side 信志
「こっちの世界に来るまで、ボクは普通の人だったんだ。」
アイリスに詰め寄られた結果、出てきたのはそんな言葉。
実際、ボクはなんの変哲も無い学生だった。
多少の個性はあっても、世間に名が知られるような個性はなかった。
そんなボクが。
この世界に、なんの偶然か呼ばれて。
勇者だなんだと持て囃されて。
この世界のために頑張ってみるのもいいか、なんて柄にも無いことを思った。
思って、しまった。
「……だからボクはボクなりに頑張った。普通なら面倒臭がって絶対にこんなことしない。」
おおよそ、勇者が言うべきでは無い台詞。
召喚して、勇者であるらしいボクに期待を持ってくれるアイリスには、言ってはいけない言葉。
それでも、口は止まらない。
止まってくれない。
「ボクは全然勇者なんかじゃない。誰かのためになんて頑張れないんだ。」
言ってしまってから我に返る。
今の台詞は、なんだかんだ言ってもボクの本心なのだけれど、ずっと言わないようにしていた言葉で。
「…………。」
その言葉を聞いた、アイリスの表情は見えない。
(……がっかりさせたかな。させただろうな。)
それでも彼女は優しい。
もしかしたら励ましたり、それでもいいと言ってくれるかもしれない。
だからこそ、ボクはその続きを言う。
彼女に嫌われて、見くびってもらうために。
これ以上、ボクに勇者の期待なんかをしないために。
「さっき、偶然町の人が話しているのを見たんだ。領主と鉱山の人と、それからスラムにいた人たち。みんなで何話してたと思う?…………ボクは『便利な道具』なんだって。」
言って、小さく笑う。
思った以上に乾いた笑いになってしまった。
そのことに、心の中でもう一度笑ってから。
「怖いんだ、本当は。それに、ちょっとだけ悔しい。……ボクは誰かの役に立つ『人』になろうと思っていたのに。」
「…………。」
アイリスは、無言のまま。
怒っているだろうか、それとも悲しんでいるだろうか。
表情が見えないのでどちらかはわからないが、これだけ情けないことを言ったのだ。
きっと、嫌ってくれたはず。
「……そう、ですか……。」
「……うん、そうだよ……。」
アイリスがまた黙り込んだので、つられてボクも口を閉じる。
……もうボクが言うべきことは言った。
静かに、アイリスの言葉を待つ。
待つ。
待って……。
……ぎゅっ。
突然腕が、隣から柔らかいものに包まれる。
より正確には、アイリスのいる方向から。
「……ごめん、なさい……。」
おどろいてそちらを見ると、アイリスの頭が近くにあった。
「ア、アイリス……?」
「ごめんなさい、信志さん。」
人間、突然のことには呆然となるらしい。
今がまさにその状況だろうか。
いきなり泣き出してしまったアイリスに、ボクは固まっていることしかできなかった。
あぁ、でも。
そんな目で見ないでくれ。
そんな、仲間を見るような顔で。
こんばんは、Whoです。
寒い日が続きますが、なんとか元気でやってます。
さて、もうそろそろ2章も終わりになります。
思えば初めて投稿したのが4月なので、もうじき1年ということに……。
その割には話進んでませんが。
次の章では新しいキャラも……と考えております。
わかりやすい話にしたいな、とも。
よければ、感想などお聞かせくださいね。
ではでは。




