side アイリス
「怖いんだ、本当は。それに、ちょっとだけ悔しい。……ボクは誰かの役に立つ『人』になろうと思っていたのに。」
信志さんのその言葉に、私はようやく思い出しました。
どこかで見たことがある顔?
そんなぼんやりとしたものではありませんでした。
それは他の誰でも無い、私自身。
毎日毎日、鏡で見ていた私の顔。
誰かの役に立ちたい。
でも、上手くいかない。
そのことに悩み続けた私の表情が、今の信志さんと重なります。
「……そう、ですか……。」
「……うん、そうだよ……。」
自分の考えに納得したことに、溢れるつぶやき。
それに返事が返ってきたことで、もう一つ思い出します。
なぜ、なかなか思い出せなかったのか。
それは、目の前にいるこの人が忘れさせてくれたからです。
見知らぬ場所に連れてこられて、自分も不安だったはずなのに、周りに気をかけてくれて。
それなのに私は、彼が「勇者」だからすごい、ぐらいに思ってしまっていました。
そのことに、ずっと気がつかなくて。
「……ごめん、なさい……。」
自分でも気がつかないうちに、彼の腕を取っていました。
それをしっかりと抱きとめて。
「ア、アイリス……?」
「ごめんなさい、信志さん。」
ポロリ、とこぼれてしまう涙と一緒に、謝ります。
私は、なにもわかっていませんでした。
わかろうとも、していませんでした。
信志さんも「勇者」である前に、一人の「人間」だということを。
「私だってそうでした。なのに、忘れていたんです。あの夜、信志さんが慰めてくれたから……。」
出会って、お父様が倒れてしまって。
何もできずに、外で泣いてしまっていた私を励ましてくれた。
信志さんにとって小さなことでも、私にとってはとても大事なこと。
だから。
私の精一杯の気持ちを、伝える。
「信志さんは、何も間違ってなんかいません!そう思うことは、誰にだってあります!」
「……それでもボクは一応勇者だ。でも、弱音を吐く勇者なんて聞いたことが無い。……弱いやつは勇者であってはいけないんじゃないかな。」
今ならわかります。
信志さんは自分を卑下しようとしている。
……私も同じだったから。
「……そんなことはない、と思います。私は信志さんに勇気付けられました。」
「でも、それは……。」
「信志さんにその気が無かったとしても、私が救われたことは事実です。」
誰かの役に立ちたいと、そう願って。
上手くいかずに空回りしてしまった私と、上手くいきすぎて空回りしている信志さん。
違いはそこだけ。
だから。
「一緒に考えましょう、どうすればいいのか。一人がだめなら二人で。」
あの日、信志さんにもらった分を返すために。
私では力不足かもしれないけど、彼を助けるために。
「…………。」
抱きついたままで、彼に顔を向けれない私には、信志さんの顔が見えないけれど。
小さく、こくりと頷くのを感じて。
「……ありがとう。」
ぼそり、と聞こえてきたその言葉が嬉しくて。
お互いの目から流れる水は、二人とも気付かない振りをしていました。
こんばんは、Whoです。
視点を短いスパンでころころ切り替えると、若干読みにくくなりますが、登場人物の内側を書けるので実は結構好きです。
さて。
「普通の人が異世界に行ったらどうなるか」というのを、ボクなりに書くとこんな感じになります。
異世界に行っても、本人の根本が変わるわけないので、すごい力を手に入れても、まぁ失敗しますよね、というお話。
ここからどうするかはその人次第、となるわけですが。
信志くんはどうなるでしょうか。
と、いったところです。
ではでは。




