side extra(交差する者達)
信志とアイリスがメラーシュの町を出て魔族と遭遇した頃。
近くを通る、馬車があった。
「うぅ……。やっぱりこの辺は、絶対なんかあるって……。」
「うるせぇ!くっちゃべってないで、しっかり働け、レンツ!」
馭者台に座った少年、レンツがこぼした一言に、後ろから怒鳴り声がする。
荷台には麦か何かが入った大袋と、木箱がいくつか。
その隣には大柄な男が、どっかりと腰を下ろしている。
「この道を通れば、次の街までの近道になる。なら通らない手は無いだろうが!」
「そうですけど……。でもですよ、グラッドさん。ここ最近、この道を通った人いないって聞きましたよ……。」
なおも気弱そうな事を言う少年に大柄な男、グラッドは思わず顎を撫でた。
実を言うと、グラッドも内心不安なのだ。
それでも、この道を通れば街に早くたどり着く事も確か。
安全性と利益。
その二つを天秤にかけて、彼は後者を取った。
「チッ、わかったよ。次の街に着いたら少し贅沢してやる。」
「わー、ほんとですか!なら頑張ります!」
現金なレンツに、ため息を一つ落としてグラッドは気持ちを切り替える。
確かに、この周辺はなんだか嫌な予感がする。
早めに抜けた方が良さそうだ。
そう思ったグラッドは、より一層レンツを急がせた。
◇◆◇◆◇◆
「うわ!うわわわわ!!」
荷馬車の程よい揺れと、日も沈んだ時間という事もあって、ついうとうとしてしまっていたグラッド。
レンツの叫び声と、次いでガクンと大きく揺れる馬車。
極め付けに横からの強い風を受けて、叩き起こされた。
「おい!しっかりやれ!!」
慌てて荷馬車の縁に捕まり、なんとか落車だけは避ける。
そして、自分が居眠りしていた事は一先ず棚にあげ、レンツを睨みつけた。
しかし、当のレンツはグラッドに目を向けないどころか、さっきから別の方を向いて呆然としている。
当然その状態では、きちんと御者の役目ができるわけもなく。
「……!止めろ!!」
「……え!?あ、はい!」
レンツが慌てて馬車を止めると、車輪のすぐ前に小さくない石が迫っていた。
もちろん簡単に横転するとは思えないが、大きく揺れてしまう。
「ふぅ……。」
ゴッ!
「あいた……!」
なんとか石を踏まずに済み、安堵のため息をつくレンツに、グラッドは後ろから拳骨を振り落とした。
「なぁにが『ふぅ……』だ、まったく……。」
「す、すいません。」
「で、一体どうしたん……。」
だ、と聞こうとして、グラッドは目にした。
どうしてさっきまで気づかなかったのか、不思議なほど大きくて、黒い塊。
もし、ここに日本から来た人間がいたならば、「キノコ雲」と称したかもしれない、塊。
「なんだ、これは……。」
その塊は、二人のいる場所から雑木林を挟んだ反対側。
つい最近までは町があったらしい場所から出ていた。
「……、おいレンツ。お前……ちょっと行って見てこい。」
「はい!……って、え!ええ!?」
てっきり、すぐさまここを離れるのだと思っていたレンツは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
あの塊は自然に起きるものじゃない。
という事は起こした誰かがいるわけで……。
「逃げましょうよ……。僕らだって襲われるかもしれないじゃないですか……。」
「だめだ。あれが何か確認せずに行くわけにはいかん。」
ある程度調べて、この事態を付近の街に報告する。
普通ならそういった理由で、そうする人もいるかもしれない。
だが、別にグラッドがそういった考えをしているわけでは無い。
ならばなぜか。
怖いのだ、知らないという事が。
彼らは町や街を旅して、商いを行う行商人。
情報を知らない、という事は最悪、命にすら直結してしまう。
「俺は、ここで馬車を見ておく。……だからお前、行って来い。」
言外に、自分は安全な場所に残る宣言をされたレンツは、しばらくうじうじ悩んだものの、結局は御者台を降りた。
もともと、レンツはグラッドに拾われた身。
こういった場合に逆らうとろくな事にならない事は、今まで付き合ってきてよくわかっていた。
そしてその数分後。
林を抜けてもどってきたレンツが、焦って転びながら言葉を作る。
「倒れて気を失った二人組がいる。」、と。
◇◆◇◆◇◆
グラッドとレンツの二人がその場を去った後。
メラーシュの町のちょうど反対側にも、二人組の姿があった。
小柄な少女と、大柄な男。
二人とも、揃いのフード付きマントをつけていて、顔までは見えない。
「……なに、ここ。」
「ああ。報告ではここにあった町は、少し前に魔族によって滅ぼされたはずだが……。」
「……汚い魔力を感じる。……多分魔族のもの。」
言って、少女が持っていた杖を掲げる。
「……『サブリメーション』!」
口にしたのは浄化の魔法。
杖から出た粒子が、キラキラと輝いて町の方へ流れる。
そのまま、町を包み込んで……。
「……おさらば。」
キイィィィン…………。
気の抜けた少女の一言に合わせ、町全体が輝き始める。
そして。
「……綺麗になった。」
「何度見ても、鮮やかな手際だな。さて、では帰ろうか、サラ。」
「……ん、そうする。」
振り返って男、ガルマンを見やる。
サラとガルマンはとあるギルドに所属しており、ここに立ち寄ったのは偶然の事だった。
特に何事もなかったように、彼らは帰路につく。
腕を組んで立っていた彼を促し、歩こうとしたところで。
「……やっぱり疲れた。……おぶって。」
「よかろう。」
突然であっても、嫌な顔一つせずにサラを背負うガルマン。
そしてそのまま、歩き去っていく。
後ろには、廃墟と化した町。
より正確には、幻術で町に見えていたものが、廃墟にもどっていた。
◇◆◇◆◇◆
「こいつは……。」
サラ達が去って、4日程。
メラーシュのあった場所を訪れたのはヴォルドと、その下の兵隊達。
崖の上から見えるのは、廃墟となったメラーシュの町。
しかも建物に苔が生えていて、つい最近ではなく、しばらく前にこうなっていたように見える。
それが示す事は……。
「アイリス様……、勇者殿……。」
後ろから、ざわざわと兵達がざわめくのが聞こえて来る。
それを諌めもせず、彼は押し黙った。
この事を、どう報告したものか。
「…………。」
考えたところで、報告しなければいけない事に変わりは無い。
ならば、報告は早い方がいい。
「……よし、お前ら。帰還するぞ。」
「え、っと。いいんですかい?」
振り返った先で部下の一人が声をかけてくる。
「いいわけないだろ。だが、ここでできる事はない。俺たちに今できる事は、この事をいち早く姫様に伝える事だけだ。」
ヴォルドは、自分にも納得させるかのように言葉を作る。
実際、今できる事は少ない。
その中で真っ先にやるべき事は、やはり報告して指示を仰ぐことだ。
「おら、行くぞ!」
乗ってる馬の踵を返したヴォルドは、部下と共にその場を後にする。
その後に続く兵達も、ユーステスへ向けて馬首を巡らせる。
そうして、しばらく蹄の音がした後。
静かになったメラーシュの町跡で。
「……やっと静かになった。」
廃墟同然の建物から、一人の少女が顔を覗かせる。
一つ伸びをした後、彼女もまた、その場を去って行った。
こんばんは、Whoです。
分けようかなとも思ったんですが、結局まとめる事に。
ちょっと早足になりましたが、これにて「幻の都編」は幕引きです。
回収しきれてない伏線なんかも多々ありますが、それは追々という事で。
気長にお待ちいただければ、と。
次のお話はまだプロット詰め切れていないので、今週末は更新怪しいかもしれません。
サブタイも未定ですしね……。
ではでは。




