは避ける。

そして、自分が居眠りしていた事は一先ず棚にあげ、レンツを睨みつけた。

しかし、当のレンツはグラッドに目を向けないどころか、さっきから別の方を向いて呆然としている。

当然その状態では、きちんと御者の役目ができるわけもなく。


「……!止めろ!!」

「……え!?あ、はい!」


レンツが慌てて馬車を止めると、車輪のすぐ前に小さくない石が迫っていた。

もちろん簡単に横転するとは思えないが、大きく揺れてしまう。


「ふぅ……。」

ゴッ!

「あいた……!」


なんとか石を踏まずに済み、安堵のため息をつくレンツに、グラッドは後ろから拳骨を振り落とした。


「なぁにが『ふぅ……』だ、まったく……。」

「す、すいません。」

「で、一体どうしたん……。」


だ、と聞こうとして、グラッドは目にした。

どうしてさっきまで気づかなかったのか、不思議なほど大きくて、黒い塊。

もし、ここに日本から来た人間がいたならば、「キノコ雲」と称したかもしれない、塊。


「なんだ、これは……。」


その塊は、二人のいる場所から雑木林を挟んだ反対側。

つい最近までは(・・・・・・・)町があったらしい場所から出ていた。


「……、おいレンツ。お前……ちょっと行って見てこい。」

「はい!……って、え!ええ!?」


てっきり、すぐさまここを離れるのだと思っていたレンツは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

あの塊は自然に起きるものじゃない。

という事は起こした誰かがいるわけで……。


「逃げましょうよ……。僕らだって襲われるかもしれないじゃないですか……。」

「だめだ。あれが何か確認せずに行くわけにはいかん。」


ある程度調べて、この事態を付近の街に報告する。

普通ならそういった理由で、そうする人もいるかもしれない。

だが、別にグラッドがそういった考えをしているわけでは無い。

ならばなぜか。

怖いのだ、知らないという事が。

彼らは町や街を旅して、商いを行う行商人。

情報を知らない、という事は最悪、命にすら直結してしまう。


「俺は、ここで馬車を見ておく。……だからお前、行って来い。」


言外に、自分は安全な場所に残る宣言をされたレンツは、しばらくうじうじ悩んだものの、結局は御者台を降りた。

もともと、レンツはグラッドに拾われた身。

こういった場合に逆らうとろくな事にならない事は、今まで付き合ってきてよくわかっていた。


そしてその数分後。

林を抜けてもどってきたレンツが、焦って転びながら言葉を作る。


「倒れて気を失った二人組がいる。」、と。



◇◆◇◆◇◆



グラッドとレンツの二人がその場を去った後。

メラーシュの町のちょうど反対側にも、二人組の姿があった。

小柄な少女と、大柄な男。

二人とも、揃いのフード付きマントをつけていて、顔までは見えない。


「……なに、ここ。」

「ああ。報告ではここにあった町は、少し前に魔族によって滅ぼされたはずだが……。」

「……汚い魔力を感じる。……多分魔族のもの。」


言って、少女が持っていた杖を掲げる。


「……『サブリメーション』!」


口にしたのは浄化の魔法。

杖から出た粒子が、キラキラと輝いて町の方へ流れる。

そのまま、町を包み込んで……。


「……おさらば。」

キイィィィン…………。


気の抜けた少女の一言に合わせ、町全体が輝き始める。

そして。


「……綺麗になった。」

「何度見ても、鮮やかな手際だな。さて、では帰ろうか、サラ。」

「……ん、そうする。」


振り返って男、ガルマンを見やる。

サラとガルマンはとあるギルドに所属しており、ここに立ち寄ったのは偶然の事だった。

特に何事もなかったように、彼らは帰路につく。

腕を組んで立っていた彼を促し、歩こうとしたところで。


「……やっぱり疲れた。……おぶって。」

「よかろう。」


突然であっても、嫌な顔一つせずにサラを背負うガルマン。

そしてそのまま、歩き去っていく。

後ろには、廃墟と化した町。

より正確には、幻術で町に見えていたものが、廃墟にもどっていた。



◇◆◇◆◇◆



「こいつは……。」


サラ達が去って、4日程。

メラーシュのあった場所を訪れたのはヴォルドと、その下の兵隊達。

崖の上から見えるのは、廃墟となったメラーシュの町。

しかも建物に苔が生えていて、つい最近ではなく、しばらく前にこうなっていたように見える。

それが示す事は……。


「アイリス様……、勇者殿……。」


後ろから、ざわざわと兵達がざわめくのが聞こえて来る。

それを諌めもせず、彼は押し黙った。

この事を、どう報告したものか。


「…………。」


考えたところで、報告しなければいけない事に変わりは無い。

ならば、報告は早い方がいい。


「……よし、お前ら。帰還するぞ。」

「え、っと。いいんですかい?」


振り返った先で部下の一人が声をかけてくる。


「いいわけないだろ。だが、ここでできる事はない。俺たちに今できる事は、この事をいち早く姫様に伝える事だけだ。」


ヴォルドは、自分にも納得させるかのように言葉を作る。

実際、今できる事は少ない。

その中で真っ先にやるべき事は、やはり報告して指示を仰ぐことだ。


「おら、行くぞ!」


乗ってる馬の踵を返したヴォルドは、部下と共にその場を後にする。

その後に続く兵達も、ユーステスへ向けて馬首を巡らせる。

そうして、しばらく蹄の音がした後。

静かになったメラーシュの町跡で。


「……やっと静かになった。」


廃墟同然の建物から、一人の少女が顔を覗かせる。

一つ伸びをした後、彼女もまた、その場を去って行った。

こんばんは、Whoです。


分けようかなとも思ったんですが、結局まとめる事に。

ちょっと早足になりましたが、これにて「幻の都編」は幕引きです。


回収しきれてない伏線なんかも多々ありますが、それは追々という事で。

気長にお待ちいただければ、と。

次のお話はまだプロット詰め切れていないので、今週末は更新怪しいかもしれません。

サブタイも未定ですしね……。


ではでは。

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