side 信志
目をさますと、見たことのある天井だった。
(あれ。いつの間に館までもどってきたんだっけ?)
確か先ほどまで、外にいたはずだ。
なのに今は、屋内の見たことのある天井を眺めている。
えーと、確か……。
前に助けた子供がもう一度、と頼んできて。
とくにすることもなかったから、承諾して。
それから……。
こんこんこん。
がちゃ。
「信志さん!起きたんですね!」
控えめなノックの後、アイリスが部屋に入ってくる。
その顔を見て、ようやく思い出す。
また、倒れたのだ。
思えばこちらに来てから倒れてばかりだ。
大丈夫なんですか?と聞いてくるアイリスに、大丈夫と手を振る。
「ちょっと無理しちゃったみたいなんだ。」
「そう、なんですか。…………あの、信志さん。」
「ん?なに?」
「……その。体は大事にしてくださいね?」
「うん、気をつけるよ。」
なおも心配そうにするアイリスに、もう一度大丈夫と伝え、立ち上がる。
伸びをして窓の外を見てみると、すでに空は暗くなりつつあった。
◇◆◇◆◇◆
夜。
食事を済ませたところで、メルトさんが入ってくる。
「失礼。……おや、ちょうど食事終わりでしたか。」
「はい、どうしたんですか?」
「兵たちの回復が概ね完了しました。明日には王国へ向けて出発できるかと思います。」
「そうですか、分かりました。……では明日の朝にしましょう。」
「はい。……では、失礼します。」
一礼して、扉から出ていくメルトさんを見送った後。
アイリスがこっちを振り向いて。
「信志さんも、今日はしっかり休んで下さいね?」
「分かったよ、ありがとう。」
「…………。」
心配そうにこちらを見る、アイリスの視線を避けるようにして、ボクも部屋を出た。
「……おやすみなさい」
最後に聞こえた、アイリスのその声は。
何かを悲しんでる声に聞こえた……気がする。
「?あれは……?」
部屋を出てすぐ。
廊下の先に見える景色が、ぼんやりと明るい。
もちろん館にも、町にも明かりはある。
でも、それを差し引いても、その明かりは妙だ。
なにか、焚き火でもしているかのような……。
(…………。少しだけ、少しだけなら…………。)
いつもなら、特に気にせずベッドへ向かうのだけれど、今回はどうにも、足が外へ向いてしまう。
…………。
この時間に外へ出るのは、少しばかり面倒くさいけど。
(これも、最初に思ってしまったからなのかなぁ……。)
その言葉でとりあえず自分を納得させて、こっそり外へ出る。
やけに静かな、他に物音のしない中。
明かりの方へ、足を進めて行った。
◇◆◇◆◇◆
たどり着いたのは、スラムに入る所にある広場。
そこに、何人かの人たちが集まっていた。
「あれは……領主と、鉱山の人……?」
よく見れば、スラムで見た人たちもいる。
そんな、少し不思議なメンバーで焚き火を囲んでいる。
それが気になって、ボクも混ざってみようかと一歩踏み出す。
でも。
「それにしても、便利なものだな。勇者とやらは。」
「まったくです。俺たちの働きがあいつ一人で済むんですから。」
「ははは、違いない。」
領主との会話が聞こえてきて。
二歩目が出なくなった。
この町には天野くんも、間くんもいない。
勇者というのは、まず間違いなくボクの事だ。
それが……「便利なもの」?
「っ!」
変な声が出そうになって、咄嗟に口を押さえた。
今ここで下手に音を出すのはまずい。
ギリギリで声を出さずに済んだボクをよそに、会話はさらに進んでいく。
「しかし、彼らももうじき戻ってしまうのでしょう?」
「そこは心配ない。今朝、大臣を餌に困っているふりをしておいた。」
「さすがは領主様。……で、その大臣様はどちらに?」
「さてなぁ。今頃はもう地面の下に埋まっているのではないか?」
聞きとれたのはそこまでだった。
領主が大臣の話をし始めたあたりで、踏み出した足を引く。
そしてそのまま。
ゆっくりと、次第に速く。
その場所に背を向けて、離れる。
「ハァ……ハァ……ハァ。」
息が切れそうになっても構わずに走り続ける。
幸い、誰にも見つからなかったようで、そのまま離れることができたけれど。
わかってしまったのだ。
彼らにとって勇者は特別でもなんでもない。
「ただの便利な道具」なのだ。
「ハァ……ハァ……。」
始めは、それでもいいかとも思っていた。
でも、ここの人と接していくうちに、なんだか認められたような気がしていた。
魔物と戦う力はないけれども。
ボクも、勇者として誰かの役に立てるのだと、そう思っていた。
「ハァ……くそ……。」
多分役に立っていることは、役に立っているんだろう。
でもそれは、誰でもよかったのだ。
たまたまそれがボクだっただけ。
「…………。」
もう息をつく元気もなくなって無言になる。
それでも走り続けた結果。
ガッ、ドサッ。
小高い丘の上で見事に転ぶ。
とっさに手をつくこともできなくて、顔から地面に突っ込む。
顔面を泥だらけにして、転がり回る。
涙が出そうになった。
……実際は少し出ていたのかもしれない。
利用されていたくやしさと。
そのことに、こんなに傷ついてしまっている自分のみっともなさと。
いろんな感情で、ごちゃ混ぜになった顔を晒しているところに。
足音。
「っ。信志さん!」
顔を上げなくてもわかる。
今は会いたくなかった顔。
勇者としてのボク、椿信志が会ってはいけなかった顔。
(アイリス……。)
どうして……、と思ってから、腕を見やると。
最初に会った時に着いた腕輪がそこにはあった。
あけましておめでとうございます。
そしてこんばんは、Whoです。
みなさん知ってましたか?なんと今日はお正月らしいですよ。
どうりで寒いはずです。
今年もがんばっていきますので、おつきあいいただけたら幸いです。
ではでは。




